「30年が経つが、あの時の結論には今でも揺れている」豚の飼育を通じて命の尊さを学ぶ授業、教師の苦悩とは
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 東京・東久留米市にある自由学園。ここで70年以上にわたって続いてきた伝統的な授業が、生徒が育てた豚を食肉処理施設に送り、最後はその肉を自分たちで調理し、給食で食べる、いわば“いのちに触れる学び”だ。

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 まもなく子豚の頃から7カ月間育てられてきた2匹の豚が出荷を迎える。育ててきたのは、この春に高校1年生になった生徒たち。この4月から飼育を始めたばかりの生徒たちは、豚のサイズを測るだけでも四苦八苦。

 そんな彼らにエサの補充などをアドバイスする高橋大智さん(高は正式にははしごだか、高等部1年生)も去年、この“いのちの授業”を受けた一人だ。「やっぱり生き物としての可愛さがあるので、育てた豚を食べる時にはしみじみとなったこともあるが、その悲しさから目を背けてはいけないのかもしれないと思った。生き物を頂いているということに対して新しい感情と言うか、普通に暮らしていたらおそらく得られなかったであろう経験ができたので、とても良かったと思う」。

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 一方、飼育担当になって日が浅い中等部3年生からは「身を挺して僕たちを生かしてくれているということなんで、感謝…」(江原松明さん)、「少し残酷だと思っていて、でも人間は食べないと生きていけないから、ちょっと残念な気もする」(緒方晶さん)と不安そうな表情も覗かせる。

 授業を担当する真野啓之教諭は「悲しむ生徒ももちろんいるが、命を頂くっていうことはそういうことだよね、っていうことで、みんなで気持ちを受け止めてやっているので、そこは自信を持ってやっている」と話した。

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 そんな“命の授業”について、今も正しい答えが見つかっていないと話すのが、京都教育大学教育学部の黒田恭史教授だ。小学校の新任教師時代、4年生に豚の飼育を通して命の尊さを教えた。豚には子どもたちの強い要望で「Pちゃん」という名前が付けられた。これらの経験をまとめた著書『豚のPちゃんと32人の小学生』は、映画の原案にもなっている。

 「教師としては、“最後はこの豚食べようね”ということでスタートしたことではあった。ただ実際には“明日も頑張って、何とか豚の命を続かせるぞ”という日々の活動に一生懸命で、子どもたちとしても食べるということはあまり考えていなかったと思うし、本当に“明日も生きていてほしいな”という願いを持って学校に来ていたんだと思う。名前を付けたことでペットのような形になったと思われるかもしれないが、やはり豚も人間を見分けることができるので、よく世話をしてくれる子どもの方に寄って行ったりする。そういうところで感情移入というか、心が繋がった感覚があったと思う」。

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 3年後、卒業を前にPちゃんをどうするのか議論したところ、「下級生に引き継ぐ」「食肉センターに送る」でクラスは二分。卒業式前日、黒田教授が出した答えは「食肉センターに送る」だった。ただ、実は書籍でも映画でも、この“最後の決断”については描かれていないのだという。

 「初めて明かすことだが、実は当初、下級生に引き継ぐが16、食肉センターに送るも16という状況だった。そこから議論を始めて、“食べる”ということについてはNOになったが、最終的にどうするかについては私の1票で引き継ぐという方向になったのが事実。やはり新任教員だったので力のなさもあったと思うし、他の先生方の賛同を得ることもできず、軋轢の中、下級生に引き継いだとして、卒業後にやっぱり食肉センターに送られてしまうことになったとしたら、これは子どもたちの心に大きな傷が残る、大人に対する不信感を植え付けることになるのではないかと、卒業式の前日の朝に決断した。

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 一人、最後まで引き継いでもらいたいと主張していた子は、Pちゃんとのお別れの時に来なかった。成人式の時に会うと、“先生、一緒に写真撮ろっか”と穏やかな顔で言ってくれた。子どもたちの何人かからは、手紙を頂いたこともあった。食肉センターに送る方がいいと思っていたが、後で引き継いだ方が良かったと思い直した、あるいはその逆もあった。それぞれ8年かかって命の問題について“着地点”みたいなものが見えたのかなという気がしているし、やはり正しいかどうか、短期的に言える問題じゃないと思う」。

 一方、授業を受けたくない子どももいたはずだ、との意見に対して黒田教授は「仰る通りのところもあるが、それでは“学校教育の中ではできない”というスタンスになってしまう可能性があるし、私はやっておかないといけないことだと思う。命の問題とか、食べるという問題を“自分ごと”として捉えるためには、やはりどこかで痛みを感じないと本気になれないかなと思っている。ただ、その後は豚の飼育の授業はしていない。自分の中で最後の結論が出し切れていない。30年前のことなのでぶっちゃけて言うが、私の1票で全てをひっくり返すというのが正しかったのか今でも悩むところがいっぱいある。何が正しい教育だったのか、正しくない教育だったのかについてはずっと揺れているし、ツッコミどころ満載だろうなと思いながら、今日は話をさせていただいた」と語った。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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