新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ対策が、快進撃を続ける棋士に勝利を引き寄せる新たなルーティンを生んでいた。将棋の藤井聡太王位(棋聖、19)が7月21、22日に行われた王位戦七番勝負第3局で、豊島将之竜王(叡王、31)に117手で勝利した。初対戦から6連敗を喫するなど、この対局までに2勝7敗と大きく負け越していた“天敵”だったが、中盤からリードを奪ってからはそのまま逆転を許さず突き放す快勝。豊島戦で初の連勝を飾り、苦手とするイメージを吹き飛ばすこととなった。この一局の最終盤、勝敗を決する重要ポイントと見定めたのか、藤井王位はマスクを取ってより集中を高めた。ただこの“マスクオフ”のタイミング、偶然か否か、将棋ソフト(AI)が示す勝率とシンクロしていた。
棋士はコロナ対策として、ほとんどの時間マスクを着用しながら対局をしている。ただし1日で10時間を超えることもあり、その息苦しさも負担になるため、一時的に外すこともある。棋士が対局中に声を発することはほぼなく、敗者が投了を告げる時には、外していたマスクを改めてつけることもしている。
藤井王位も、横に置いてあるお茶や水を飲む際、その瞬間だけマスクをずらすことはあるが、対局時間の9割以上はマスク着用。ただし最終盤、極限の集中力を求められる時には外している。これが優勢の時、偶然にもあるものと重なる。それがAIによる勝率だ。
藤井王位の対局のほとんどを中継しているABEMAスタッフが最初に気づいたのは、「SHOGI AI」による勝率表示が70%に到達、もしくは超えた時にマスクを外すというもの。この王位戦第3局でも、豊島竜王が96手目を指したところで、勝率は70%を超えた。すると藤井王位は飲み物を口に含んだ流れで、そのまま“マスクオフ”。これには視聴者も「70%マスクオフ、ガチやん!」「全集中モードに移行」「王位は拘束具を捨てて前進を始めたな」と大興奮だった。
この一局を解説していた大平武洋六段(44)も驚きだ。当たり前の話だが、藤井王位はAIによる勝率など対局中に知る由もない。「70%とわかって外しているならまだしも、体感的に70%ぐらいだと思って外していたらすごい。ある程度、いける・いけないの判断も、AIとシンクロしているのかもしれない」と舌を巻いた。本人が数値を意識しているという可能性は低そうだが、ただしここが勝利への重要ポイントと感じ取るタイミングが、毎回AIの勝率70%付近と考えることはできる。おもむろにマスクを外し、ハンカチを口に当て、盤への前傾姿勢を深めた時、それは藤井王位が勝利をはっきりと感じ始めた合図だ。
(ABEMA/将棋チャンネルより)