来年3月にキックボクシングを引退し、ボクシングへの転向を表明しているRISE世界フェザー級王者・那須川天心(TARGET/Cygames)が、ボクシングの元世界3階級王者で、現在は2月に立ち上げた「3150ファイトクラブ」の会長を務める亀田興毅氏と対談。「デビュー前から完成されている」と高いボクシング技術に太鼓判を押された。
5歳から空手を習い、キックを交えて試合を組み立ててきた那須川にとって、ボクシング転向は大きな転機となるが、那須川はその大きな変化についても「僕の中では楽しみ」とプラスに捉えており、すでに取り組んでいるボクシングの練習についても「手ごたえもある」と口にする。那須川の話を受け亀田会長は、那須川と手合わせをした経験をもとに「かなりレベルが高い」と話すと「ボクシングの手だけの技術がデビューしていないのに完成されている」と驚きを隠せない様子で語った。
一方、亀田会長はボクシング転向における那須川の懸念点を指摘する。それは、スタミナだ。「世界戦は12ラウンド。12ラウンド戦えるスタミナさえあれば」と話せば、那須川も「まだ長いラウンドのスパーリングをやったことがない。まだキックもあるので、やっても6ラウンド。ペース配分も考えないといけない。最初はとにかくメチャクチャ疲れて大変だった」と率直な感想を明かした。
気になる階級について問われた那須川は「まだわからない」としつつも「キックではずっと55キロでやっていたので、ボクシングでいえばスーパーバンタムぐらいなのかなとは思う」と応じた。
すると亀田会長が「世界的なビッグネームになった井上尚弥選手も今はバンタムだけど、いずれスーパーバンタムやフェザーに上げてくると言われている。相見えるときが来るが来たら、スーパー・ビッグマッチだ」と興奮気味に語ったが「別格、相当強い。日本人の他の選手も見たりするが、(井上選手は)ずば抜けている」と話した那須川は冷静に、現時点での見解を示した。
キックボクシング界に“敵なし”の無双状態となっている那須川だが、ボクシング転向によって目指す世界、夢や理想的な状態はどのようなものなのか。亀田会長に聞かれた那須川は次のように答える。
「世界チャンピオンになるというのは自分の中の一つの目標ではある」
ただ、勝つだけ、強ければいいとも思っていない。
「色々なものを巻き込んでいきたい。ボクシング界も昔からの伝統がある。それにプラスして、僕が入ることによって化学反応で盛り上がればいいと思っている」
22歳にして、RISE、キックボクシング界を背負ってきた那須川らしい答えだろう。これには亀田会長も思わず「40歳の人と喋ってるみたいだ」と冗談を交えたが「今年23歳、社会人1年目の年です」と那須川。「びっくりするわ」と感嘆しきりの亀田会長だったが、「ボクシングには伝統があって、オリンピック競技があって、世界的にもメジャーなスポーツ。その伝統は大事。伝統を大事にしつつ、新しいものをどんどん入れていって良くしていきたいと思っている。同じような考えだから良いなと思う。ボクシング界を盛り上げていって欲しい」と本音をのぞかせた。
那須川「選手自らがストーリーを」亀田会長「悪いことを言う人間も入れて初めて社会現象に」
スーパーバンタム級といえば、元世界2階級王者で、22日に判定勝ちによる再起を果たした亀田家の三男・和毅選手も同じ階級にあたる。そのことについて亀田会長は「今年中のチャンピオン返り咲きを目指している。タレントぞろいの階級になってくる。K-1からは武居君も来た。この近辺の階級は面白くなってくる」と楽しみを口にする。
亀田会長は23歳の年に2階級制覇を達成している。そのことについて那須川が触れると「内藤大助選手とやったのが23歳のとき。デビューが17歳、世界チャンピオンが19歳、2階級が23歳で、24歳で3階級制覇。それから先は、弱くなっていくだけ。24歳で引退しておけば…」と那須川の笑いを誘う場面も見られた。
しかしここで、亀田会長が「今のボクシング界は、天心君にどのように映っているか」と話し、真面目な顔で切り込むと「ボクシングには決まりがある。キックボクシングは色々な団体にベルトがある。しかし、ボクシングは世界的に決められている。しっかりと統一されており、目指すところがはっきりしているので、強い選手が集まってくる。僕が転向した理由は『強い人を倒したい』なので、非常にワクワクしている」と那須川。逆に「チャンピオンになったら色々と変わるのか?」と那須川が聞き返せば、「あまり変わらない。ただ、天心君がキックボクシングからボクシングのチャンピオンになったとなれば、全然違うものが見えるだろうし、得るものも多いはず。今までそんなチャンピオンはいない。だから歴史的なチャンピオンになると思う」と期待を込めた。
さらに意見やアイデアを求められた那須川は「どの競技もそうだが、選手がどんどん発言していかなければならないと思う。スバ抜けて強い選手であれば、それだけで魅了される。そういう選手が何を言うのかは気になる。また、なり切るというか、自分を演じる必要もある」と話すと、亀田会長は「那須川天心を演じているということ」と理解し、「そのとおり」と頷いたうえで「どのような発言をすべきか」ともう一度聞き返す。その答えに那須川天心が、那須川天心たる所以があった。
「その人に“ついていきたい”と思わせる発言。例えば記者会見で『次、誰とやりたいですか?』と聞かれたとして、『誰でもいいです』ではなく『誰々とやりたいです。そのために、しっかり勝っていって倒せるように』と言った方がストーリーができる。ストーリーを選手自らがどんどん作っていくのが、キックボクシングもボクシングも大切。いまはYouTubeなどがあり、個人で動ける時代だけに、発言力は大事だと思う。(入場の仕方や盛り上げについても)賛否があることによって盛り上がる」
すると亀田会長――
「良いという声だけでは限られる。悪いことを言う人間も入れて初めて社会現象になる。亀田家の場合は悪いことの方が多かったが…(苦笑)。亀田とバッシングはセットだと振り切ったら、もっとバッシングされた(笑)」
ボクシングとキックボクシングで社会現象を巻き起こした両者が、同じ方向を目指して新たな目標に挑むとき、どのような社会現象が生まれるのか楽しみにしたい。