『エヴァンゲリオン』とともに生きた25年 アスカ役・宮村優子が乗り越えたトラウマと持ち続けた14歳の気持ち
【映像】ABEMAでみる
この記事の写真をみる(2枚)

 3月8日の劇場公開から、シリーズ作としては過去最高のヒットとなっている『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。テレビシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』から数えて25年半、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズの最新作にして完結編は多くの人の感動を呼び、また長年作品に携わってきたキャストにも、いろいろな思いを抱かせている。テレビ版・その劇場版では惣流・アスカ・ラングレー、『新劇場版』シリーズからは式波・アスカ・ラングレーを演じてきた宮村優子にとっても、この作品に携わったことで日本のアニメに対する価値観が大きく変わるその瞬間を、強く重く感じることとなった。集大成を迎えた今、どんな思いが胸中を占めているのか。

【動画】ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

 アフレコ時、庵野秀明監督に最後にかけられた言葉は「本当にありがとうね。アスカが宮村でよかった」だったことを覚えている。収録が終わった後、リテイクが何度か入ったが、節目としてもらった言葉は、これだった。

 宮村優子(以下、宮村) 今回の作品を観てもらうとわかると思うんですけど、本当に監督がみんなに愛を注いでいる。私にも「よかった」と言ってくれているし、みんなにも他のキャストにも感謝していらっしゃるんだろうなと。全スタッフ、全キャストにお礼を言っているような感じでした。

 『新劇場版』シリーズだけでも、1作目の『:序』から数えて14年の歳月が過ぎた。長期間、同じ役を維持するという難しさが、声優にはある。式波が登場したのは『:破』から。惣流とはまた異なる、しかしアスカでもあるという苦労もそこにはあった。

 宮村 ちょくちょくゲームとか、パチンコとかでアスカをやってはいても、本編のアスカはずっとやっていなかったですからね。『:破』の時が、久々に本編のアスカでした。でも式波ちゃんと惣流ちゃんが別人だと最初から自分の中で決めていたし、監督も別人と言っていたので、式波ちゃんは式波ちゃんで、別に一から作ったという感じです。式波ちゃんが『:破』から『:Q』で、14年の時を過ごすんですが、全然肉体的には変わっていないのに、精神的に14年間経って大人になっているのを、どうすりゃいいんだろうと。肉体が変わっていないってことは基本的に変わっていないんだろうけど、声はやっぱり精神的なものから来るから、ちょっとどこか大人なのかなと役を作りました。

 技術的なことも当然だが、何より自分の中に14歳の部分を持ち続けていなくては、演技の根幹が保てない。日々の生活から「14歳の気持ち」を保つために心がけていることは、いくつもあった。

 宮村 普段の生活とかでも、大人になりきれていない自分はありましたね。14歳の時の気持ちを忘れちゃいけないというか。大人になると、つい忘れちゃいがちになるじゃないですか。でも、もう忘れていいんだと思うと、肩の荷が下りたかもですね。老け込んでいっていいのかなと(笑)。たとえば今、『:破』の時の14歳の式波をやってと言われたとして、その式波のエネルギーは若いから、普段から下地を作っていかないといけない。いきなりボーン!って若くなれないじゃないですか。例えば私は、専門学校の声優科で教えているんですけど、親子ほど歳が離れている生徒さんと「にじさんじ、好きだよね!私も大好きで、推しは叶で、葛葉で!萌え!推しキャラ!」とか話して、ワクワク感を保っているんです。若作りをしているわけじゃなくて、役作りです(笑)。

 自身には1人、高校生になる娘がいるが、アスカもまた自分の娘のようなもので「本当に長女ですよ、長女」。ただ、最初に演じた“長女”惣流との思い出は、もちろん当時の大ヒットがあってこその今ではあるが、苦しい思いは作品の中でも外でもたくさんあった。

 宮村 惣流ちゃんは、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版』であんな目に遭っているから、式波ちゃんより相当かわいそうなんです。私、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版』が怖くて、何年も観られなかったです。弐号機が量産型にやられちゃうシーンがあるじゃないですか。ファンの方には、あそこがすごく好きっていう人も多いんですが(笑)。だから観直して、セリフを言ってくださいって言われてもできるように準備はしたんですけど、お客さんから好きっていわれなかったら「二度と観るもんか!」と思っていたぐらいですね。

 テレビシリーズ、さらにその劇場版は社会現象にもなり、宮村の環境を一変させた。それまでは一部のコアなファンによる楽しみ、という認識も強かったアニメ。これを演じる声優の人々にもまた、今とはまるで違った視線が送られてもいた。さらに、目や耳に届くファンの意見もまた、SNS全盛時代の今とは異なり、かなり偏りもあった。

 宮村 1995年とか1996年ごろは、本当につらかったです。日本がまだ全然アニメに対して寛容じゃない時代でした。ただのアニメ作品に出たはずなのに、まつり上げられちゃって「なんでこんなことになってんの!?」と。そういう時は一番つらかったですね。そんなにつらいのに、映画では量産型にやられちゃうし「本当につらいんだけど!」って。でも、今みたいにSNSもなかったから、本当につらいと言える場所もなかったんですよね。ファンレターも、当時はものすごく偏った意見が届くけど、本当にたくさんのみなさんが思っていることって届かないんですよ。でも今は見たらみなさん、すぐにSNSとかでつぶやくから、どれだけアスカのことを愛してくれているんだろうとか、こんなに心配してくれていたんだとか、私に伝わって本当にありがたい、心強いな、見守ってもらっているなと思えました。

『エヴァンゲリオン』とともに生きた25年 アスカ役・宮村優子が乗り越えたトラウマと持ち続けた14歳の気持ち
拡大する

 人気が出たからといって、誰もが幸せに感じられるとは限らない。注目してくれる人は増えたとしても、それは仲間や同志が増えたことではない。むしろ真逆に、孤独を感じることも多かった。

 宮村 当時は本当に孤独だったんですよ。人気があると言われてはいても、本当に孤独で、作品でもひどい目に遭わされる。現実世界でも「今人気のアニメ、『エヴァンゲリオン』の声優さんです!」って呼ばれてテレビに行っても、異端児扱いですよ。「は?声優?何それ?」みたいな。「すいません!こんなところ来てしまって、すいません!」と思っていて、本当に怖かったです。でも、ちょうど英語版の吹き替えをやっていた声優のティファニー・グランドさんと海外のコンベンションで会った時、「アスカは本当につらい目に遭って、つらかったよね」と言ってくれて。その時に初めてアスカの気持ちをこんなにわかってくれる人に会えたと思いましたね。アスカを演じているから、その気持ちが絶対にわかるじゃないですか。「うわーっ、よかった!地球上に1人はいてくれたんだ」と、すごく思いましたね。助かったなと。今は本当に時代が変わって、いろいろな人の考察、意見、感想をバンバン聞けるんで、本当にありがたくみなさんの気持ちを受け取らせていただいています。こんなにみんながアスカの心配をしてくれたり、こんなにアスカの行く末を案じてくれたり、幸せを願ってくれたり。『新世紀エヴァンゲリオン劇場版』の時も、きっとそうだったんだろうなと。ただ聞こえなかっただけだと思って、当時は本当に辛い思いもありましたけど、今は解消しました。

 25年半という月日は、『エヴァンゲリオン』シリーズによって、日本におけるアニメの立ち位置が大きく変わった四半世紀だったといっても過言ではない。今でも、他のアニメ作品に『エヴァンゲリオン』のオマージュが入ることも多く、それだけファンだけでなく制作者たちにも多大な影響を与えている。

 宮村 アニメーションが、本当に日本の中心に来たっていう25年間でしたね。25年前のブームの時は、アニメーションというジャンルの中ではすごく盛り上がっていたし、一般にも受け入れられてはいたけれど、まだまだ「エヴァ?聞いたことあるけど?」ぐらいでしたから。でも今は、アニメが日本のど真ん中に来ていても誰も不思議に思わないし。私、コンビニで初めてアニメーションの画を見たのが『エヴァ』なんです。それまでアニメの画なんて、コンビニになかったんです。今なら一番くじとかいっぱいありますけどね(笑)。その時に『エヴァ』特集をした一般雑誌が本棚に並べられていて驚きました。本屋さんの隅っこのアニメコーナーじゃなくて、こんなに人の目につくコンビニの雑誌売場に『エヴァンゲリオン』とか、レイちゃんのピチピチのプラグスーツ姿とか「これが並んでいいの?白日のもとにさらしていいんでしょうか!?」と思っていたのが、全然時代が変わって、みんなが大好きな世界になっている。私は海外にいましたけど、『エヴァンゲリオン』と言ったらみんなが知っていて、「アスカ大好きです」と言ってくれるファンがいっぱいいる。世界がつながっているなと今は思えています。日本の文化の一つ、『エヴァンゲリオン』が地球全体、世界からも愛されているし、すごい25年でした。

 シリーズとしては、大きな節目を迎えた『エヴァンゲリオン』。ただテレビシリーズ、その劇場版、『新劇場版』シリーズは、これからも多くの人が体験していく作品だ。「『エヴァ』って、ただ作品を観るというよりは、自分の心に何か訴えかけてきて答えを探して、みたいなアニメだから、人にすすめられるよりは、いつか観るべき時が来たら観たらいいですよ」。宮村がそう言うように、今までのファンだけでなく、新たなファンも生み出しながら、ずっと生き続ける。

◆『エヴァンゲリオン」シリーズ作品

 1995年にテレビシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』がスタート。汎用ヒト型決戦兵器・人造人間「エヴァンゲリオン」と、そのパイロットとなる14歳の少年少女、謎の敵生命体「使徒」との闘いを中心に描かれると、その斬新な設定やストーリーから全26話放送後にも社会現象になるほど注目された。1997年には、テレビシリーズとは異なる結末を描いた『劇場版』が公開に。それから10年後、設定・ストーリーをベースに再構築した『新劇場版』シリーズの公開がスタート。2007年に第1作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』、2009年に第2作『:破』、2012年に第3作『:Q』、そして2021年に最新作にして完結編の第4作『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開された。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
絶賛公開中
総監督:庵野秀明
(C)カラー

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q
この記事の画像一覧
この記事の写真をみる(2枚)