FIFAワールドカップカタール2022に臨む日本代表メンバーが発表される11月1日に向けてカウントダウンに突入。当落選上の面々にとっては、落ち着かない日々が続いているはずだ。

 2021年11月のW杯最終予選でのベトナム、オマーン2連戦以降、チームから遠ざかっている室屋成(ハノーファー)もその1人。2018年9月の森保ジャパン発足時から丸3年間コンスタントに名を連ねていたのだから、W杯に行きたいと思うのも当然ではないか。

「いつから呼ばれていないのか、ちょっと覚えてないですけど、監督が選ぶことなので、そこまで『何でや?』とかは思っていません。自分はここでしっかり結果を残すだけですし、タイミングがあればまたチャンスが来るかな、と考えています」と、9月30日のハンブルガーSV戦の後、彼は偽らざる本音を打ち明けた。

 そうやって平常心でいられるのも、現在、ハノーファーで悪くないパフォーマンスを示せているからだろう。FC東京から2020年夏に渡独して3年目を迎えるが、今シーズンから3バックの右ウイングバックにトライ。高い位置を取ることでゴールへの推進力が増しているのだ。

 HSV戦の先制ゴールが1つの象徴と言っていい。開始早々の4分、相手DFが滑ってボールを失ったのを見逃さず、そのままゴール前へ攻め込み、右足を一閃。鋭い一撃をお見舞いした。HSVサポーターが陣取る目の前でガッツポーズを見せ、チームメイトから抱擁を受けるというのは、爽快な気分だったのではないか。

室屋成

ハンブルガーSV戦でゴールを喜ぶ室屋 [写真]=Getty Images

「今年は新しいポジションにチャレンジしていて、サイドバックとは仕事が違う。プレスのかけ方とかも新鮮ですけど、やりやすいと感じながらできています。もともと自分は攻撃にすごく自信があるんですけど、SBはバランスを見ながらなので、上がれない状況も出てくる。でもWBになって後ろに味方がいてくれるので、リスクを考えないでペナルティエリア近くで構えていられる。運動量はだいぶ増えましたけど、やりがいがありますね」と本人も充実感を覚えつつ、ピッチに立てている様子だ。

 その成果もあって10試合で3ゴール。この数字はブンデスリーガ2部の得点ランキングで20位タイ。上位入りしている。ドイツに来た頃は強度やスピード感、個々のバトルの激しさに戸惑うこともあったようだが、異なる環境に適応し、自分らしさを出せるようになったことも、今シーズンの好成績につながっているようだ。

「ブンデス2部はあまりサポートが多いわけではないので、1人でどうにかしないといけない。それが特徴でもあります。そういった中で2年間やってきて、自分なりにコツを掴めたし、立ち位置や味方に頼るのではなく自分で打開する力が身についたと思います。日本にいた時から変わったと言えば、そのあたりかな」と室屋は目を輝かせる。

 もう1つ大きいのは、英語によるコミュニケーションに支障がなくなったこと。2020年夏時点では同僚だったドイツ語を話せる原口元気(現ウニオン・ベルリン)に頼る部分も大きかったと言うが、先輩アタッカーが2021年夏に移籍してからは全て1人でやらなければならなくなった。ドイツ組には通訳のサポートを受けている選手も少なくないが、室屋は違う。だからこそ、ガムシャラに言葉を学び、周りと会話し、自らの意思を伝えてきた。それも前向きな変化につながっているはずだ。

「今は基本、何でも話せます。自分はサッカーだけじゃなくて生活も大事だと思っているので、こうやって英語を喋るとか、海外の選手と仲良くなったりとか、家族で旅行に行ったりできる経験は本当に楽しい」と爽やかな笑顔を見せていた。

室屋成

[写真]=Getty Images

 ハノーファーのチームショップ前に彼を含めた3選手の巨大ポスターが掲げられるなど、すっかり看板的存在になった室屋。HSV戦は最後の最後にカウンターを繰り出され、自らスライディングタックルに行きながら止められず、逆転ゴールを許すという悔しい結末も強いられたが、視察に訪れた日本代表の斉藤俊秀コーチとも会話した様子。その報告を受けた森保一監督は近況を勘案し、カタールに連れていくか否かを最終判断することになるだろう。

 現状だと、酒井宏樹(浦和レッズ)、山根視来(川崎フロンターレ)という壁がいて、9月シリーズに呼ばれていない室屋はやや厳しい。が、2人を超えられるだけの経験値と前向きなマインドが今はある。そのあたりはポジティブに捉えていい。

「国を背負って戦うことはすごく光栄ですけど、やっぱり代表なので、勝ってほしいと願っています。自分が入れないからって何か変に思うことはないし、純粋に応援しています。友達もいっぱいいますしね」

 どう転んでもしっかりと受け止める覚悟ができている室屋。外れたら外れたで、ハノーファーでのプレーに集中するだけ。そこはシンプルだ。

「今のハノーファーは6位。首位のHSVとは少し勝ち点が離れましたけど、もっともっとポイントを稼げると思うし、強くなれるチームだと思っています。ここ2年間は昇格争いができなかったので、今年は最後まで昇格圏にいたい。高い位置で1年間戦って、最終的に上に行ければ一番いい。そうなるように頑張ります」

 28歳の円熟期を迎えた男は常に前を見続ける。できることなら、幼少期からの親友である南野拓実(モナコ)ともカタールで共闘してほしいところ。泣いても笑ってもアピールできるのは1カ月。今こそ、持てる力の全てを注いでほしいものである。

取材・文=元川悦子