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 22日、旭川医科大で開かれていた、学長を解任するか否かを審議する学長選考会議の最中に起きた、北海道新聞旭川支社の女性記者(22)の逮捕。

 同大では吉田晃敏学長が前の病院長に辞任を迫ったり、複数の大学職員からパワハラの訴えがあると指摘されたりするなど、その責任が問われており、北海道新聞によると、記者はこれらの問題を取材中だったという。

「旭川医大の過剰防衛では」“潜入取材”を得意とするジャーナリスト横田増生氏は、取材中の新聞記者逮捕をどう見た?
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 一方、会議がどこで行われているのかを探るために記者が無許可で立ち入ったという建物は、当時“関係者以外立ち入り禁止”。大学側も報道に対し、会議後に玄関で取材に応じることを事前に通告していたといい、北海道新聞も建造物侵入の疑いで逮捕されたことについては「遺憾だ」とコメントしている。

 問題の学長選考会議は「職務上義務違反があり学長に適しない」(西川祐司議長)との結論に至っているが、これでは「報道の自由が奪われてしまうのではないのか」ー。報道を受け、Twitter上にはマスコミ関係者を中心に、そんな意見も数多く投稿されている。

・【映像】報道の自由は免罪符?潜入取材の是非

「旭川医大の過剰防衛では」“潜入取材”を得意とするジャーナリスト横田増生氏は、取材中の新聞記者逮捕をどう見た?
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 ユニクロ、アマゾンなどの企業に“潜入取材”をし、迫真のルポを執筆してきたジャーナリストの横田増生氏は、自身のポリシーについて「勤務中の死亡や過労死。パワハラなどの人事問題を抱えているのではないかという企業の現場を選んでいる。

 また、嘘はつかないことが大切だ。嘘をつけば企業にトレースされ、“偽名を使った”とか、出版物に対しても“この人は嘘をついた”と言われてしまう可能性がある。だから全て実名で潜入してきた。そのために一度離婚して再婚して、名字を変えたこともある。履歴書も弁護士に見てもらうようにしているし、違法なことは一切していない。テレビにもこのように“顔出し”。ユニクロ潜入中にもABEMAに出演したが、“横田さんではないか?”とはならなかった。実はそこまで人は厳密には見ていないということだろう(笑)」と話す。

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 その上で横田氏は今回の逮捕について「大学側の過剰防衛に見えるし、ちょっと異常な感じがする」と指摘する。

 「これが不倫など芸能関係の問題であれば公的か私的かという線引きが難しくなるかもしれないが、旭川医大の直近の運営状況を見てみると、300億円の収入のうち、56億円は交付金、つまり公的なお金だ。私大とはいえ半ば公的な機関だと言っていい。企業のことについて店長に取材をしようと言う場合、僕なら顔を覚え、店舗の外で出てくるまで待って声をかけて話を聞くようにしている。それは私企業の敷地内だからだ。

 また、公的機関だからといって、何も問題を抱えていない市役所や図書館に勝手に押し入って話を聞くのは良くないが、旭川医大は文部科学大臣も首を突っ込むくらい、明らかに問題を抱えていた。だからといって記者が学長の自宅に押し入って取材をするのはダメだろうが、大学構内に入ることまで規制するというのなら、取材そのものが非常に難しくなる。もし僕が記者だったとしら、やっぱり取材に行っていたと思う。

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 僕の経験上、情報を公開したがらない組織には共通点がある。独裁的なトップがいること、やましいことを抱えていることだ。旭川医大も、その両方を兼ねているから、やはり取材されると迷惑だという意識から、ブロックしようとしたのではないか。そして“出ていってください”というところで収めておけばこんなニュースにはならなかったわけで、むしろ大学側が悪目立ちしてしまったと思う」。

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 『週刊文春』による総務省の接待報道では、半ば“盗聴”のような手法で疑惑があぶり出されている。横田氏は「これも公的か私的かという問題で、芸能人の不倫現場の会話を盗聴するというのはやりすぎだと僕は思う。しかしこのような違法接待の場合は公共性が非常に高いし、“秘密録音”は最高裁でも合憲という判断が出ている。そうしたことも踏まえて取材していかないと、このような記事は書けない」。

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 元経産官僚の宇佐美典也氏は「内部情報を合法に取ってくるためには、例えば公益通報と言って、情報提供に協力してくれる人を見つけていくというルートがある。そこからさらに踏み込むかどうかは記者がいかにリスクを背負うかどうかなので、それを分かった上での取材だったのなら、今回の結果も仕方がないことだは思う。ただし、大学側やその先の文科省の対応が正当化されるかどうかは別問題だし、それは政治や制度の話にも関わってくる。そういう意味では非常に難しい部分があって、僕が役人時代には、ゴミ箱を漁っている記者がいた(笑)。僕たちも、そのゴミ箱は記者に漁られているという前提」。

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 テレビ朝日平石直之アナウンサーは「わざとそのゴミ箱に書類を捨て、それを阿吽の呼吸で記者が拾うことで、“渡してはない”という形にすることもあるということだ」と応じ、取材現場について次のように明かした。

 「もちろん、その場所が立ち入り禁止でないことが条件になってくるし、今回の記者についても上司が命令したということであれば別の問題になってくるが、取材をする上では、会議は全ての内容を聞けた方がいい。例えば国政関連の会議でも取材が許されない場面が出てくるので、マスコミは退室した後も“壁耳”といって壁に耳を当て、誰が何を言ったかをずっと聞くようにしている。空気が出ているところが聞こえやすいので、しゃがみ込んだりしてね(笑)。そうすることで、初めて全体像が分かってくる。逆に言うと、わざと大声で発言する議員もいる。そうすることで、““決定はこうだったけど、俺はこう言ったんだ”ということがテレビで報じられ、地元の有権者にも伝わるから」。

 取材手法と記者個人が負うリスクや組織のあり方など、様々な問題に発展しそうだ。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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