7日、ソウルと釜山で市W市長選が行われ、共に野党が勝利した。与党は、ソウルではおよそ18ポイント差、釜山では30ポイント近い大差で敗北を喫した。
文政権の「審判」を掲げた野党が大きな支持を集めた今回の市長選に、ソウル市民からは「市民の心が離れてしまった状況だった。今回の結果は当然だ」といった声が上がる。
【映像】2012年に竹島に上陸した李明博大統領(当時) ※17分30秒ごろ~
今回の市長選は来年3月に行われる次期大統領選挙の“前哨戦”だった。市長選の惨敗に文在寅大統領は「国民の叱責を重く受け止め、より低姿勢で国政に臨む」とコメントした。
大統領に就任して4年。就任演説では「機会は平等だ。過程は公正だ。結果は正義のものとなるだろう」と平等、公正、正義を強く訴えていた文大統領だが、不動産政策の失敗や不祥事など、政権発足当時に掲げた政策の理想からほど遠い現実がある。そして、政権初期には8割以上を誇った支持率にも衰えが見える。
任期は残り1年1カ月、窮地の文政権はどのような政策運営を迫られるのか。また、日韓関係にどのような影響を及ぼすのか。ニュース番組『ABEMA Prime』では、専門家とともに考えた。
■経済格差を是正できなかった文政権 セクハラ問題に端を発した“選挙戦”で惨敗
慶應義塾大学教授・現代韓国研究センター長の西野純也氏は与党の敗因について「不動産の問題が一番大きかった」と指摘する。その上で、2つの選挙が行われた理由に言及。今回の選挙戦は、ソウルではセクハラ行為を告発された与党系市長が自殺、釜山でもセクハラ問題で党系市長が辞任した。
「前職の市長は、2人とも与党だったが、いずれもセクハラ問題があった。それにもかかわらず再び与党が候補を出して、その候補が、与党陣営が起こした事件について十分反省をしていないかのような印象を国民に与えてしまった」
コロナ禍も影響し、景気が不安定になっている韓国だが、不動産価格は異常な高騰を続けている。一体なぜなのか。西野氏は「住宅を手に入れることは庶民の夢」と明かす。
「韓国の人にとって不動産は重要な投資、あるいは投機の対象。しかし、文政権によって、値段がどんどん上がってしまい、庶民の夢がもう叶わない。公平、公正、公平さを掲げてスタートした政権なのに、文政権によってさらに格差が開いてしまった。この失望が非常に大きいと思う」
財閥と呼ばれる大企業に富が集中し、経済格差が問題になっている韓国。西野氏は「文政権はそれを少しでも是正しようとスタートしたが、全く是正できなかった」と話す。
「韓国の経済は非常に偏っている。それは財閥と呼ばれる存在から明らかだ。政権ごとの不動産価格の上昇率を見てみると、文政権は非常に上昇が大きかった。むしろ、文政権が批判をしていた保守政権、前の朴槿恵政権や李明博政権の方が上昇率は若干穏やかだった。それが国民の不信や不満、反発を買ってしまった」
そもそも不動産価格は政府がマネジメントできるものなのだろうか。西野氏は「基本的に経済は需要と供給の関係、あるいはマーケット、市場の論理で動くものだ。不動産価格を抑制する政策をこれまで何回も歴代の政権も、文大統領もやってきたが、政府の介入には限界がある。文政権はそこをなんとかしようと意気込んでいたが、結果的にはそれが実現できなかった」と見解を示す。
低迷する文政権の支持率。南北融和を掲げ、北朝鮮との対話を模索してきたが、これがうまくいっていないことも支持率に影響を与えているのだろうか。
「確かに南北関係が十分に進んでいない不満は、文政権の支持層にあるだろう。一方、一般的な国民からすると、文政権の発足時は、朝鮮半島で戦争が起きるかもしれない危機的な状況だった。その危機を収拾して、南北関係を一定程度進めた部分については、文大統領にそれなりの評価はある。国民からすると『これ以上、朝鮮半島の緊張が高まらない程度に管理してくれればいい』という程度なのでは。南北関係の停滞は、それほど大きく支持率に影響を与えていないと思う」
すると、ネット掲示板『2ちゃんねる』創設者のひろゆき氏は「北朝鮮とメチャクチャ仲良くする、もしくは融和をして、国同士の出入りをヨーロッパのように簡単にしちゃうとか、大きなことをやると動きは変わってくるのでは」と発言。これに西野氏は「文政権は最後まで南北関係をなんとかしようと努力し続けるだろう」と推測する。
「文政権は一貫して、南北関係の改善を望んでいる。南北で自由に行き来できるようになれば一番いいのだろう。新型コロナの問題では北朝鮮に協力したいと強く思っている。それをきっかけにしようとしているが、北朝鮮は全て無視している状況なので、なかなか難しい。文大統領は、おそらく任期の最後の瞬間まで南北関係をなんとかしようと努力し続けると思う」
また、西野氏によると、今回の文政権の支持率低下は、かつて支持していた40代以下の若者層が影響しているという。
「韓国の場合、60代、50代後半以降の高齢層は、保守政権を支持してきた。他方で40代以下の若者に近い層は、今の政権や進歩党を支持していた。しかし、今回の選挙で明らかになったのは、20代、30代がかつて文政権を支持していたのに、今回は野党候補を支持した。なぜかというと、若い人ほど、文政権に対して期待をしていたからだ。就職できなかったり、生活が苦しかったり、それをなんとかしてくれると期待していたが、全然そうならなかった。むしろ文政権の人たちが自分の娘や息子に特権を与えるような行為をして、公正や正義を裏切る行為をしていた。それに対する怒りは非常にある」
足元が大きく崩れ出している文政権だが、これは韓国だけの問題ではない。日韓関係は、いまだ慰安婦問題や徴用工問題を抱え、過去最悪とまで言われている。文政権の支持率下落は、今後日本にどのような影響を与えるのだろうか。
「文政権が支持率を再び上げるために『反日カードを切るのではないか』とか、あるいは逆に日韓関係を改善しようとしている文政権の力が落ちたことで『日本との関係に影響が出てくるのではないか』という声もある」
ここでひろゆき氏は「どのような“反日カード”が出てくると予測されるか」と西野氏に質問。西野氏は「心配されているような“反日カード”を切る可能性は低いだろう」と語る。
「個人的に文政権は最初から日本に対して厳しい政権だったと思う。むしろ今は日本との関係を何とか改善あるいは管理しようとしている状況。逆に(支持率低下によって)文政権が管理しようとしている日韓関係を管理できなくなる可能性がある。例えば、歴史問題についても前に進めるためには韓国の国民に『こういう方向で行きたい』と大統領が説得する必要がある。だが、支持率が低い大統領の言うことは、国民も聞いてくれなくなる。そういう意味で日本との関係を含め、あらゆる政策を決めて推し進める力がなくなってくる。それが日韓関係にもマイナスになると思う」
過去には反日姿勢を鮮明化したことで、自身の支持率を上げてきた文大統領。“反日カード”は支持率アップにもう効かないのだろうか。
「反日を貫き通すことは、文政権の支持層にはアピールになるのかもしれないが、多くの韓国国民は日韓関係があまりにも悪くて『このままで大丈夫なのか』と心配していると思う。前の大統領のように竹島に行ってしまうのではないかとか、より強硬な態度を取るのではないか、と。私もその可能性はゼロではないと思うが、ただ同時に今の文政権は朴槿恵政権や李明博政権に対して非常に批判的な政権。『朴政権や李政権と同じことはやらない』という強い考えを持っている」
レームダック化(※政治的な権力・影響力を失い、役立たずな状態)しているとも言われる文政権。韓国国民が求める公正・公平な社会の実現はいつ訪れるのだろうか。
(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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