6月25日のKrush後楽園ホール大会、メインイベントはフェザー級タイトルマッチだ。チャンピオン・新美貴士とチャレンジャー・岡嶋形徒の対戦。
新美は派手な存在ではなかったが、王座決定トーナメントで優勝すると初防衛戦では斗麗に勝利。過去に敗れた相手へのリベンジだった。今回、迎えた挑戦者の岡嶋にも、昨年7月に黒星を喫している。チャンピオンがリベンジを期すという立場だ。
一方の岡嶋は、新美が優勝した王座決定トーナメントで初戦敗退。チャンピオンが新美だったことで、再起と戴冠を一気に果たすチャンスが巡ってきた。
トーナメントの森坂陸戦で初黒星をつけられるまで、岡嶋はデビューから5連勝を飾っている。キャリアで上回る新美にも4戦目で勝利。武尊たちと同じ名門KREST所属ということもあり、将来を嘱望される新鋭だ。
だが岡嶋が試合から離れている間に、新美はハイペースで試合を重ねていた。トーナメント優勝、初防衛。大勝負は選手の経験値を上げる。修羅場をくぐってつけた力が、岡嶋を相手に爆発した。
ゴング直後の右フックがいきなり当たる。そこから躊躇なく連打する新美。岡嶋は虚を突かれたか、なす術なくダウン。セコンドがタオルを投入して試合が終わった。1ラウンドわずか16秒のKO劇だった。Krushタイトルマッチの最短記録だ。
本来の新美は、短時間で相手を圧倒するタイプではない。常に前進し、攻撃を止めず、真っ向から立ち向かう。愚直な闘いで相手を根負けさせるようなタイプ。接戦をものにしながらここまできたと言ってもいい。そんなまっすぐな闘いが、この試合では本人にも予想外の秒殺となって表れた。
「僕みたいに上手くない選手は距離を取ってもしょうがない。自分の持ち味を活かすしかない、前に出るしかないと」
リング上では、地元・愛知で待つ妻から「ケガなく帰ってきて」と言われていたことを明かした。ただ本人は「死んでもいいと思ってリングに上がってます」と言う。次の目標はK-1。Krushのチャンピオンとして強さを示したいという。K-1王者にも通用するし、チャンピオン以外に強いと思う選手はいないとも。
防衛を重ねて自信がついたのではないかと聞かれると「少しずつですね」と答えた新美。もともと大きいことを言うタイプではないのだが、それでもK-1王者との対戦には強気な言葉が出てきた。そこには決意が込められていたはずだ。
新美は格闘技に打ち込むため、アルバイト生活を送ってきた。妻には苦労をかけたし、背中を押してもらった。もうすぐ2歳になる子供も。K-1で活躍したいという思いは、ファイターとしての野望というだけでなく「家族のために稼ぎたい」ということでもあるのだ。
新美の強さは“切実さ”に裏打ちされていると言ってもいい。若くて勢いのある選手とはまた違う魅力が、この選手にはある。
文・橋本宗洋