SNSの極端な意見に引きずられている?コロナ懸念から一転、オリンピックに沸くテレビ・新聞の報道を考える
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「始まる前はアホみたいに叩いてたのに…ほんとマスゴミ」

「選手の活躍の場を奪おうとしてたくせにメダル取ったらバカ騒ぎかよ」

「感染者数が過去最多になって“再手のひら返し”が見られるかな?」

連日の日本人選手たちのメダル獲得に湧く東京オリンピック。しかし直前まで数々の問題点や、開催そのものについて批判的に報じてきたマスメディアに対し、「伝えるべきことを伝えられてない」「本当にずるいよ」と厳しい指摘も相次いでいる。東京都で過去最多となる2848人の新規感染が報告された27日、『ABEMA Prime』ではこの問題について議論した。

・【映像】中止論や批判はどこに?テレビ報道の五輪一色は手のひら返し?

■テレビ局、新聞社は一つの人格として見られている

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佐々木俊尚氏(ジャーナリスト):大会運営の是非とアスリートを応援するかどうかは切り分けなければならないし、そこはマスメディアも分かっているはずだ。そしてテレビ局や新聞社の中の人たちからすると、番組や記者もそれぞれ違う。例えばずっと追いかけて来たスポーツ担当者からすれば、今になって急にはしゃいだというわけではないという気持ちもあるだろう。

ただし見ている側からすると、テレビ朝日だったらテレビ朝日というパーソナリティ、人間、同じ顔だということだ。昨日までは悲痛な顔で“反対、反対。こんなことしたら感染者が増える”と言っていたのに、大会が始まった途端に急にバカ騒ぎしているように見えてしまう。だからこういう反応が出てくるのも当然だと思うし、SNS時代に自分たちがどういうふうに見られているかという認識がメディア側には足りないと思う。

やはり急に手のひらを返したように見られないためには、前もって理念を伝えることが大事だと思う。例えば開催の是非を議論していた5、6月の段階で“我々はオリンピックの開催には非常に疑念を抱いているし、感染防止のためには中止した方がいいと思っているけれど、始まればアスリートのことは徹底的に応援する”というようなものをステートメントとして発表した方が良かった。

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平石直之アナウンサー(テレビ朝日):いま局内のスポーツチームは5年間で撮り貯めてきた映像を集大成として出すべく猛烈に働いていて、それが皆さんの見ている“感動秘話”にもつながっていると思う。一方で、大会運営の不手際を指摘してきたニュースチームもいる。そして各番組に編集権がある中で、皆さんが何を見たいと思っているのかを考える中で、ニュースの素材を押しのけて、スポーツの素材が選択されているということだ。各局が横並びで競争をしている時に自分たちだけ違ったものを出すことで視聴者に刺さり支持されればいいが、そうならなかった時の怖さの中で、こうなってしまっている。

難しさもあるが、それは言い訳でしかないと言われれば、その通りだと思う。佐々木さんがおっしゃるとおり、テレビ朝日はこう、フジテレビはこう、というような、きちんと局を貫くものが無く、視聴者が求めるものを流していることが、“変節した”とか“手のひら返しだ”と思われている面があるだろう。

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佐々木:ただ、その都度その都度、視聴者の求めるものを流す、つまり見られたいがために大衆に寄り添っていくと、理念が吹っ飛んでしまう。それは「GoToキャンペーン」の時も同じで、“やると感染者が増える”と大騒ぎした一方、“やめたら観光業者が悲鳴”と大騒ぎしたのもそうだ。これが今のマスメディアの根本的な問題だし、目先の視聴率を追った結果、長い目で見た時に信頼感を失ってしまった、ということの要因にもなる。

中川淳一郎氏(ライター):私は5月31日の段階で『PRESIDENT Online』に『「五輪開催は人命軽視」そんな空気は日本の金メダルラッシュで一変するはずだ』というタイトルの記事を書いたことで、“楽観論を言いやがって”とめちゃくちゃ叩かれた。でも、某旅行会社の役員が記事を読んですごく喜んでいたという話も聞いた。ただ、コロナを怖がり続けなければいけないという空気が充満して、オリンピックを期待すると炎上するという意味のわからない状態が続いていたので、公には言えないと。私はなんで叩かれなければいけないの、大会が始まったら楽しもうよと思っていたので、今は“ざまあ、勝った”という感じだ。

■極端に振れるSNSにマスメディアが引きずられている?

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平石:開催に賛成・反対、アスリートを応援する・しないの問題だけでなく、大会運営の不手際は今もポロポロと出続けているのに、それを無視して感動秘話だけを流し続けていていいのか、という問題もある。実際、熱中症で気を失った選手がいたり、テニスの選手たちが試合を15時以降にしてくれと要望したり、暑さ対策はどうなっているんだろうという話は、錦織選手、大坂選手だけを取り上げていては伝わらない。あるいは無観客開催になったことでボランティアたちが宙に浮いたこと、弁当が大量に余って捨てられていたことなど、きちんと時間を取って報じるべきだろう。

こうしたことは大会後ではなく、今やっておかないと、あったかどうかもわからなくなってしまう可能性がある。選手たちが活躍して盛り上がっているし、応援ができて楽しいからいいじゃないか、というのは違うのではないかというところは押さえておく必要があると思う。そこが逆に振れ過ぎたために、開催しろと言っていた人たちは“ほら見ろ”、そうでない人は“逆襲モード”になっているのだと思う。

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佐々木:ただ、批判も含めて真っ当な報道はするべきだと思うが、バッハ会長の広島訪問や、選手村のベッドをdisる報道を見ていると、重箱の隅を突いている感じがした。コロナ患者用の病棟が余ったことについて、“使われ無くてよかった”という発想ではなく、“使われないのに、税金の無駄遣いだ”という報じていたこともそうだ。弁当の問題に関しても、契約から製造までの細かな経緯を踏まえて報じないと、軽々しく批判はできないと思う。そういうところもメディアに対する反感の一つにはなっていると思うし、そのせいで良い報道があっても影に隠れて評価されなくなる問題も起きていると思う。

中川:当事者に知り合いがいるかどうかも大切だと思う。私の場合、広告代理店時代の同期が聖火リレーの担当で、4カ月の間、各地を回っていた。友達がやっていたせいもあるかもしれないが、実際に聖火リレーを見ると、案外感動するもの。でも、規模縮小になって悔しそうだった。一方で、ネット上では聖火リレーで企業の車がどんちゃん騒ぎしてバカだ、という方向に流れてしまった。

あるいは来賓の応対の仕事をするはずだったが、無観客になったために全部吹っ飛んだ当事者、会社でノベルティーをいっぱい作ったのに、全て無駄になってしまった当事者の怒りの声も聞いた。そういうことを知らないまま、人々が作ったものを安易に潰す風潮がネット時代になって出てきた。これでいいのかと思う。

平石:どうやったら開催できるのか、ということすら探れず、そういうことを言うだけで叩かれる雰囲気があったのは間違いないと思う。

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佐々木:多くの人はテレビや新聞に対し、中庸で冷静な、バランスの取れた報道を求めているのに、どうしても極端な反対派と極端な推進派の意見ばかりが見えてしまうSNS時代に引きずられている部分もあるのではないか。ネットが普及する前から日本のマスメディアは“空気“に常に支配されているようなところがあるが、何か大きな事象が起きて、叩かれる対象が見えるとこぞって叩く。大会組織委員会の森元会長が典型で、“佐々木さん、今なら森のことは何を書いても大丈夫だから。なんかネタ無いですか?”という連絡が週刊誌から来た。

確かに開会式についてもグダグダな面はあっただろう。その一方で、現場の人たちは一生懸命やってきたわけだし、面白いコンテンツもあったのも確かだ。そこはちゃんと見て褒めましょうということで良いのに、何がなんでも否定したい人たちと、何がなんでも肯定したい人たちの両極端な意見だけを持ち上げて騒ぐのは不毛さがある。

SNSというのは常に極端に振れるという前提で、どうやってバランスの取れた世論に収束させていくのかが、今のマスコミに求められている役割なのに、どちらかというと後ろから火をつけて回っているところがあるのではないか。それが今なら“オリンピックを応援しなければ人でなし”、ちょっと前だったら“聖火リレーを批判しないやつは人間じゃない”みたいな空気があった。本当はそういう空気をぶち壊すことが表現の自由、出版の自由なのに、メディア自らがその役割を失っているのではないか。オリンピックの閉会式後、マスメディアがどう報道するか注目している。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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