新型コロナの感染が拡大していたアメリカで、16歳以上を対象にワクチン接種が進んでいる。政府も「接種後2週間経てばマスクは不要」と新たな指針を発表し、5月20日時点では7日間平均で1日当たりおよそ82万人が接種した。
さらに5月の最終月曜日はアメリカの祝日“メモリアルデー”。3連休になった週末は、旅行やピクニック、バーベキューなど、さまざまなイベントを楽しむ人も多かった。
【映像】“コロナワクチン”副反応における調査結果 約91%が「疼痛」を感じた(5分ごろ~)
ワクチン接種が進み、日常を取り戻しつつあるアメリカ。ニューヨークに在住のジャーナリスト・安部かすみさんも、メモリアルデーにバーベキューパーティーへ招待された1人だ。
「2年ぶりで、すごく楽しかった。みんなマスクも取ってハグをして。コロナ前に戻ったような」(以下、安部かすみさん)
しかし、安部さんには一般的な友人同士などの集まりが、今後このようになると予感することがあった。
「主催をしてくれた私の親友が『今日はみんなワクチンを打っているから安心してね』みたいな感じで言ったので、私も安心して楽しめました」
アメリカでは12歳以上であれば誰でもワクチンが打てるようになったが、安部さんは接種を急いでいなかった。「かすみはいつワクチンを打つの?」と周囲の人に聞かれても、安部さんは「そのうちね」と答えていた。
その後、接種を受けた安部さんは、周囲の人々を安心させるために報告したところ、そのうちの1人からパーティーに誘われたという。
「主催者である親友は、ゲストが安心して居心地良く楽しめるようにと配慮してくれ、(ワクチンを)受けた人を今回は招待したんだろうなと(思った)。一般的な話として、今後は2つのグループに分かれるのかなと、その体験を通して思った」
“2つのグループ”、つまり「ワクチンを打った人」と「打ってない人」に分断が進むのではないかと、安部さんは感じるという。そして一般生活においても、あいさつ代わりに「ワクチン接種した?」という会話はよく交わされるようになったという。
「(NYで)16歳以上なら誰でも(ワクチンを)打てるようになった4月16日から1カ月くらいワクチン打たない期間があった。その間、動画で会議に参加しても『天気どう?』みたいな話から『ところでワクチン打った?』みたいな話になる。ニューヨークの人は結構フレンドリーで、会うと『あの犬かわいいね』から始まって、会話の最後は『ワクチン打った?』という話題になる」
一方、AP通信の世論調査によると、アメリカ在住の成人のうち22%、4~5人に1人は今後もワクチンを打つ気がないといったデータが出ている。
「仕事上での行動範囲が増えるのと、周囲との関係性を考えた上でワクチンを打った」と話す安部さん。今後も未接種のままだと、関係性が自然消滅していくケースも、もしかしてあるかもしれない」と語った。
■臨床心理士・藤井靖氏、ワクチンは「感染を100パーセント防げるわけではない」
明星大学心理学部准教授で臨床心理士の藤井靖氏は、医療従事者として2回目のワクチン接種を受けたばかりだという。山形大学医学部附属病院が公表した『新型コロナウイルスワクチン接種後副反応調査結果』に「自分の体験や周りの医療従事者の症状を踏まえると、妥当な数字だ。個人的に聞き取った感触では、2回目の後はほぼ全ての人が疲労・倦怠感を感じている印象さえある」と見解を語った。
2回目の接種では「1回目よりも副反応が強く出た」と明かす藤井氏。記録や情報共有のために、自身のツイッターにもリアルタイムで自覚症状を書き込んでいったという。最初は接種部位の痛みや腕が上げにくいなど筋肉痛のような症状だったが、時間が経つとともにだんだん腕がだるくなっていった。接種後の夜は眠れず、約1時間おきに起きてしまう状態だったと説明した。
「朝になったら全身にけん怠感が強くあった。熱は出なかったが、関節の痛みや違和感などもあり、熱の出ないインフルエンザにかかったような感覚で、一日中辛さが続いた。仕事中も、ベッドがあったら横になりたいという感覚。二日後にようやく楽になってきた。個人的な感覚としては、特に2回目の次の日は仕事は休み、もしくはスケジュールを詰めすぎないほうがいいと感じた。今後企業などでも接種が進んでいくと思うが、例えば部署ごとに接種日を分割するなど、一部の人が休んでも業務に支障が出にくいよう対策を考えたり、ワクチン休暇なども積極的に導入する必要があるだろう」(以下、藤井靖氏)
まれに危篤なアナフィラキシー症状が出るケースもあり、血圧低下や意識障害を伴う場合には緊急対応が必要になる。その上で藤井氏は「ワクチンを打ったからと言って、感染を100パーセント防げるわけではない」と指摘。「ワクチンを打った人が陽性になって、明確な症状が出ないままパーティーに行って感染を広げてしまう可能性もある」と語る。
「冷静に考えれば、ワクチンを打ったからと言って、完全に安心できるわけではないのに、ワクチンを打った人の中だけで連帯感が生まれて、ワクチンを打った人・打っていない人の区別ができてしまう。人にワクチンを強いることは決してあってはならないし、‘‘ワクチン接種派’’という多数派かつ優位的な立場の人が引く境界線は、極端で短絡的であることも多く、差別につながりやすい。
もし身近にワクチンを打っていない大事な友達がいて、その友達が『パーティーに行きたい』と言ったとき『あなたは打ってないんだから絶対に来ないで』と本当に言えるのか。自分の物差しで判断しているつもりでも、自分の所属している多数派や優位な集団を前提に考えると差別が起こりやすくなる。このコロナ禍では‘‘マスク警察’’が問題になったが、‘‘ワクチン警察’’も生まれかねない。マスクと違って外見では判断できず、余計に疑心暗鬼になる可能性もあるので、自分の言動と他者との共存のあり方には留意する必要がある」
日本でも徐々に進んでいるワクチン接種。重症化を避けられる手段としては有効だが、あくまでも任意接種であり、強制されて打つものではない。分断を生まないためにも、コミュニケーションのあり方を今後も考えていく必要がありそうだ。
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