本当に必要なのは罰か、それとも教育か…迫る少年法の厳罰化、被害者家族の割り切れない思い
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 来年4月に成人年齢が18歳に引き下げられることに合わせて政府が閣議決定した少年法の改正案。

 現行の制度では、家庭裁判所から検察官に逆送致され、成年と同様に刑事裁判で審理されるケースは殺人や傷害致傷などの重大犯罪に限られてきた。今回の改正案は、新たに18、19歳を「特定少年」と位置づけ、1年以上の懲役刑、もしくは禁錮刑になりうるケースを全てを逆送の対象とする、実質的な厳罰化方針だ。 ちなみに2018年の少年犯罪で検挙人数は約2万で、そのうち逆送されたのは9件に過ぎないが、この改正案を当てはめると、その件数は131件になる。

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本当に必要なのは罰か、それとも教育か…迫る少年法の厳罰化、被害者家族の割り切れない思い
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 改正案について、上川陽子法務大臣は先月29日の衆院本会議で「18歳および19歳の者は社会において責任ある主体として、積極的な役割を果たすことが期待される立場となった」と説明しているが、少年法の目的が「更生」や「保護」であり、近年は少年犯罪も減少していることから、「軽い罪でも逆送致されてしまえば更生するための教育の機会が失われてしまう」と改正案を疑問視する意見も根強い。また、今月6日には一橋大学の本庄武教授らが会見で「整合性を欠く法律案ではないかと考えている」と述べるなど、法曹界からの反対の声も少なくないのが実情だ。

■必要なのは厳罰か、それとも矯正教育か…

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 20年前、15歳と17歳の少年が起こした暴行事件で息子の悠さん(当時16歳)を亡くした青木和代さんは、“厳罰化は当然”との立場を取る。

 「悠は交通事故に遭って半身不随になったが、辛い辛いリハビリを乗り越えて、やっと少し歩けるようになった。通院のために定時制高校へ行っていたが、学校の先生から“大学を目指すなら普通科へ行った方がいい”と言われ、勉強の末に合格した。そして“合格のお祝いにカラオケに行こう”と呼び出され、待っていたのが小学校での、2時間にわたるリンチだった」。

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 事件が起きたのは、刑事処分が可能となる年齢を「16歳以上から14歳以上」に引き下げた改正少年法が施行される前日の2001年3月31日。結局、主犯格とされた15歳の少年には刑事責任を問うことができず、2人とも少年院へ収容され、1~2年で社会復帰した。

 「2人が施行日のことまで考えていたとは思わないが、人の命を奪えば自分の命を差し出さなければならない、ということが分かっていれば、あんなことはしなかったとは思う。悠の苦しみ、悲しみ、恐ろしさを考えれば、どうして裁判官は加害者を擁護するのか。なぜ1、2年の少年院送致なのか、許せない。人の命を奪うことを一緒に考えるというのはおかしいし、“少年だから”とか、矯正教育とかとは別に、犯した罪に対してはやはり厳しい罰を与えてもらいたいと思う。私としては、死刑か、一生刑務所に入っていてもらいたかった」(青木さん)。

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 一方、「更生」「保護」の現場に長年携わってきた元浪速少年院長の菱田律子さんは「青木さんのような重大事件の遺族の活動に対しては心から敬意を表したいと思う。その上で申し上げると、少年院に来る子たちには本当に様々なマイナス要因があり、送致されるのはその結果という側面がある。重大事件に至る前の少年たちのことも、どうか考えて欲しいと思う」と話し、少年院での矯正教育の意義を強調する。

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 「今回の法改正によって特定少年となった子たちが全て刑務所に行くとお思いになる方もおられるかもしれないが、実はそうではない。起訴されたけれども罰金で終わる場合、あるいは執行猶予で終わる場合の方が現実的には多く、その場合、ほとんど“野放し”と同じだ。つまり当事者である少年からすれば、逆送されずに家裁で審判を受け、保護観察、少年院送致となった方が現実的には重い処分ということになる。殺人事件についても、家族殺人が多く、個別に事件を見ていけば、本人も実は被害者だったというケースもある。

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 また、刑務所を出た人と少年院を出た人を比べると、再入院率は後者の方が明らかに低いし、私自身が関わった少年たちも、それなりに頑張ってくれていると、聞いている。私は刑務所にも勤務していたことがあるが、その経験からしても、むしろ“大人の少年院”が必要だと思うくらいだ。その意味では、少年法の適用年齢を引き下げるよりも、上げた方が良いかもしれない。現実に少年事件、特に凶悪事件は減っているし、今回の改正案は、民法改正に合わせたような、いかにも取ってつけたような改正だ。そういう現実もご理解いただければと思う」。

■実名報道は犯罪抑止?それとも更生の妨げ?

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 もう一つの大きな論点が、「実名報道」の問題だ。今回の改正案では起訴後の特定少年に関する実名報道が“解禁”されることになる。

 菱田さんは「起訴=有罪ではなく、無罪になることもあり得る。ごくごく稀な例だが、冤罪だったということもあり得る。それからあまり知られていないが、少年法第55条では、刑事裁判の結果、“保護処分が相当だ”と判断され、家庭裁判所に再び戻されるということもある。万引きは窃盗だが、現場で店長さんともみ合えば強盗、特定事件として検察送致になり、立ち直りのチャンスを奪ってしまうことになる。結果、再犯を繰り返せば、一生を税金で食べていく人になってしまう可能性も出てくる。重大事件の少年は別として、社会としてどちらがより適切なのかといえば、この18歳、19歳の人たちを教育をする方が妥当ではないか。その意味からも、実名報道には反対だ」と訴える。

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 これに対し、青木さんは「様々な例があるし、人の命を奪ったケースと、物を盗んだケースを一緒に考える、そして少年だから一括にするのはおかしいが、名前が出るのが嫌、写真が出るのが嫌だというのなら、悪いことをしなければいいということだと思う。被害者の場合は名前も住んでいるところも、全て新聞に報じられてしまう。しかし加害者は少年だからということで守られる。私は調書などで加害者がどんな人物なのかがある程度は分かっているが、一般の方は自販機でジュースを買おうとしたときに、隣に少年が立っていてもわからない。そこで“目が合った”と因縁をつけられて暴力を振るわれるかもしれない、と考えたらどうだろうか。やはり実名を報じてもらった方が、世の中のためにもいいと思う」とコメント。

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 その上で、「矯正教育と言うにはおこがましいが、実は私は少年院で講演もしている。やはり加害者になる子には幼い頃に虐待やいじめを受けているケースも多く、幸せになってもらいたいと一生懸命に育ててきた我が子の命を奪われた被害者がどんな思いで生きているのかを全て伝え、“あなたたちには命があるから、やり直しもできるから頑張って生きて欲しい”と訴える。こうした話を聞いた少年たちは再犯をしないらしい。ここまでの私の主張とは矛盾した言動かもしれないが、そのようにすることで再犯が無くなり、私のような遺族が増えないことを願っている」とも話していた。

■社会的制裁が続いてしまう現実も

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 議論を受け、「BlackDiamond」のあおちゃんぺは「私の周りでは、少年院に入っていたことが武勇伝になっているような子ばかりだった。少年法があることで“やったもん勝ちになるのが一番良くないと思うし、更生の余地があるからと社会に戻され、溶け込んでしまうのが怖いという思いもある」とコメント。

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 また、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「今回の法改正は民法の成人年齢が18歳になるのに合わせたのであって、少年の刑法犯が増えているからといった理由ではない。そこにまず誤解があると思う。その上で僕が菱田さんの話を聞いていて思ったのは、刑務所よりも少年院の方が更生しやすいということを踏まえて、厳罰化か否かではなく、少年も含めてなぜ再犯してしまうのか、ちゃんと更生するにはどうしたらいいのか、という方向に議論を持っていくのが健全だと思う。

 実名報道についても、それ自体の是非だけでなく。少年なのか成年なのかを問わず、メディアやSNSによって情報が残り、社会的制裁を受け続けてしまう議論もすべきだと思う。最近では企業が採用時にSNSでどんな活動しているか、といったこと見たりする。そういう時に、過去に起こした事件を理由に採用されたり、クビになったりするということが一生続いてしまう可能性もある。それで本当に良いのか、という議論だ」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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