ひとり親世帯の実に半分が貧困に陥っているとされる時代。年間20万組超の夫婦が離婚する中、養育費を継続して受け取れている母子世帯は、わずか24.3%に留まっているのが現状だ(厚生労働省「全国ひとり親世帯等調査」、平成28年度)。
「学生時代から思っていることだが、シンプルな話、こんなに子どもに冷たい国はないと思う。世界では、みんなで子どもを守る。日本だけは未だに、家族の問題は家族だから、子どものことも家族でやって、という珍しい国。結果として子どもの貧困、虐待というテーマが続いている」
そう話すのが、養育費の“立て替え払い”で全国の注目を集めた兵庫県明石市の泉房穂市長だ。5日の『ABEMA Prime』では、泉市長と養育費問題を考えた。
■もう元夫とは連絡も取りたくないし、怖い。
養育費の金額や支払日などの取り決めについては、夫婦が話し合いをして書面にするパターンと、家庭裁判所に調停を申し立てるパターンがある。昨年、夫からのDVが原因で離婚、中学生と高校生の2人の子どもを育てるシングルマザーのもりこさん(30代)の場合、養育費についての知識が無く、話もまとまらなかったため、家庭裁判所で調停した結果、2人で月に1万円の支払いをすることで合意した。
“早く離婚したい”という思いから、養育費の値下げ要求に応じたもりこさん。しかし1年経った今も、約束したはずの子どもの銀行口座への振り込みは一度もない。
「“1人5000円、合計1万円なら俺は払える”と言っていたので、“それでいいです”と言った。私は当初、1人2万円を求めていたので、譲りに譲った金額だ。それなのに逃げられると思わなかった。ただ、DVのことがあって家を出たので、もう元夫とは連絡も取りたくないし、怖い。1万円をもらうために連絡を取るということもしたくない。無職なので、支払い能力があまりないのかなと想像している。それでも面会のことは養育費とは別問題だと考えていて、子どもたちを会わせたいという気持ちもある。元夫にはそういう気持ちはないみたいだが…。
今は児童扶養手当が合わせて20万円もらえるが、それが無くなれば、生活はすごく厳しい状態になる。子どもは元気にしているが、我慢させているところもあるし、遊びに連れて行ってあげたいとも思う。そして上の子は図書館司書になりたくて、短大への進学を希望している。その夢を叶えてあげたいけど、不安でどうしたらいいのか…」。
■請求できないんじゃないかという“思い込み”があるケースも
もりこさんのようなケースについて、小野智彦弁護士は次のように話す。
「請求できないんじゃないかという“思い込み”があるケースも多いが、大抵は請求ができるものばかりだ。ただ、罰則規定そのものはないので、強制執行という形でやっていくしかない。相手が“無職だ”と主張していても、裁判所を通して収入がないという証明を出してもらったり、働けるのに働いてないという場合も、年齢や学歴から平均賃金とを割り出し、支払い命令を出してくれるので、それを元に預貯金や不動産、あるいは高級な時計などを差し押さえてお金にすることもできる。
そもそも金額についても、裁判所が出している養育費の算定表に従って決めていくことになるが、やはり弁護士が付いていない、素人の方だけの状態で調停に行くと、調停員に上手く丸め込まれてしまい、“向こうはこう言っているし、もっと減らせないのか”という感じで減額させられてしまいがちだ」。
■親がどこにいても請求するし、裁判もする。
弁護士資格も持つ泉房穂・明石市長は「やはり一般の方々は法律に詳しいわけではないし、弁護士の知り合いもいない場合が多い。しかも敷居が高すぎて気軽に相談しにくいし、ちょっと相談して5000円などと言われるとしんどい。そこで明石市では7年前に無料の相談を受け付けることにした。全国から心ある弁護士が続々と集まり、今では私以外に弁護士資格を持つ市職員が12名。金額を書けば取り決めになるサンプル書式を使って相談に乗っている。
次に、“子どもにも会わせてもらってないの”にという言い訳をされることが多いので、別居している親子が会う面会交流について、市役所職員が日程調整、立ち会いを行うということを続けてきた。子どもの顔を見れば、自然と“払おう”という気持ちになるという考えだ。
そして“立て替え”だ。まずは保証会社と一緒になって、“市が保証会社に保証料を払うので、不払いになった時には立て替えて払ってあげてください”という仕組みを2018年から始めた。ただ、保証会社にも採算性があるので、昨年からは市独自で立て替える、さらに裁判所の手続き費用も持つという制度を始めた。子どもに必要な養育費を得るためにお金を払わなくてもいいようにする、という趣旨だ」。
こうした取り組みの結果、立て替えたうちの半分以上は回収ができる状態になったという。「市が“払ってくれないなら代わりに立て替えて払った後、回収しますよ”という連絡を入れるだけで、“そんなことをされるくらいなら普通に払うから”となる方が何人もいる。実際に立て替えた場合も、“税金をちゃんと戻してもらわないと”と話すと、半分以上の方は“すみませんでした”と言って戻していただけるし、その後は普通に支払いが始まるケースもある。子どもが明石市民であれば、みんなの子ども。親がどこにいても請求するし、裁判もする。海外であっても手紙を送る」。
■ただ、自治体ができることには限界がある。
日本においては斬新な取り組みなだけに、「最初はキツかった。そもそも離婚というテーマがタブー視されてきたこともあって、行政が関わること自体がいいのかどうか、というハレーションがあった」と振り返る泉市長。
「日本では“非常識”になってしまうが、世界に目を向ければ、多くの国がやっている当たり前の“常識”だ。例えばドイツは立て替え、アメリカは立て替えはしないが給料から天引きをし、払わなければ運転免許を止められる。イギリスも同様で、払わなければパスポートが停められて海外に出られなくなる。フランスや韓国に至っては、立て替えも天引きも全てやっている。そして結論から言えば、回収できない部分は公費で持つことになる。払いたくてもリストラに遭ったというケースもあるだろうし、進んでいると言われるような北欧でも100%回収できている国はない。それでも意味はあると説明させてもらっている。
私は二十数年前に弁護士になったときに愕然とした。離婚で子どもが泣いているのに、どうして誰も声を聞かないのかと。アメリカでは50年前にスタートし、1990年代に世界中でこのテーマが広がったのに、日本だけはなぜか手付かずのまま。やっと最近になって本格的に議論が始まった。市が独自で立て替えまでしているのは明石市だけだが、保証会社が立て替え、保証料を行政が払うというのは日本中でずいぶん広がってきた。ただ、自治体ができることには限界がある。本来、立て替えも国がやることだし、給料の天引きも介護保険料と国民健康保険のように国が法律を作ればできる。罰則についても刑事罰になる以上、国会だ。もちろん条例でも軽い罪や科料については扱えるが、丁寧に議論を進めることが必要だと思う」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側