ポータルサイト『Yahoo! JAPAN』にアクセスすると真っ先に目に飛び込んでくる『Yahoo!ニュース』トピックス、通称“ヤフトピ”。
新聞・テレビ・雑誌からウェブメディアまで650を超える情報提供元から配信されてくる記事を編集部の担当者がセレクト、14.5文字の見出しを付けて掲載しているコーナーだが、実はこれまで運営元のヤフー株式会社はもちろん、親会社であるZホールディングス傘下のLINE株式会社などが“主語”になる話題は掲載されてこなかった。
・【映像】ヤフトピはどう変わる?メディアに求められる規範とは
この編集方針に対し、ネット上には以前から「やっぱネガティブニュース載せないのは良くないよね」「良いニュースも、悪いニュースも載せてないのなら公平だったのでは?」といった声も上がっており、同社は14日、「“社会的に大事なことなのに伝えないのか”などの指摘を外部からいただき」「各社で報道される重要なものであれば、Yahoo!ニューストピックスに掲載することにする」と、突如として“方針転換”を発表。
番組の取材に対しヤフーは「これまでは自社のPRに繋がるという公共性への懸念などの観点から、良い悪いに関係なく自社に関わる記事はトピックスに掲載していませんでした」「PayPayやLINEに加えて、今後はヤフーを含めたZホールディングスグループ内外全社が掲出対象となります」とコメントしている。
■「プラットフォームなのか、それとも“メディア”なのかが分からない状態になってきていた」
ジャーナリストで法政大学教授の藤代裕之氏は「一昨年のLINEとの経営統合発表のニュースは、新聞各紙が一面で紹介するような話題だった。それなのに、なぜYahoo!トピックスには全く載っていなんだという指摘が相次ぎ、みんなも気づき始めた。そうしたこともあって今回の判断に至ったのだろうが、なぜ今になって急に方針転換をしたのか、その説明もないし、“有識者からご意見をいただきました”というのも、“有識者って誰やねん”という感じがする」と苦笑。その上で、Yahoo!ニュースの現状について次のように分析する。
「そもそも日本のYahoo!ニュースは、世界的に見ても特異なサービス。例えばTwitterがBLM運動のベースになるなど、“プラットフォーマー”がその影響力を増してきてはいるが、彼らはあくまでも外部のコンテンツを流しているだけで、自分たちで記事を作っているわけではない。ところが日本のYahoo!ニュースには『Yahoo!ニュース個人』(2012年~)があるし、最近では独自の企画記事も配信し始めている。つまりプラットフォームなのか、それとも“メディア”なのかが分からない状態になってきていた。
Yahoo!ニュースは今や新聞社をも凌ぐ巨大な影響力を持っているので、情報提供元も“なんとかYahoo!トピックスに載りたい”と思って記事を一生懸命に書いている。一方で、編集部が情報提供元に対して “こんな感じの記事を送ってくれませんか”と言っているらしいという話もある。もちろんYahoo!ニュース以外にもポータルサイトのニュースサービスはあるし、SmartNewsやGunosyといったニュースアプリもある。それでもLINEと経営統合したことで、LINEニュースと合わせて日本の世論を動かしていくということも起こりかねない」。
■「メディアとしてやっていくしかないという、ある種の“覚悟”みたいなものが生まれたのではないか」
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「Yahoo!ニュース編集部の人と何度か議論をしたことがあるが、すごく悩んでいた」と明かす。
「SNSやウェブサービスが民主主義を支えるためのインフラになっていく中で、見ている側は不安だし、運営する側も重責に耐えかねている状況になっているのは世界的に見ても間違いない。例えばSNSであるTwitterも、出てきた頃は人間関係をベースに“ランチなう”とかつぶやいていたわけだが、10年経ってみたら、ニュースを知る経路としては最大級のインフラになってしまった。Facebookに関しても、当初は“掲載されるコンテンツはアルゴリズムで出している”と説明していたが、後に保守系のコンテンツを落としていることがバレて怒られることになった。
日本のYahoo!ニュースも、元々は単なるウェブサービスの一つだったのが、次第にニュース配信の基盤になり、責任がどんどん重くなっていく。それなりに知見を持った新聞社出身の人たちもいるとは言え、やはり全体としては新聞社やテレビ局ほどの能力はない。芸能人のスキャンダルだけでなく、海外で起きた出来事なども載せたほうがいいけれど、それではやっぱりページビュー、そしてその先の広告収益には繋がらない。会社に対してそこをどう説明するんだ。そういう議論を延々とやっていた。
また、藤代さんがおっしゃるとおり、“自分たちはメディアではなく、配信された記事を載せるだけのプラットフォームだ”と主張するため、オリジナルの記事を一切作ってこなかった。しかし数年前からは独自の取材記事なども作るようになっていた。やはり、“もはやメディアとしてやっていくしかない”という、ある種の覚悟みたいなものが生まれたのではないか。
実は海外には日本のように多くのユーザーを抱えるニュースのウェブサービスやアプリはほとんどなく、大半の人はSNS経由でニュースに接していると言われている。逆に言えば、ニュースのウェブサービスやアプリがしっかりと公共性を保つことができていれば、ポピュリズムに走ったりすることもないのではないか。それだけに、『Yahoo!ニュース』などの責任の重さはどんどん高まっていくと思う」。
■「主語をテレビ局に入れ替えたとしたら、同じ問題が出てくるのではないか」
Yahoo!ニュースが今後取るべき対策について藤代氏は「これからさらに成長してマスメディアになっていくのであれば、“トピックス審議会”みたいなものがあったらいいと思う」と話す。
「例えばある芸能人が嫌いな編集者が“こいつやったるで!”と考え、“そういう原稿を書いてくれないか”とメッセンジャーアプリで情報提供元に依頼し、記事をトピックスに掲載していたとしても、我々には確認する術がないのが現実だ。その点、マスメディアにはメンバーも公表される紙面審議会や番組審議会、あるいはBPOなどが存在していて、極端になったりバランスが悪くなったりしたことも含めてチェックしたり、議論したりできる場がある。今後はYahoo!にもそういうものを持ってもらい、誤った内容の記事を掲載した時などに、そのプロセスを解明して再発防止につなげるといったこともやっていかなければならないし、その責任があると思う。
Yahoo!ニュースは”弁護士やメディアに詳しい研究者など外部の有識者から定期的に意見をもらい、社内でも大手メディアで長年の経験のある人材から定期的に意見をもらっている”と説明しているが、同じことをテレビ局が言ったら怒られるのではないか。つまり、そういうことを言っている時点でまだまだシステム、制度としては十分に整っていないということだ。今後、ブラックボックスだった編集方針についてもっと説明してくれるようになれば良いと思っているし、そのきっかけになりうるという意味で今回の発表は前向きに捉えている」。
テレビ朝日の平石直之アナウンサーも「テレビ朝日の報道だって、Yahoo!ニュースで知るという人が多いと思うし、“文春砲”の迫力や拡散力も、やっぱりあのトピックスに載るかどうかで変わってくると思う。場合によっては世論を誘導する力もあるくらいだ」とコメント。
するとスタジオからは「Yahoo!ニュースは偉い決断をしたのではないか。主語をテレビ局に入れ替えたとして、他に今回のような説明をしているところはあるのか。誰が決めているのか、基準が分からないという意味では、テレビ局も同じではないのか。番組審議会は本当に機能しているのか。本当に誰も“世論を操作しよう”と思っていないのか」との指摘も出ていた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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