「観客上限数、私たちの提言はほとんど反映されなかった」「心を病んでしまった専門家、距離を置くようになった専門家も」“専門家有志の会”メンバーが明かす政治との“距離”
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 きのう東京オリンピック・パラリンピック組織委員会、東京都、日本政府、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)の各代表らによる「5者協議」が開催され、注目されていた観客の上限数について「会場定員の50%以内、最大1万人」とすることが正式決定された。

・【映像】古瀬氏に聞く、専門家と行政

 会議を終え、橋本聖子・組織委会長は「最後のピースが集まって、大会に向けてオールジャパンで一層統一的なメッセージを出していく」、丸川珠代・五輪担当相は「仮に大会期間中に緊急事態宣言が発令されるような場合、無観客とすることも含めて検討するということで、東京都組織委員会からはその際には5者協議を開きたいと要望があった」と語った。

■「私たちの提言はほとんど反映されなかった」

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 これに先立つ18日、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長などが参加する「コロナ専門家有志の会」は「観客を入れないという方法が感染リスクが低くて望ましい方法」「観客を入れるなら現在の開催基準をより厳しいものにし、開催地の人に限定すべき」などの主張を盛り込んだ提言書を政府と大会組織委に提出していた。

 「有志の会」メンバーの一人で、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の古瀬祐気・特定准教授は「“こういうものが出てくるんだろうな”と思っていた通りのものが出てきた。私たちの提言はほとんど反映されなかったなと感じている」と話す。

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 「政府が誰にも話を聞いていないかというとそんなことはなく、組織委員会の専門家には話を聞いているそうだが、どんな提言をしたのかは一切知らない。私としては、できれば政府の分科会に対して聞いてほしかったが、それが無かったので、しょうがなく専門家の有志たちで提言を出したということだ。

 これまで選手や関係者がウイルスを持ち込むのではないかとか、あるいは選手や関係者、観客の間で感染が広がるのではないかといったことが議論されてきたが、それ以上に開催によって街が活性化して外出や飲み会が増えた結果、大会とは関係のない人たちの間で感染が拡大することをすごく懸念していて、そのことを強く打ち出した。

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 中には“中止した方がいいんじゃないか”という思いを持っているメンバーも複数いたと思う。だからといって“中止の方が望ましい”というメッセージをこのタイミングで出したところで、それが受け入れられることはおそらくないだろう。提言によって私たちがちょっとスッキリしたり、市民の皆さんが“よく言ってくれた”と褒めてくれたりすることはあっても、大会の中身が何も変わらなければ意味がない。

 そういう理由から、皆で合意の上、今回は“中止”という言葉を入れず、“少しでも耳を傾けてほしい”という思いを込めて提言したということだ」。

■「心を病んでしまった専門家も何人かいる…」

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 “専門家”による会議には、内閣官房の「新型インフルエンザ等対策有識者会議」があり、その下に「基本的対処方針等諮問委員会」「新型コロナウイルス感染症対策分科会」などが設置されている。また、厚生労働省には「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」と「クラスター対策班」が、さらに大会組織委には「新型コロナウイルス対策専門家会議」が設置されており、複数の会議でメンバーになっている専門家も存在している。古瀬氏自身も、昨年2月に設置された厚生労働省クラスター対策班のメンバーだ。

 一方で、GoToトラベル事業の開始時期や緊急事態宣言の期間の設定など、必ずしも“専門家”たちの意見が政策決定に反映されているとはいい難い場面も見られる。古瀬氏は政策決定者との関係についてどう考えているのだろうか。

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 「厚生労働省のアドバイザリーボードは客観的事実を提示してリスク評価だけをするし、諮問委員会は“緊急事態宣言を出す。いいですよね”と聞かれて“はい”か“いいえ”かを答える。一方、専門家会議はメンバーが医療の専門家だけだったので、“彼らの評価には経済や社会のことが入っていないじゃないか”ということで、首長や企業経営者を入れて作ったのが分科会だ。緊急事態宣言やオリンピックについてなど、政府から話し合って下さいと言われたことを議論し、その結果を元に提言をすることもある。

 私の場合、経済社会活動がいらないと言っているわけではなく、感染者や亡くなられる方を一人でも減らすためにはどうすればいいのか、ということに焦点を絞って活動している。それが社会にとって正義なのかどうかはまた別の話だし、私の理想と行政の対応が異なることもある。私たちのリスク評価も含め資料は公開されているので、お忙しいとは思うが、市民の皆さんにも行政がどういう判断をしてきたのかを確認してみてほしい。

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 それでも、やはり“アリバイ作り”のために呼ばれていると感じることもある。やはり“専門家に意見を聞いている”というのがミソだ。つまり耳に入れただけで、飲み込んだ、ということではない。そこはずるいな、と思うことはたまにある。しかし病院で働くお医者さんとか看護師さん、薬剤師さんたちが、割に合うかどうかという価値観で動いていないのと同じで、自分たちの意見が通らないことに対して、もどかしいと思うことはない。

 また、私は名前も売れていないし、見た目も怖いと思うので(笑)、批判が来ることも少ない。しかし、目立つ人たちは大変のようだ。去年の1回目の緊急事態宣言が出た頃は本当に忙しかったし、心を病んでしまった専門家も何人かいるし、距離を置くようになった専門家もいると思う。しかし辞めた人はいない。もしこれが10年前だったら、これほど専門家が発言することもなかったと思う。大学の研究者が何十人という単位で入って発言する機会があるだけでも、いい方向に向かっているんじゃないか。今後は、ひとりひとりが“エビデンスとは何か”ということを学び、科学リテラシーを身に着けていくことだと思う」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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