とてつもないボリュームだった。5月30日、K-1ジャパングループは2大会を同日開催。 K-1横浜武道館大会は11:00から本戦開始、その後18:00からはKrush後楽園ホール大会。トータルで28試合、トータル11時間半の中継枠を用意していた。
Krushのメインでは佐々木大蔵が平山迅を下してスーパー・ライト級王座を防衛。K-1ではバンタム級の日本トーナメントが行なわれた。これはKrushでの同階級の盛り上がりを受けてのもの。新たな階級だけにフレッシュさも魅力で、軸となるKrush王者・壬生狼一輝をはじめ10代の選手が8人中3人というメンバーだ。
いつものように“大仁田厚キャラ”のKrush王者・壬生狼一輝は前日会見に新調したライダースジャケットで登場。背中には「邪道」ならぬ「邪狼」の文字が。「今回は大仁田さんの師匠・ジャイアント馬場さんにならって王道でいく」というコメントはチャンピオンとしてのプライドか。その壬生狼を決勝でKOし、トーナメントは黒田斗真が優勝。黒田は1回戦でもKO勝ち、準決勝は判定勝利だったが松本日向から2度のダウンを奪っている。
松本は前回の試合で壬生狼に敗れ、初黒星。今回は復活を期しての参戦でもあった。復帰戦がK-1のトーナメントという最高の舞台。松本は前日会見で「すべてをかけて生き様を見せます。メイン張って金テープを浴びる」と意気込み。その「生き様」について聞くと、こう語ってくれた。
「これまでのキャリア、勝ったことも負けたことも全部に意味があると思ってます。負けて成長できた部分もある。以前の自分は負ける覚悟がなかった。負けることをまったく考えていなかったので。でも今は負けを知った分、強いと思います」
それだけ気持ちが入っていたからこそ、悔しさも大きい。
「この試合に向けて全部かけてきたと胸張って言えるくらいです。だから先のことは考えられない」
時折り声を詰まらせた松本。ただ今回のトーナメントは平均年齢21歳、ここで生まれたドラマが今後どう展開していくかが最も重要だ。アグレッシブかつオールラウンドな闘いぶりを見せただけに、大きく評価を下げたわけではない。その懸命さはこれからも活きるだろう。
松本と同じシルバーウルフ所属、中継のビジュアルにも揃って登場したのがKrush女子アトム級チャンピオンの菅原美優。松本敗戦の2試合後にリングに上がった菅原も黒星となった。チャンピオンとしては初めての負けだ。相手はシュートボクシングでチャンピオンだったMIO。菅原の7戦に対しMIOは44戦と、キャリアに大きな差があった。得意の前蹴りを封じられての負けは、経験値の違いだろう。試合前、菅原はこう語っていた。
「格上の選手との試合なので、悔いのないように全力で挑みます。相手のほうがキャリアが上なので、自分に怖いものは何もないです」
ただ試合前に勃発したSNSでの“前哨戦”には「怖さ」を感じたそうだ。菅原が回転寿司を食べた写真をアップすると、MIOも菅原以上に食べた写真をアップ。意外なところで張り合ってきたMIOに驚かされたという。
会見でのMIOは「(菅原が)可愛らしい子なのでいじめたくなっちゃうんです」。大会の中でもキャリアが長い部類となるが「まだまだ成長している実感があります」とも。
試合内容には不満もあるが、階級を下げ45kgで闘った手応えは上々。今後はK-1でのタイトル創設を待ちながら、48kgでは高梨knuckle美穂へのリベンジも狙っていく。
インタビュースペースで印象的だったのは、最初から最後まで泣きっぱなしだった菅原の姿だ。
「もっと勝負できたなって。勝てなくはなかったと思うと悔しいです。リベンジします」
判定は2-0。接戦だったからこそ経験の差が出たし、逆に接戦を若さと勢いで制することもできたかもしれない。MIOも「また闘う可能性があると試合が終わった瞬間に思いました。油断できない」と語っている。MIOという“壁”があることで、菅原の成長は早まるのではないか。
長く武尊が引っ張ってきたK-1だが、これからは新世代の台頭も重要になってくる。菅原、松本への期待はこれからも変わらない。今回の悔しさが2人をどう変えるか、そこに注目したい。
文/橋本宗洋