岩本涼さん、24歳。茶道歴14年を超える、若き茶道家だ。しかし、彼はもうひとつ、お茶を取り扱うベンチャー企業「TeaRoom」の社長としての顔も持っている。
「ひとつは産業の川上側、これは茶畑なり第1次産業のほう。あともうひとつは、川下側のマーケットを作るほうの2つを事業として行っている。川上側のほうだと、お茶の単価が下がりすぎているという現状に対して、自分たちで農家になって工場を吸収して、新しい生産のモデルを作ろうと奮闘している。川下側で言うと、ペットボトルにお茶の需要が固定されているというところから、その需要を新しく開発しようという形で、お茶の需要開拓の事業をやっている」
取材中もついつい飲んでしまうほどお茶が大好きだという岩本さん。9歳の時に茶道を始め、学生時代には3度にわたる海外留学を経験。そこで受けた衝撃が現在の自分を作ったと話す。
「お茶の人として認知されるようであるならば、日本文化や日本の宗教観といった、日本のライフスタイルまで知らなければならないというのがかなり衝撃的だった。海外から見ると、日本茶の文化も産業もちゃんと知っている人でないと、お茶の人と評価されないんだというところが衝撃的だった」
さらに、留学経験を通し、海外の“喫茶文化”に目を付けたと話す岩本さん。お茶の「文化」と「産業」を結び付けることにより、日本のお茶産業の課題を解決できると考え、会社を立ち上げた。
「イギリスだったらアフタヌーンティーとか、様々な喫茶文化が存在している中で、日本国内においては茶道とかと言われていると思うが、お茶を通して生き方を学ぶというところまで昇華させているというのが、日本のお茶文化だと理解している。お茶の文化自体が、産業とともに衰退してしまっている。日本茶という産業が衰退すれば、茶道という文化も衰退するというような構造となっている現状に対して、何か打破したいという気持ちがある」
そんな、岩本さんが目の当たりにしたのは、技術の革新の影に隠された農家たちの苦境だ。
「お茶の現状としては、農家さんはどんどん離農し、第1次生産は非常に疲弊しているというのが現状。ひとつはペットボトルが大きい理由だ。ペットボトルの需要が市場の大半を占めるようになると、そこに使われている茶葉というのは非常に安価な、大量生産された茶葉になる。そうすると、高い茶葉を作られている農家さんや、手仕事で本当にいいお茶を作られている農家さんの価値というのが、市場に伝播されなくなってしまうというところが衰退の原因になっている」
今年で創業4年目を迎えたTeaRoomでは、静岡にある経営破たんした工場を受け継ぎ、自社でも畑からの日本茶の生産を行っている。そして、茶葉の販売やお茶のプロデュースに加え、ウイスキー樽で熟成させた紅茶や日本茶の葉を使ったお酒の開発といった、お茶の新たな楽しみ方の提案なども行っている。
「お茶の需要に対して、新しいメーカーとして何を供給できるのだろうと考えた時に、例えば茶葉をお酒に変えてみよう、煙に変えてみよう、パウダーに変えてみようとか。お茶本来の価値を知っているからこそ、その価値の伝播方法、伝える方法を変えて、飲料としてのお茶を売るのではなく、お茶を手段として何かしらの商品を作るとか、何かしらの課題を解決するとか思考をスイッチさせて展開していた」
そして、受け継いだ静岡の工場では、荒れ果てた茶畑を耕し次の世代へ継承するということと、お茶の新たな楽しみ方を研究するという事業も行っている。工場を訪れる農家の人と接する中で、新たな気付きも生まれていると岩本さんは話す。
「茶葉を作る生産者の肥料のあげ方だったりとか、昔と同じ方法でやっていたりする。『時代というのはこういうふうにシフトしているから、お茶の味もこういう風に変えてください』というふうに、生の茶葉の生産者、お茶畑をやっている生産者の方にフィードバックをすると、『そうなんだ』と。『じゃあ肥料のあげ方、こういうふうにしてみるよ』みたいな話とか、共有をしながら一緒に歩んでいくという形を今はとれているかなと理解している」
お茶の新たな魅力を日本、そして世界へ。「茶道家」と「経営者」、二足の草鞋を履く岩本さんには、創業以来掲げているこんな理念がある。
「私たちは『お茶を通して対立のないやさしい世界を目指して』というところをビジョン・理念としていて。それこそお茶という財は普遍的な財で、全世界に展開ができるし、老若男女というか、世代間を超えたコミュニケーションというのも生めるだろうし、人種間を超えたコミュニケーションもとれるだろう。みんなが持ちうる優しさを顕在化するツールとしてのお茶というところをコンセプトとして、自分たちは事業運営をしている。プロダクトを供給するのももちろんそうだが、そのプロダクトの先にある消費の姿というのも一緒に見ながら、お茶を販売するというような形態をとっている」
(『ABEMAヒルズ』より)
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