「勝っている人がどんどん強くなるシステム」タイトル経験者・高見泰地七段が語る将棋界の仕組みと藤井聡太王位・棋聖の成長曲線
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 年齢に関係なく、強い者同士が何度も戦うことになる将棋界。プロ入り間もない棋士であってもデビュー年から活躍すれば、その年の間にタイトルホルダーと対戦することすら可能だ。そんな仕組みを「勝っている人がどんどん強くなるシステム」と表現したのが、タイトル経験者・高見泰地七段(28)だ。まもなくデビュー丸5年を迎える藤井聡太王位・棋聖(19)の対局を解説しながら、その強さと成長ぶりを的確に捉えたこの言葉。強者が強者を育てる、勝負の世界ならではのものだった。

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 高見七段は24歳の時に叡王で初のタイトル獲得。トップ棋士との対戦も増え、今後もさらなる活躍が期待される一人だ。その高見七段からして、10歳近く離れた天才棋士の姿は、非の打ち所がないように見える。単なる勝ち負けや棋風、戦法だけでなく、戦い方そのものにおいてもそうだった。

 高見七段 藤井王位・棋聖は、もともと序盤の研究とか抜かりないんですけど、盤上でまたさらにその先を見つけようとしている感じがする。定跡通りだからバシバシやってもいいでしょうという局面でも、もう一回考える。公式戦となると冴えるから、新しい手を改めて見てるのかなと思わせるところがあります。新しい手を探す姿勢はすごい。自分はもともと準備が完璧ではないし、盤上で見つかってもお持ち帰りするんですよ。今日は家に帰ってパソコンとかで「この手あったかな」って入力してみようと、思いとどまるんです。でも藤井王位・棋聖はその場で新しい手を指したりするのかなと。

 特に序盤の事前研究なしには、次々と出場しているタイトル戦で勝ち抜くことなどできない。何せ相手は渡辺明名人(棋王、王将、37)、豊島将之竜王(叡王、31)といった超ハイレベルの作戦家、研究家ばかり。いくら類まれなる終盤力を持っていたとしても、序盤で大きく離されては、挽回の余地がない。それは藤井王位・棋聖が自ら「課題がある」と語っている部分でもある。だからこそ、わずかな時間でも研究には手を抜かない。

 事前の研究が重要でありつつも、それにも勝る経験を与えてくれるのが真剣勝負の公式戦だ。対局者が、その時のベストを持ち寄りぶつけ合う。研究の数時間は長いかもしれないが、対局の数時間はあっという間。盤に向かう集中力もまるで違う。この濃密な時間を、レベルの高い相手と過ごすことが棋士の成長を大きく促進させる。

 高見七段 公式戦をやっている時が将棋は一番強くなる。研究会を週3、4回やったとしても、週2回とかのペースで公式戦が入ると、そちらの方が強くなる。相手も本気で来るじゃないですか。やっぱり違うなと。勝てば勝つほど強い相手とぶつかっていくし、そういう意味では勝っている人がどんどん強くなるシステムです。自分もやっぱり普段以上に本気で考えるし、1日に2局3局やる研究会に比べて、この1局にかける公式戦の方がいいですね。

 最近では将棋ソフト(AI)を用いた研究で棋力を向上させる棋士も増えた。それはそれで十分に価値がある。ただし公式戦は勝ちたい欲求、負けたくない重圧、それらが練習では出せない集中力を引き出す。藤井王位・棋聖が、豊島竜王と今夏に指したタイトル戦は、王位戦で5局(10日間)、叡王戦で4局。計9局(14日間)もあり、ファンの間で「夏合宿」とも呼ばれている。藤井王位・棋聖も「豊島竜王と長い持ち時間でいろいろな将棋を指せたことはとても勉強になりました」と語ったが、言葉通りに戦いながら強くなっている。

 藤井王位・棋聖は、この後も豊島竜王と叡王戦五番勝負の第5局、さらには秋から竜王戦七番勝負で戦うことが決まっており、“鬼の棲家”と称される順位戦B級1組、その他の棋戦でもトップ棋士と戦い続ける。1年通して「強化合宿」のような日々を送る若き棋士は、来年7月に20歳を迎えるころ、どれだけ強くなっているだろう。

ABEMA/将棋チャンネルより)

藤井聡太王位、防衛の瞬間
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第6期 叡王戦 五番勝負 第五局 豊島将之叡王 対 藤井聡太王位・棋聖
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