「医療従事者をかき集める努力もせず、“緊急事態宣言を”と言ってはいけない」木村盛世医師が日本の“精神論”に苦言
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 全国最多の新規感染者を出している大阪府の吉村洋文知事はきのう、国に対し3度目の緊急事態宣言の要請をすることを決定した。吉村知事は「街全体の人の動きを止めることが必要だ」として、飲食店だけでなく、百貨店やテーマパークなどにも休業要請を行うことを検討している。

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 この動きに、隣県の兵庫県も追随。さらに東京都も、重症者の病床使用率はおよそ15%と緊急事態宣言発出の目安には至っていない中、再発出を要請する方針を固めている。

 既に「まん延防止措置」が適用され、飲食店関係者などが不安を募らせる中でのこの動き。元厚生労働省医系技官で作家の木村盛世医師は「繰り返し訴えてきたことではあるが」として、国、自治体、日本医師会に対し次のように苦言を呈する。

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 「緊急事態宣言、あるいは人の流れを止めるというのは、医療が重症者数の増加に対応できないからだ。確かに感染者数が増えてきてはいるが、G7の中で見れば死亡者数も含めて極めて少ないし、“波”も欧米に比べれば、ほとんどない。それなのに、なぜ日本の医療はこれほど逼迫してしまうのか、ということだ。それはこの1年間、“医療の総動員”が行われず、コロナ患者に対応する医療機関、医療従事者が極めて限られている状況が変わっていないからだ。コロナ対応をしている医療従事者は本当に懸命にやっている。しかし、人員が偏りすぎている。だから重症者数の少ない自治体がすぐに逼迫し、“うちも緊急事態宣言、うちも緊急事態宣言”と、ドミノ倒しのように再発出しなければならなくなる。

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 そもそも私は一度目の発出の時、死亡者数は明らかに交通事故による死亡者数よりも少ないのに、なぜ出るのかと不思議でたまらなかった。人々の動きを止め、時短営業を要請したことによって、実際に医療の逼迫度がどのくらい低下したのか。そういうデータを誰かが取り、分析しているのだろうか。そもそも医療の逼迫度合いを何で測るのかの明確な基準も不明だ。

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 人の流れを人為的に止めるのには限界があるし、それは私たちもよく分かっていることだ。それよりも、国は医療キャパシティを上げるための徹底的な努力をしなければならない。ある論文によれば、新型コロナウイルスは“新しい風邪のウイルス”だが、“通常の風邪”になるまでには10年かかると言われている。つまり、一定程度以上の人が感染しなければ収束に向かわないし、ただの風邪にもなっていかない。一方で医療キャパシティが今のままなら、このような状況が繰り返されて、社会経済が崩壊してしまうことになる。コロナに従事していない医療従事者をかき集める努力もせず、簡単に“緊急事態宣言を”と言ってはいけないと思うし、それで何とか乗り切ろうという精神論を続けていれば、日本は本当に潰れてしまうのではないか」。

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 その上で木村医師は、欧米で行われているような地域をまたいだ患者の搬送、受け入れを国交省、防衛省、日本医師会などとの連携のもとに行うことを改めて提言。さらに医療従事者確保のための予算投下や、ワクチン接種済みの医療従事者への過剰な感染対策を避けることでの医療提供体制の充実、緊急事態における規制緩和も訴えている。

 「患者の地域間搬送をしたり、医療従事者の“遊軍”みたいなものを作って自治体に派遣したりすることと同様、ワクチンに関しても医療提供体制が逼迫しているところに多めに振り分けてもいいと思う。ただし、現時点では地域で優先順位を付けずにワクチンを配ることが必要だと思う。また、接種をするのが医師、看護師に限られているので非常に遅れている。ここは医師ではない職種であっても打てるような規制緩和が非常に重要だ。アメリカでは1日に400万人を打つことにしているし、日本でも1日50万人くらいを目標にしないと、3秋冬までにワクチンを打ち終えるというのは夢のまた夢になってしまう」。

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 さらに、接種が進むまでの対策について、「重症化しやすいのは高齢者で、日本における死亡者の平均年齢が80歳ということも分かっている。ということは、高齢者を徹底的に保護しなければならない。いずれは変異ウイルス等が出てきて効かなくなってしまうかもしれないが、少なくとも重症化のリスクを減らせることは確実だ。まずはワクチンを打つまでの間、何とか人と接触しないで済むような方法を政府には考えていただきたい。ハーバード・メディカル・スクールは、65歳以上の高齢者は宅配サービス、しかも玄関に置いてもらうといった対応を徹底してくださいと訴えてきた。オンライン診療の推進と併せて、そういうメッセージも出していただきたい」と呼びかけた。

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「最終的には“有事法制”の話につながってくると思う。戦争やテロだけでなく、災害、今回のパンデミックのような緊急事態の際には、各省庁、地方自治体をどうやって動かすかが問題になる。日本では“有事法制“と言っただけで“戦争に向かわせる気か”などと怒りだす人がいるので、日本では法律を作ったり、アメリカのように人員・物資を動かすFEMA(連邦緊急事態管理庁)を作ったりできず、個別の省庁や法律で対応することになる。今の日本の政府・自治体の状況について“けしからんと”怒る人たちは、有事法制を作ろうという議論のときに賛成したのかどうか。いまこそ、パンデミックも含めた有事のための法整備を議論するときだ」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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