25日の衆議院厚生労働委員会で、夏休み明けの感染拡大への懸念を示した政府分科会の尾身会長。爆発的に感染者が増えている首都圏では今、臨時休校や夏休みの延長が相次いでいる。
23日に発表された新規感染者数が東京を超えた神奈川県では、横浜市が市立の小中学校を8月いっぱい休みにすると発表。また、東京・調布市では、今月26日までだった夏休みを来月5日まで延長すると決めた。
萩生田文部科学大臣は、全国一斉休校を要請しない方針を表明。子どもたちの登校日や時短授業、オンライン授業の実施などに関する判断は、自治体や学校に委ねられている状況だ。
子どもに関する内閣府の有識者会議にも参加する日本大学の末冨芳教授は、コロナ禍での学校運営にどう向き合ってきたのか、これまでの蓄積が非常に重要になってくると話す。
「オンライン授業が展開できるかどうかについては、すでに大きな自治体間の格差が開いてしまっている。教育委員会が特に、オンライン授業やICTを活用した学びについて頑張る教員を育てて、そういう人たちに各学校でリーダーになってもらって、頑張ろうということをしてきた自治体であれば、去年から無理なくオンライン授業ができている。逆にリアルでの授業にこだわればこだわるほど、今慌てているんじゃないかなと。去年2020年の一斉休校の時にも、オンライン授業ができずにプリントを配布して済ませ、提出してくださいという学校が多かった。その時に1回でも分散登校で学校に行って、先生たちと話して『家にいなきゃいけない時間があるけど頑張ろうね』みたいな声かけがあったり、家に電話をかけて子どもたちと丁寧に会話をして元気づけてくれたというケースだと、学びが家でもきちんとできる」
教育委員会と教師が、どんな工夫をしてこの1年を過ごしてきたのか。その取り組みが今問われていると末冨さんは話す。
「何もしない休校と夏休みの延長が最悪のシナリオ。すでにオンラインの授業に取り組める学校はいくつも出てきているし、無理にオンラインにこだわらなくてもプリントでもいい。子どもたちの学びの意欲をきちんと意識させるようなコミュニケーションが学校や先生の側からされれば、問題はそれほど大きくならないかなと」
そして、今懸念されている学校でのクラスターを防ぐために、末冨教授が提案するのが「念のため欠席」だ。
「念のため欠席は、児童生徒本人の体調による念のため欠席と、ご家族の体調や事情による念のため欠席と2種類を想定している。まず子ども間の感染を防ぐためには、例えば喉が痛いだとか、すごくだるいというのも新型コロナウイルスの初期症状としてあったので、いつもと違う体の重さやだるさとかも含めて、特にデルタ株を広げないためには、本人の体調が少しでも悪ければなるべく休ませるということが、他の子どもたちや学校の教員も守ることにはなる。可能な範囲で構わないので、なるべくしたほうがいいというのが、恐らく多くの学校関係者も思われていることだと思う」
体調に不安があった場合に休めるよう、出席日数を内申点に響かないようにするルールも必要だという。感染拡大防止を意識した上で、子どもの学びを継続させるために必要なのが、保護者へのサポートだと末冨教授は訴える。
「まず2020年の安倍政権の時の一斉休校の経験からわかっているのは、特に非正規雇用の子どもを持つ女性が職を失ったこと。今保護者の方、特に女性保護者の方が非常に恐れているのは、自分や家族、子どもが感染したり、濃厚接触になってしまったらまた職を失ってしまうんじゃないか、今まではなんとか働けてきたけど今度こそダメになるんじゃないか。つまり家の収入が途絶えてしまうということを非常に気にしてというか、ものすごい心配をもって今の状態を見ている方がとてもたくさんいらっしゃる。当然のことながら飲食業や観光業を中心に、非常に厳しい状態になっておられる中では、男性の保護者も全く同じ状態だと思っている。だからこそ、私自身は簡単に夏休みの延長だとか長期の休校はするべきではないと申し上げていて、保護者が職を失ってしまえば家庭が非常に不安定になって、子ども自身に何一ついいことがない。だからこそ1つは、どんな形でもいいから学びを続けて、少なくとも保護者が働き続けられるようにしてほしい」
■臨床心理士が指摘する学力・精神面での影響とは
夏休み延長、休校の影響について、臨床心理士で明星大学心理学部准教授の藤井靖氏は、学力面と精神面の両方で影響が出るのではないかとの見方を示す。
「例えば、大学の一般的な話として、低学年時からいろんなことを積み上げて、卒論がある大学なんかは、3年生から計画して4年生でデータを取って卒業論文を書くことがある。そのための準備を1、2年生で統計の技術を学んだりとか研究計画の立て方とかを知っていくわけだが、オンライン化で、授業は同じことをやっていても、体験的に演習で学んだりグループワークで学生同士コミュニケーション取りながらというところは、この間相対的に少なくなってしまっていた。そういう意味では、全体的な傾向として、習熟度というか、学力と言ってもいいのかもしれないが落ちる傾向は心配されるところ。
(小・中・高生の)心理的な影響は、コロナ禍に子どもたちが適応できているかということ。私が見た中では二極化していて、わりと早い段階で適応できていた子と、一方でなかなか適応できない子に分かれてしまっている。その背景には、もともと家庭の中に不和があったりネグレクトだったり、虐待のような状況があったり、親との関係があまりよくなかったりというような、家庭環境がコロナ禍前からよくなかった子たちがさらに追い詰められている。また、元々情緒的に不安定でちょっと心配だといわれていたような子が、この期間長く過ごしてくることによってストレスが蓄積して、今年度に入ってから心理的な問題としてもちょっと重くなってきている印象はある。私が学校に訪問して医療につなぐケースや、病院での相談件数も実感として増えている」
(『ABEMAヒルズ』より)
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