パソコンの前に座り、モニターと向かい合う筋萎縮性側索硬化症(ALS)の男性。自分の意思で腕を動かすことはできない。しかし、画面上では手を動かしていないのに、さまざまな操作が行われている。
男性がパソコンを操作できる理由、それが埋め込み型のブレインマシンインターフェイス、脳と機械を直接つなぐ技術だ。いったいどのような仕組みなのだろうか。ニュース番組『ABEMAヒルズ』では、ロボットと脳の関連性を研究している慶應義塾大学の牛場潤一准教授を取材した。
【映像】患者が脳の“信号”でパソコンを操作する様子(冒頭~)
「まず、手足の動きが不自由な方を対象に、手術で“ステント”を脳の血管の中に入れます。その上で、血管の壁越しに脳の活動を電気的に読み出すんです。これによって外部の機械をコントロールできるかどうか、テストが行われています」(牛場潤一准教授・以下同)
牛場准教授によると、この技術には血管の手術などで使われるチューブ状の金属「ステント」が活用されているという。脳の血管内に入ったステントが、脳の信号を読み取り、目の動きを追うシステムと組み合わせる。すると、手が不自由な人でも、自分の意思でパソコンの操作ができるようになる仕組みだ。
開発した企業「Synchron(シンクロン)」は、オーストラリアで臨床試験を行い、デジタル機器の制御ができることを確認。アメリカの食品医薬品局(FDA)が、国内で行う臨床試験の許可を出した。今後、6人の被験者を対象に、安全性や有効性を検証していく予定だという。
「テストの主たる目的は安全性です。12カ月間、入れっぱなしにしても、体に対して『有毒・有害ではない』とチェックするための安全性を確認する試験です。副目的として、信号の品質が悪くならないかどうか、1カ月、2カ月と経っても信号が安定しているかどうか。今回は前段階の技術確認にとどまっています」
脳に埋め込むコンピューターといえば、イーロン・マスク氏が創業したニューラリンクも、サルの脳から信号を読み取る研究を実施。2000個以上の小さな電極を通して、脳からの情報でゲームをプレイするなど、細かい動きが遅延なく反映されることを実証した。
牛場准教授によると、ニューラリンク社が開発した装置は「製造すること自体も難しい」という。その上で、実用化には「かなりの時間がかかる」と予測する。
「実際に脳の中に機器が留置されたとき、脳がどのような反応をするのか、まだ誰もやったことがない。今までずっと医療の世界で長く使われてきた“ステント”と違って、生物学的な安全性が未知です。何から何まで新しいものを作っていますから『安全性の評価をやってもいいよ』というところまでたどり着くのは、まだ時間がかかりそうだと思っています」
一方、Synchron社のステント型の装置はシンプルだが、すでに一定の安全性が確認されているステントによるブレインマシンインターフェイスだ。これらの技術が実用化されれば、手を自分の意識で動かせないALSの患者らにとって「非常に大きな1歩になる」と牛場准教授は話す。
「現時点では、スイッチをオン・オフにする非常に単純なコマンドしか出せないかもしれない。それでも、何もできなかった人がこれを使って、イエスかノーか、自分の意思を外に出せるようになる。つまり、できなかったことができるようになる。ゼロが1になるという意味で、当事者の方にとっては非常に大きな福音だと思います」 (『ABEMAヒルズ』より)
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