プロの将棋界は実に付き合いが長い。奨励会に入る前の少年少女の時代から、子ども大会などに出場し頻繁に顔を合わせる上位の常連であることが珍しくない。自然と「どこの地域に天才がいる」「同じ学年に強敵がいる」、そんな話題になる。6月26日、藤井聡太王位・棋聖（18）と斎藤慎太郎八段（28）の対局で解説を務めた三枚堂達也七段（27）と伊藤沙恵女流三段（27）も、将棋を通じての幼馴染。ファン注目の一局が膠着状態に入ったところで、突如として同窓会さながらの昔話に花が咲いた。
1993年生まれの棋士、女流棋士を並べてみると、出世頭と言えるのがタイトル1期に名人挑戦も果たした斎藤八段。次いで高見泰地七段（27）も叡王で1期、タイトル経験がある。三枚堂七段も昨年から調子を上げて高い勝率を誇っている。また伊藤女流三段は、まだタイトルこそないが、元奨励会の実力もあり、女流トップ棋士の一人に数えられている。このあたりの面々は、まさに子ども大会の常連メンバー。当時はまだ今ほど男女で差がついておらず、伊藤女流三段が男子選手に勝つこともあった。ふとしたきっかけから、三枚堂七段と伊藤女流三段の同窓会トークが始まったが、その内容はこんな感じだ。
伊藤女流三段 幼少期、指しましたよね。
三枚堂七段 小学生大会でめちゃくちゃ指しましたよね。
伊藤女流三段 三枚堂先生には負けた記憶ばっかり（笑）。
三枚堂七段 覚えてますよ。広島の大会。
伊藤女流三段 あ！あれは珍しかったよね。
三枚堂七段 あれさぁ。覚えてると思うけど、斎藤（慎太郎）君もいたじゃないですか。予選で斎藤君と当たって、勝ったんだよね。勝って喜んでたら、次に伊藤沙恵さんが出てきて、負けて。この2人が予選落ちした。
伊藤女流三段 それはちょっとねぇ。大変なことをしました（笑）。斎藤君にパワーを使っちゃってたんじゃないですか。
三枚堂七段 使うよね、そりゃ（笑）。
伊藤女流三段 その時はまだ、同じぐらいのレベルだったのか。
三枚堂七段 怪童杯、優勝ですからね。怪童。
伊藤女流三段 いやいや、やめてくださいよ（笑）。運がよかった。今じゃ考えられない人に勝ったりしてたから。
三枚堂七段 実力はすごかったですよ。
伊藤女流三段 今が大事ですから（笑）。
話しているうちに敬語を忘れ、いわゆる「タメ口」が混ざるあたりが、実に同学年らしいやりとりだ。子ども時代によく戦った相手と、プロになって“再戦”すると、また違った思いを抱くものでもあるようだ。
伊藤女流三段 （三枚堂七段の）デビュー戦、佐々木勇気さんと対局って縁を感じるなと思ってました。
三枚堂七段 我々の世代だと、佐々木勇気さんと当たるとそういうところありますよね。子ども大会みたいな。
伊藤女流三段 昔に戻ったみたいな気がして。
三枚堂七段 真剣勝負を指したの、かなり久しぶりでした。
伊藤女流三段 昔から佐々木さんも三枚堂さんも有望だって言われてましたよね。この世代、斎藤さんも同い年ですし、すごいみんな有望だって。
三枚堂七段 斎藤さんは有望だったけど。
伊藤女流三段 いやいやいや。（三枚堂七段も）三段リーグ1期抜けしましたし。
三枚堂七段 運がよかったです。けど、有望、有望って言われた人が割とプロにはなりましたね。
伊藤女流三段 今、七段じゃないですか。普通に早いですよね。
三枚堂七段 運がよかったです。
伊藤女流三段 またまた、そればっかりじゃないですか（笑）。
ともに少年少女時代を過ごし、多くの仲間が他の道に進んだ中でも今も勝負の世界にいる同志だからこそ、ひとこと言えば伝わる共通の記憶もある。この2人も、将棋を始めたころの初々しい気持ちを思い出したことだろうか。
（ABEMA／将棋チャンネルより）
