悔しさを味わったAFCU-16選手権
日本代表MF堂安律を見ていると、負けん気の強い少年がそのまま大人になったという印象を受ける。
もちろんこれは良い意味で、少年時代から持ち続けたギラつきを、周囲の目を気にすることなく出し続ける。いわゆる牙を剥き出したまま力強く成長していった選手が堂安だ。
左足の精度と強度という強烈な武器を持ち、力強いドリブルと強烈なシュートで貪欲にゴールを狙うアタッカーは、ガンバ大阪ジュニアユース時代から、ひと目見れば「闘争心剥き出しだな」と思う選手だった。G大阪ユース時代によく取材をしたが、その時も話していて気持ちいいほど、自分の思いをストレートに口にしてくれる存在であった。
「俺が目指しているのはもっともっと上。今できているから良いのではなく、もっと上手くならないと、もっと力強くならないといけない」
これは高校1年生の時に口にしていた言葉だ。この時、堂安はU-16日本代表としてバンコクで開催されたAFCU-16選手権に冨安健洋らと共に出場していた。翌年のU-17W杯出場権をかけた準々決勝のU-16韓国代表戦、日本は0-2の完敗を喫した。当時から注目を集め、この試合でも2ゴールを決めたイ・スンウ(現・水原FC、2018年のロシアW杯ではチーム最年少で出場)に強烈な個人技を見せつけられた。
「本当に悔しい。でも本当に彼は凄まじかった。絶対に早く海外に行って彼を倒したい。絶対にこのままで終わりたくない」
韓国戦後、目を真っ赤にしてこう口にしていた。その3年後のU-20W杯(韓国)に出場をする時も「あの時の悔しさは今でも忘れていない。彼(イ・スンウ)より上に行くためにはどうするべきか、自分が海外に行くためには何をすべきかをずっと考えながらプレーをしています」と、16歳の時と変わらぬ鋭い目で口にしていた。
常に持ち続けた冷静かつ獰猛な向上心
その言葉通り、獰猛なアタッカーとして着実に成長を遂げた。高校2年生でトップ昇格をした時も、そこからJ1でなかなか出場機会を掴めず、代表活動が実戦経験の場になってしまった時も「自分はこんなもんじゃないんです。だからこそ、気持ちを落としている暇は俺にはない。『周りに負けていられへん』という気持ちに関しては、正直誰にも負けないと思う」と向上心を失わなかった。
その一方で「自分で直感的に感じる身体のキレとか、やっていて『何か足りひん』と思った時は、徹底して向き合うようにしています。サッカーの映像はよく見るし、周りのハイレベルな選手のプレーを客観的に見て、周りの動き方も見直すことで、自分にとって必要な要素が見えてくる」と語っていたように、独りよがりにならずに冷静に自分を客観視して、周りから学んでいく力も兼ね揃えていた。
他者との差、足りないところを受け入れ、それを自分のプレーの改善に取り組む。冷静かつ獰猛な向上心が、負けん気の強さを引き出していた。
2017年にG大阪のトップチームでようやく活躍をすると、同年6月にオランダ・エールディビジのFCフローニンゲンに期限付き移籍。目標だった海外へ羽ばたいていくと、ここから自らの力で地位を確保していった。翌年に完全移籍に切り替わると、2019年8月から同リーグの名門・PSVアイントフォーフェンに完全移籍。2020年9月にドイツ・ブンデスリーガのビーレフェルトに期限付き移籍を経て、今年7月に同リーグのSCフライブルクへ完全移籍をして、海外での6シーズン目を迎えた。
その過程の中で「俺は常にやれると思っている」と信念に裏打ちされた負けん気の強さはより研ぎ澄まされ、誰が見てもかなりの強気と負けず嫌いがわかる雰囲気を持ったアタッカーに成長し、A代表にも定着をしていった。
日本代表の誇りと責任。大人になり、改めてAFCU-16選手権のことに触れると、「今思うと、改めて『覚悟が足りなかったな』と思いましたね。やっぱり日本代表でプレーをするには相当な覚悟が必要なんです」と口にした。
今、その覚悟は強固なものとして堂安の心の中心にある。自身初のW杯出場に向けて、ただ出場をするだけではなく、そこで日本のために躍動をするべく。少年時代から変わらぬ負けん気の強さを持つ獰猛なアタッカーは、その牙を大舞台に向けて磨き上げる最終段階に入っている。
文・安藤隆人
photo:徳丸篤史 Atsushi Tokumar