人工的な『第3の親指』を体の一部と認識? “脳の柔軟さ”がもたらす可能性と人為的な書き換えの懸念
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 ロンドン大学の研究者らが体の機能と脳の関係性に関する論文を発表した。「第3の親指」と名付けられた人工的な指を装着すると、脳も体の一部として認識することが研究で明らかになった。

【映像】小指の外側で自由自在に動く“人工の指”

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 足の親指の下に設置されたセンサーによって動かすことができる「第3の親指」。映像では、この第3の親指でペットボトルのフタを開けたり、みかんを持ち上げたりしている。

 研究チームは20人の参加者に5日間にわたって訓練してもらったところ、それぞれが第3の親指を器用に扱えるようになり、参加者の脳をMRIでスキャンすると脳の一部に微妙な変化がみられたという。

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 この研究結果について、ニュース番組「ABEMAヒルズ」は、慶応大学理工学部でロボットと脳の関連性を研究している牛場准教授を取材。ロンドン大学の研究者らが発表した内容に牛場准教授は「非常に面白い」と語る。

「テクノロジーを使って、外付けで体のパーツを拡張させている。5日間、すごく人工的な環境で、ボールをつかんだり、物を操作したりすることを日常生活でやっていくと、人間の体の構造はだんだん環境に適応していく。丁寧に脳の中を調べてみた結果“第3の親指”の脳領域が新しく生まれてきたということだ。人間が生得的に持っているような親指や人差し指を動かす能力と、人工的に取り付けた親指(第3の親指)が並ぶような形になった」

 牛場准教授は「たとえ人工的な物質でも体の一部であると認識する“脳の柔軟さ”を示す実験結果である」と評価。神経由来の障害など、今後さまざまな医学分野における研究のヒントになるだろうと話す。

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「例えば音楽をうまくひきたいとか、スポーツをうまくやりたいとか思ったら、一生懸命苦労して何万時間やらないと上達しない。それは、僕らが脳の回路を柔軟に組み替える方法を分かっていないから、過程を『苦しまなければいけない状態』だと思ってしまう。だが、僕らが思っている以上に脳の回路は柔軟に変わる。その変わる“条件”が今回の研究を通じて分かった。今後より楽しく、簡単に新しい身体の使い方を変える方法が分かってくるだろう」

 一方で、牛場准教授は脳の回路を人為的に書き換えることに「影響を十分に検証する必要がある」と指摘する。

「今回の論文でも言及されているが、5日間連続で使っていくと、もともとの親指や人差し指や中指など、指を担当していた脳の領域の回路が一部縮小するような報告も入っている。新しく取り付けた腕の機能を脳の中に宿す一方で、もともと脳が備えていた機能の一部が影響を受けていることになる。これを上手にコントロールする、あるいはもともとの脳機能にどのような影響があるのか。安全性をしっかり検証していかなくてはいけない」

ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

"第3の親指"使うと脳機能に変化?
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