ワクチンを接種した人が3000万人を超え、今週から屋外に限りパブなどの営業が認められるイギリス。ジョンソン首相は、新型コロナウイルスのワクチンを接種したことを証明する、いわゆる「ワクチンパスポート」の実証実験を今月中旬から始めると明らかにした。ロンドンでのサッカーの試合や中部・リバプールのイベント会場で手順や効果を検証するということだ。
店舗やイベント会場での活用によって経済活動の正常化が期待されているワクチンパスポート。世界に先駆けて2月に運用を開始したイスラエルでは、「グリーンパス」と呼ばれるQRコードを提示することで飲食店やスポーツジムが利用可能になっている。
また、ワクチンパスポートの導入によって期待されているのが、国境を越えた移動の活性化だ。フランスではアプリを使った「デジタル健康パス」の試験運用を開始している。
EU(=ヨーロッパ連合)は6月中旬にも域内でのワクチンパスポート導入を計画中。ワクチン接種歴や検査の陰性を証明するものになる見通しで、航空各社は準備を進めている。
中国でも先月、海外渡航が必要な国民に対し、PCR検査結果やワクチンの接種歴などを記録した「健康証明」の発行を開始。さらに、韓国でもワクチンパスポートを導入する方針で、コロナ禍における切り札として世界各国での検討が進められている。
一方で指摘されているのが、ワクチンパスポートの問題点だ。人口の33%にあたる1億人以上が少なくとも1回のワクチン接種を済ませているアメリカ。ニューヨーク州で実用化された一方で、テキサス州ではアボット知事がワクチンパスポートの利用を禁じると発表した。
連邦政府もワクチンパスポートの導入を否定。アメリカでは個人の自由を侵害するという意見も少なくないのだ。また、どうしてもワクチンを接種したくない人が証明書を得られず不利益を受けたり、不当に扱われたりするという懸念も指摘されている。
さらに、偽造された証明書をネット上で売る動きが相次いでいて、45州の司法長官が1日、IT大手に対して販売を防止するよう要請した。
世界各国で導入に向けた検証や議論が進む中、日本はどうなっているのか。河野大臣は海外渡航の際など国際的に必要な状況になれば検討せざるを得ないとした上で、「ワクチンを打ってない方を排除するような、不利益になるようなことは避けていただきたいと思っている」と述べている。
ワクチンパスポートについて、BuzzFeed Japan News副編集長の神庭亮介氏は「経済再開の切り札になり得る」としつつ、様々な規格が乱立していると課題を指摘する。
「国だけではなく、いろいろな組織や航空会社がなどがワクチンパスポートをつくって乱立している。各国の思惑やワクチン外交とも結びついており、それぞれのパスポートで認めるワクチンの種類も異なっている。欧米系のワクチンパスポートで行ける経済圏、中国系ワクチンパスポートの経済圏……といった形で、ある種の分断が進んでいく可能性もあり、バラバラの規格をどうやって統一していくかは課題のひとつだ」
では、日本でワクチンパスポートを導入するべきなのか。海外渡航と国内の規制緩和への活用は分けて考えるべきだとし、次のような見方を示した。
「海外渡航に関しては、ビジネス客の往来や今後控えているオリンピックもあり、早急に整備していく必要がある。政府はワクチンを前提としないオリンピックだと言っているが、そうは言っても入国する関係者の接種歴などは把握しておくべきではないか。
一方で、国内での活用に関しては、区別が差別にならないよう慎重に検討していくべきだ。ワクチンは強制ではなく、アレルギーなどで打ちたくても打てない人もいる。そういう人を排除することがあってはいけない。“打ったら離れたところにいる家族に会いに行ける”といった前向きな動機づけならいいが、“打たないと冷遇される、不便を強いられる”という脅しに映らないよう、配慮が必要だ」
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