人々が多様性を認め合う社会に向けた取り組みが進む中、トランスジェンダーについて理解を促進しようと活動する小学生がいる。2年生のときに出版した絵本『しょうがっこうがだいすき』が12万部を超えるベストセラーとなった秋元ういちゃん(小5・愛知在住)だ。
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2年前の夏休み、テレビ番組を通してトランスジェンダーの存在を知ったと話すういちゃん。自由研究として当事者2人へのインタビューを実施、「“みんなと違う”とか、“普通にしなさい”とか、みんなが簡単に“普通、普通”と言っていることが、トランスジェンダーの人たちにとってはとても苦しい言葉なのだなということが分かった」と振り返る。その後も理解を深めるうち、小学生向けのトランスジェンダーの解説本が見当たらなかったことに気づき、今年3月に小冊子『小学生の私たちが知っているだけで、せかいをかえることができる。』を自費出版した。
「Eテレの『もしも性別スイッチがあったら』という番組をたまたま見ていて、“こういう人いるの?”と聞いたところ、父親の祥治が“いるよ。実際に会ってみたい?”となり、インタビューをさせていただくことになった。ただ、私たち自身も、彼女に説明しようと思ったときに、小学校3年生の子に伝わるような本が多くはなかった。そこから“もっと多くの人に知ってもらったらいいのに”と、簡単な小冊子にしてみようということで出来上がった」(母・舞さん)。
「トランスジェンダーの人がいると聞いたとき、わたしは“ふつうじゃない”と思った。でも“じゃあ、ふつうってなんなの?”と聞かれたの。こたえがわからなくなった。(中略)“ふつう”は、人それぞれで、いろんなかたちにかわることば。ひとそれぞれに“ふつう”のかたちがかわる。ちがう、ってこと。」と、自身の経験に基づき、易しい言葉で綴られた同書。母・舞さんは「インタビューを彼女なりに解釈をして、小学生の皆さんにも分かりやすく短い言葉でまとめる中で、思ったことを率直に書かせていただいている。この本を読んだらトランスジェンダーの方のことが分かるかというと、そうではないが、少し触れてみて、トランスジェンダーの方に興味を持っていただく、そのような本になっていると思う」と話す。
出版日にはトランスジェンダーを公表している台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タン氏との対談も実現した。「(当事者は)小さい頃からトランスジェンダーだって気付く。そのため、できるだけ早くその子の気持ちを分かってあげる人がいるといいと思う」と話した。
反響について父・祥治さんは「1冊目の自費出版のときは、子どもの記念にと思って100部だけ作ったが、結果的に多くの人たちに注目をしていただいてSNSで拡散されたり、絵本化されたりすることになった。今回の小冊子も毎日のようにYahoo!ショッピングのお店から注文が入るが、当事者の方、そしてお父さんやお母さんたちが、子どもと一緒に読みながら学びたいということで買って下さる方がとても多い印象がある。9月1日にLGBTに関する新たな条例が施行される三重県の鈴木英敬知事への寄贈式も行い、三重の皆さんにもお届けすることに繋がった」と話す。
「一方で、今回の本は実はトランスジェンダーの方のことしか扱っていない。というのも、もともとは小学校3年生の夏休みの自由研究だったので、当時は“だってみんな友達でしょ?”という感じで、恋愛感情、つまり男の人が男の人を好きになるということも、男の人が女の人のことを好きになるということも理解できなかったからだ。じゃあ、今は無理に教える必要はない。あくまでも理解できるトランスジェンダーというところにフォーカスした」。
学研の小学生白書によると、性の多様性の認知度は全体で34.9%。つまり3人に1人は認識していることになるが、秋元さん夫妻のように、家庭で子どもに教えるには難しさもありそうだ。
慶應義塾大学特別招聘教授の夏野剛氏は「うちはよく家族旅行をするが、ハワイに行くとLGBTの店員さんがいっぱいいる。そういう意味では日本でもカミングアウトする人が増えてきたし、買い物に行くとショップの店員さんなどで会う方も多いかもしれない。親に聞いてくることは無いが、実は慣れているということなのかもしれない」と話すと、祥治さんは「我が家の場合、やはり娘が興味を持ったことがポイントだった。興味のないことを無理強いする必要はないだろうと思っているが、まさに夏野さんがおっしゃったように、うちの娘は家族でハワイに行ったときに初めてホームレスの方を見て、“お父さん、あの人、どんな人?”と聞かれて説明をした。そこで興味を持たなければ、それでおしまいだったかもしれないが、“もっと知りたい?”と聞くと“もっと知りたい”と言われたので、東京にビッグイシューというNPOがあるので、お話聞かせてもらいに行こう”と後押しをした」と応じた。
一方、祥治さんとは昔からの友人だというリディラバ代表の安部敏樹氏は「実はこれは難しい問題で、興味を持ったら背中を押してあげられる環境や、海外に行って見たことがあるといった経験は、全ての家庭においてあるわけではない。加えて今回のテーマに関していえば、性自認の話なのか、それとも性的指向の話なのかといったことも親がきちんと理解し、補助線を引いてサポートをしてあげるのは難しい。祥治さんのように、さらに当事者の人、もっと言えば台湾のIT大臣まで繋げるというのは、普通の家庭ではできることではない。すばらしい事例だし、増えていったらいいなと思う事例ではあるが、親の社会的資本や知識が如実に出てきてしまう分野でもあると思う」と指摘する。
夏野氏も「これだけ世界中で多様性が大事だと言われている時代なので、教育プログラムの中にも理解が進むようなものを入れていくことが必要なのではないかと思う。秋元さんのご両親のお話を聞いていると、小学校高学年のカリキュラムには入れていってもいいのかもしれない。それをきっかけに認識する方もいるだろうし、関心を持つお子さんも出てくると思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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