告示まで1週間となった自民党総裁選。連日の政局を、海外メディアの日本特派員たちはどう見ているのだろうか。
アメリカの経済紙、ウォール・ストリート・ジャーナルのピーター・ランダース東京支局長は「世界第3の経済大国なので、それなりの関心はあると思う。安倍総理が退陣した時もそうだったが、菅総理が不出馬を表明した時に、最終版の一面に載せた」と話す。
「ヨーロッパには意見を出すような新聞が多いし、グループ会社でもあるイギリスのタイムズ紙の場合も記者が自分の意見を結構述べる。ただ、私の場合は岸田さんを応援するとか河野さんがいいんじゃないかとか、野党がいいとか与党がいいとか、そこまでは言わず、できるだけニュートラルなつもりだ(笑)。
ただ、やはりアメリカの新聞としては日米関係にどのような態度を見せているのかは大事かなと思っている。立憲民主党の枝野さんが自分は保守だとおっしゃったこともあると思うが、野党には真ん中ぐらいの人たちもいれば、共産党のような左寄りの人たちもいる。野党が勝つ可能性が排除できない中、日米関係がどうなるかという問題がある。
ちょうど火曜日に岸田さんにインタビューしたばかりだが、やはり対中国政策、広く言えば安全保障政策はこれから非常に大事になってくると思う。8年近く続いた安倍政権は安保法制を成立させ、あるいは米国が抜けたTPPの11カ国を安倍総理が指導的な立場になってまとめた。こういったことが地域の安全保障に大事な影響を及ぼしたので、次の総理も安倍型なるのかどうか、その辺りに注目している」。
イギリスの通信社、ロイターのティム・ケリー東京支局上級特派員は「やはり関心はある。ランダースさんが言うとおり、日本はGDP第3位の国だし、日本株や国債などを保有している海外の投資家はいっぱいいる。総理が変わり、財政・金融政策が変われば市場への影響が出てくるので、やっぱりみんな知りたい。安全保障の面では、次の総理は中国に対してハト派なのかタカ派になるのかにも注目している」と話す。
「先週の金曜日、菅総理がいきなり不出馬を発表したのには驚いたが、短命であったことへの驚きはない。やっぱり支持率が30%以下に下がればそれで終わりなのが日本の政治。こういう結果になると想像していた。ただ、私たちロイターも誰がいいのかを言う立場ではく、中立の道を歩む報道を目指している。その中で次の総裁について注目している点で言えば、投資家はできるだけ安定した政権を望んでいるので、それがどうなるのか。また、近隣の国との付き合い、候補者には靖国神社参拝をする方もいるので、総理になったときにどうするかということにも興味がある」。
■日本の政治システムのメリット・デメリット
来る衆院総選挙で政権交代が起きなければ、今回の総裁選が事実上、次の首相を決めることにもなる。
ランダース氏は「まず国会議員を選んで、そして国会で総理大臣を選ぶという議院内閣制の仕組み自体はイギリスなどでも採用されている制度だが、アメリカ人に分かりづらいと思う。そこに総裁選では自民党の党員投票や国会議員の投票があるというのは、なかなか説明しにくい」とコメント。
また、アメリカが大統領制を採用していることを踏まえ、「日本のように、特に一人の有力者、議員個人に忠誠心を持って集まる派閥のようなものはアメリカにはない。若い方はもう覚えていらっしゃらないと思うが、中選挙区制だった時代の名残りのような感じがする。一つの選挙区で同じ党の候補者が複数人立候補していた中選挙区制の頃は、やはり党内の有力者、派閥の長がバックに付いているから信頼できるのだというような訴え方をしていたし、それは資金面でも必要だった。当時は派閥というものが当然の帰結だったかもしれないが、党公認だけでも選挙を戦える小選挙区制になった今も残っているのは不思議だ。
一方で、日本のいいところかもしれないと思うのは、継続性があること。55年以降、一時を除けばほとんど政権を自民党が独占し、全ての総裁候補が自民党の中で国会議員を長年務めてきた方なので、継続性がかなりある。だから1年ごとに政権が変わり、総理が変わっても、内戦が起きるとかアフガンみたいな状況になるということは絶対にない。記事や記者としては、これまでの政策を180度変えていこうという候補者が現れて、ガラッと変わった方が嬉しいところもあるが、それが自民党、日本の強みの一つかもしれない。
その意味では、アメリカを議院内閣制にした方がいい、しかも中選挙区制にした方がいいという政治学者もいる。例えば南米の国々を見ると、極端な大統領が出てきて、その反動で左寄りの極端な大統領が出くるということがある。それが失敗すると、再び右寄りの極端な大統領が出てくるなど、負の側面も大きいと思う。幸いアメリカはそこまでいっていないが、大統領制がうまくいっていない部分はある」とした。
ランダース氏の話を受け、ケリー氏は「海外ではソーシャルメディアを使うのは当たり前のことだが、日本は法律でいろいろなことが決められているので、2週間、みんなで車に乗って、くり返し名前を言うだけ。普通は強い競争相手がいる中で営業するなら一生懸命に納得させようとするが、日本はそうでもないので、国民との繋がりも薄いかなと思う。活動のスタイルとしては、イギリスだと60年代あたりのやり方かなと思う」と苦笑。
また、日本と同じ議院内閣制であることから、「もちろんイギリスの政治家の中には派閥がある。ただ、日本の場合は会長がいて、その下にメンバーがいて…と、組織になっていることがイギリスとは違う。やはり二大政党制の中では、党内の競争よりも他党との競争になるからだ。また、イギリスの保守党と労働党も議員よりも一般の党員の影響力が強い。戦後、日本が自民党の政権になっていることで、国民は自民党や自民党の政治家のせいにすることが多いが、最終的に選挙で選んでいるのは国民だ。投票率が低いのも国民のせいだ」と指摘した。
■メディアによる政治や選挙の情報提供も必要ではないか
では、日本の政治報道についてはどのように感じているのだろうか。
ランダース氏は「我々は経済紙なので、例えば長年株に投資したりして、資産形成のことがある程度分かっている60代以上の読者ではなく、もう少し若い人たちに対して、株のリスクやメリットなど、ソーシャルメディアを通じて投資のことを分かりやすく発信しようとしている。日本のメディアはインターネットの時代に入るのも結構遅いように思う。ほとんどの若者が紙面を読んでいないので、紙面に載せても仕方ない。他の媒体を通じて伝える必要があると思う。ようやく日経が素敵なウェブコンテンツを提供するようになったが、一般紙は若い人が使っているようなソーシャルメディアを通じて選挙の情報、どのように投票をするのかなど、そういう基本的な情報提供をすることも必要ではないか」。
ケリー氏は「もちろん欧米に比べて日本の報道は遅れているという悩みがある。欧米だと紙の新聞を読んでいる人はとても少なくなっているが、日本では配達もやっているし、紙の世界はまだ終わらないというところだ。その中で、どのように報道で若者に政治を伝えるのか。もっと面白く、理解しやすい方法があるのではないかと思う。ただ、若者の方も自分からもっと政治には興味を持って、いろいろ勉強する責任もあると思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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