「激しい試合になると予想していましたが、それ以上でした。若い選手が多い大会の中、キャリアのある選手たちの試合が一番、勝ちに貪欲で激しい試合になったことに感じるものがありました」
大会一夜明け会見でそう語ったのは、K-1の中村拓己プロデューサーだ。5月30日の横浜武道館大会、とりわけインパクトを残した試合の一つが佐野天馬vs島野浩太朗だった。
佐野はK-1甲子園で準優勝、プロでも連勝デビューとなったがトップ戦線では大きな結果が残せず。29戦目にして、K-1本戦は初出場だ。
対する島野は元Krush王者。真っ向勝負を身上とする激闘派だ。昨年12月の芦澤竜誠戦も、敗れはしたがK-1史上に残る打ち合いだった。
そんな両者の闘いは、やはりアグレッシブなものに。島野が下がらないから、佐野の攻撃も迫力が増す。最終3ラウンドには佐野がパンチでダウンを奪い、一気にペースを握ったかに見えた。
だがそこから火がつくのが島野だ。猛反撃で挽回。「これは逆転もある」と思わせる攻撃で、並の選手であればそのまま島野に飲み込まれていたかもしれない。
「(こういう場面で)自分が行けないことも多かったんですけど、今回は(相手の)気持ちが強いと分かっていたので。ダウンを取ってからもしっかり構えることができました」
佐野は試合終了間際にもハイキックからのパンチでダウンを奪い、判定勝利をものにした。高校時代から活躍してきた早熟なセンスに、ここで凄味が加わったと言えるのではないか。それくらい充実した内容だったし、この一戦で勝ちをもぎ取った価値は大きい。
大器の覚醒を感じさせる試合。それをもたらしたのは敗れた島野かもしれない。試合後「完敗です」と潔く佐野の強さを認めた島野。うまさだけでなく「打たれ強かったですね。絶対に倒れないぞという気持ちを感じました」とも。佐野のそうした面を引き出したのは島野だ。佐野は言った。
「K-1でというより、島野選手に勝てたことが嬉しいです。(島野が相手だからこういう試合に?)それは間違いないです」
勝者が飛躍し、敗者もまた株を上げた。言葉だけではない、真の意味での“気持ちの闘い”がそこにはあった。
文/橋本宗洋