現在の将棋界にはタイトルホルダーが4人いる。渡辺明名人(棋王、王将、37)、豊島将之竜王(叡王、31)、藤井聡太王位・棋聖(18)、永瀬拓矢王座(28)。「4強時代」とも言われ出している中、ここに食らいつこうとしているのが広瀬章人八段(34)だ。2020年度の賞金ランキングでも4人に次ぐ5位で、トップ棋士12人が参加する将棋日本シリーズ JTプロ公式戦にも3年連続7回目の出場を果たしている。タイトル2期の実績もあり、まだまだ活躍が期待されるが、当の本人からは4強に割って入るために「AIをうまく使うことを重視するか、変化球みたいなものを磨いていかないといけないのか、考えている最中です」と、今後の方針について頭を悩ませているところだという。
各棋戦で上位の常連であり、いつまたタイトル戦に登場してもおかしくないトップ棋士・広瀬八段。ただ2020年度は賞金ランキングこそ5位だったが「タイトル戦には出られていなかったので、ちょっとトップグループからは遅れている」という感覚がある。さらには「2番手グループにも今の自分だと危ういところがあるので、年齢との戦いにもなってきている」と厳しめの自己評価だ。4強だけでなく、続々と若手棋士も台頭してきており、その突き上げを肌で感じているのだろう。
30代も半ばに入った今、選択を迫られている。「今はAIの研究が不可欠な時代ではありますけれど、自分はそこについていけているか疑問なところがあって、そのあたりから考え直しです」と、将棋ソフト(AI)を使っての研究について再考している。AIを使って事前研究を徹底的に行えば最先端の将棋が身につく一方、まるで新しい将棋を提案されることもあるため、その労力は膨大になる。型も定まらず、また吸収力もいい20代ならそれでもいいだろう。ただし「自分も30代半ばになって、将棋の骨格のようなものが固まってきてしまっているので、そこから新しいものを取り入れるのも結構大変」と、経験があるからこその柔軟性の減少も、はっきりとした自覚がある。中途半端に取り入れてしまえば、さらにフォームを崩すことにも直結しかねない。
トップ棋士の中でも、うまくその変化に順応している棋士はいる。渡辺名人、さらにはレジェンド羽生善治九段(50)は、その代表例だ。「新しいものを取り入れるのをうまくできる人が長く活躍する。羽生さんとか渡辺さんとか、そういう棋士ですよね」。ただ、誰もがそううまくはいかない。「それぞれが培ってきたものを活かす指し方も今後は必要になってきます」と、吸収とはまた違う変化の在り方もあると語った。
長い歴史を誇る将棋の世界にあって、この直近10年だけでもその内容は大きく変化した。新たな定跡や戦法が生まれていく一方で、一度は誰もが指さなくなったような古いものが再評価されるというケースも出てきている。自分の中で蓄積されたものであっても、さらに検討を重ねてみたり、自分独自の変化球としてアレンジを加えたりすれば、AIによる最先端の将棋といい勝負ができるかもしれない。「自分は今、模索中ですね。簡単なことではないのですが、中堅以上になってくるとだんだんそういうことを考えざるを得ないのかなとも思います」。4強の一角を崩さんと広瀬八段が挑戦者に名乗りを上げた時、そんな戦い方を携えて、盤へと向かっていくだろうか。
(ABEMA/将棋チャンネルより)