軽量級はKOが少ないから魅力がない。そんな常識を覆してきたのが、武尊を中心とする現在のK-1だ。
5月30日の横浜武道館大会でも、そんなK-1らしい闘いが見られた。この日、行なわれたのは新階級であるバンタム級(53kg)の日本トーナメント。Krushの同級王者である19歳の壬生狼一輝をはじめ、平均年齢21歳と若い選手が揃った。
当然、壬生狼は優勝候補の一角。際どい試合をものにして決勝に勝ち上がった。記者会見での“大仁田キャラ”で注目される壬生狼だがベルトを巻いた実力は本物だ。
その壬生狼が、1ラウンドわずか31秒で敗れ優勝を逃した。衝撃的なKOで新階級の頂点に立ったのは黒田斗真、20歳。Krushの王座決定トーナメントでは準決勝で吉岡ビギンに敗れており、今回は「無印」だったが凄まじいインパクトを残した。吉岡戦の悔しさから猛練習に励み、実力を急激に上げたという。
1回戦から、その攻撃力が猛威を振るう。池田幸司から1ラウンドに左ストレートでダウンを奪うと、2ラウンドに相手の出足に合わせた飛びヒザ蹴りでノックアウト。準決勝では松本日向に勝利。判定ではあったが、2度のダウンを奪っての完勝だった。そして決勝では壬生狼をワンパンチKO。まさに圧巻だ。
男子最軽量の階級。スピードが持ち味と言われるバンタム級だが、黒田はK-1らしいKOの醍醐味を体現してみせた。その原動力が4つのダウンをもたらした左ストレート。もともと得意ではあったが、プロで意識して使うのは今回が初めてだったそうだ。
「小学生の時、グローブ空手のポイント制の試合で左ストレートだけで勝ってました。プロでは警戒されてるなと思って出してなかったんですけど、今回思い切って出しました」
小学生時代の得意技でK-1トーナメント制覇。ドラマチックな優勝の陰には、紆余曲折のキャリアがあった。格闘技から離れていた時期もあったが、兄・勇斗からの手紙がきっかけで復帰を果たしたのだ。「格闘技を離れている時にもお世話になっていた(ジムの)会長に恩返しができた」とも。
また決勝で闘った壬生狼に対しては「ボロボロの状態で決勝に上がってきたと思うので、お互いまた万全の状態でやりましょう」。黒田自身も足の指を骨折した状態で試合に臨んでいたという。
今回の結果はKrushのタイトル戦線にも影響を与えるはず。さらにK-1でのタイトル制定など、さらなる盛り上がりにも期待がかかる。若い選手ばかりのトーナメントだけに、これが決着ではなく“ここから”を感じさせるものになった。
大会後、黒田はすぐに後楽園ホールへ。同日開催のKrushに兄・勇斗が出場していたのだ。優勝トロフィーを抱えて会場入りした黒田は、さっそく兄のセコンドに。勇斗は晃貴と大迫力の打撃戦を展開、僅差で敗れたものの強い印象を残した。異例の2大会開催、長い1日は黒田兄弟の名を高めるものにもなったわけだ。
文/橋本宗洋