高齢者への集団接種が始まった静岡県・御殿場市。市の担当者が接種券に記載されたバーコードをタブレット端末のカメラで読み取ろうとしている。
「自分的には20~30秒かかるかなと。ピントを合わせて読み込みしても、機械自体が反応してくれないことがある」
VRSと呼ばれるワクチン接種の記録システムは、何人が、いつ、何回目の接種を受けたかなど、全国の接種状況をリアルタイムで把握できるもの。担当者は情報をタブレット端末に登録しようと試みるが、なかなか読み取れない。それもそのはず。読み取るべき情報はバーコードではなく、その下にある18桁の数字だ。
「全然違う番号が読み込まれている。『2』が『5』に変わってる」
時間がかかるため、御殿場市の接種会場では読み取りを行わないことにしたという。
政府はバーコードで簡単に読み込めるよう別のシステムを使い、VRSに情報を登録できるよう改修中だが、それまでは、接種が終わった後にまとめて読み取らなければいけない。国から支給された端末は原則、1つの接種会場につき1台。時間がかかるのも当然だ。
記録システムは今年に入って政府がベンチャー企業に委託し、2カ月で開発したもの。読み取りやすくするために1つの解決策を示していたのが、9月に発足する「デジタル庁の卵」である“IT総合戦略室”だ。
IT総合戦略室が公開したYouTubeでは、ワクチン接種の記録システムのレクチャー動画を公開。
【動画で紹介されている内容】
・タブレット端末を置く台を用意し、予診票と平行に配置
・読み取り台は、段ボール箱等を簡単に加工して利用することもできる
・タブレット端末と予診票の間の間隔は約7.5cmが最適
先月、河野大臣がこのシステムを披露した際も、読み込みを行う際に段ボールが使われた。また「数字が読み込めない」といった自治体からの相次ぐ報告に対し、デジタル改革担当の平井大臣は「固定するための台を配布する。本日から自治体に配布希望台数の照会を行い、24日以降発送を開始する予定だ」とコメント。
なんともアナログな応急処置だが、一方でワクチン接種の予約も電話やアクセスの殺到が相次ぎ、一部で混乱が起きている。これに平井大臣は「一般の予約システムは自治体が個々にバラバラに取り組んでいる」として、デジタル庁が全国共通のシステムを提供する可能性があると語った。
今月12日、デジタル改革関連法が成立し、9月発足が確実に可能になったデジタル庁。行政の縦割りを打破し、デジタル改革の司令塔としてシステムを統括する予定だが、『WIRED』日本版編集長・松島倫明氏は行政のデジタル化について「日本はかなり遅れている」と吐露する。
「すでに欧米では行政のデジタル化がかなり進んでいる。遅ればせながら、日本もようやく始まったところだ。ワクチン接種のシステムも各自治体がバラバラに作っていて、人的コストも大きい。そういった無駄を削減しながら進めていくことが必要だ。せっかくワクチンが届いているのに、予約のインターフェースでそれが止まってしまうのは残念と言わざるをえない」(以下、松島倫明氏)
その上で松島氏は1993年に創刊された『WIRED』の日本版創刊号に言及。表紙には「始動する日本のデジタル革命」「霞ヶ関を『接続』せよ」といった文言が並んでいる。
「もう30年近く前から『デジタル革命』や『行政のデジタル化』と言われていたが、やっと今ここまできて政治が動き『デジタル庁を作ってやっていこう』となっている。デジタル情報とは電気や上下水道と同じで、国民の暮らしをよくするのにもはや欠かせないインフラ。やっと省庁ができて、政府がそのインフラ整備に本腰を入れた。これからの加速を期待している」
約30年の歳月をかけて、ようやく実現したデジタル庁の創設。新型コロナの感染拡大を抑えるためにも、ワクチン接種のシステム整備が急務になっている。
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