●計りかねたコスタリカ代表の戦い方

 サッカー日本代表は現地時間27日、FIFAワールドカップカタール・グループE第2節でコスタリカ代表と対戦し、0-1で敗れた。前半は互いに消極的なプレーに終始し、日本代表は後半に攻勢を強めたが得点には至らず。彼らのゲームプランは正しかったのか。選手と監督の証言をもとに妥当性を検証する。(取材・文:元川悦子【カタール】)
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 初めて出場した1998年のフランスワールドカップ(W杯)以降、日本代表は初戦から連勝したことがなかった。それでも、23日のドイツ代表戦で歴史的勝利を挙げた今回のカタール大会は、27日のコスタリカ代表戦でも3ポイントを手にし、史上初のベスト8への布石を打ちたかった。

 森保一監督は先々の戦いも視野に入れつつ、27日の第2戦はスタメン5人入れ替えを断行。ドイツ代表戦で同点弾を決めた堂安律やドリブル打開力のある相馬勇紀、今季ベルギー1部で7ゴールを挙げる上田綺世ら東京五輪世代を軸としたアタッカー陣を配置。フレッシュな面々の勢いに期待した。

「正直、相手が前からプレスをかけてくるのか、ブロックを引いて守備を固めてくるのかまだ分かんない」とキャプテン・吉田麻也も語っていた通り、スペインに7失点大敗した彼らの戦い方は未知な部分があった。

 しかし、日本代表は相手の出方を伺う前から相馬の鋭い突破で相手に脅威を与える。そのカウンターパンチはコスタリカ代表にとって迫力十分だった様子。警戒心を募らせた彼らは瞬く間に原点回帰を図り、5-4-1の布陣で強固なブロックを敷いてきたのだ。

 そうなると、日本代表はアジア最終予選のようにボールを回しながらも決定機を作れないという悪循環に陥りがちだ。13分には吉田のロングパスを堂安が受け、山根視来とのワンツーからペナルティエリア内を抜け出し、右の角度のないところからシュートを打ちに行くが、前半のチャンスらしいチャンスはこのくらいだった。

●相手の術中にハマったサッカー日本代表のゲームプラン

 相手の術中にハマった森保監督は35分に3バックへの変更を指示。少し間を置いて吉田が気付き、全員に伝達。長友佑都を左DFに下げ、山根を右ウイングバックに上げる形にシフトしたが、それでも攻撃は活性化されない。

「相手の5バックを崩すためには、絶対に裏を狙う選手が必要。そこで(相手の組織が)崩れてギャップができたところで間に入ってきたりとか、そういう連動が必要だったのかなと思います」と長友は積極性の不足を痛感したという。

 最前線・上田にボールが収まらず、鎌田大地が珍しくイージーミスを連発し、堂安もポジション取りに苦慮。ケガ明けの守田もギアが上がらないなど、前半の日本代表が消極的になった要因はいくつもあるが、特に大きかったのが「0-0でも問題ない」というマインドではないか。

「つねに勝ち点3を目指す中で、勝ち点1はしっかりつかみ取れるように。そのうえで、勝ち点3へ持っていくという部分は考えていたゲームプランだった」と指揮官は語ったが、「引き分けOK」という意識だと、どうしてもリスクを冒して攻めようとしなくなる。コスタリカのように堅守速攻を武器とする相手なら、カウンターを警戒して、なおさら慎重になってしまいがちだ。

 鎌田も次のように懸念要素を口にしている。

●楽観的な考えと募る焦燥感

「前半に関しては正直、自分たちは『最低でも勝ち点1』と考えていて、0-0で前半が終わる分には問題ないという話をしていた。コスタリカ代表はコンパクトだったし、不用意に縦パス入れてカウンターをされるのもチームとして嫌だったので」

 そういったローリスクの姿勢はまさにドイツ代表戦の終盤とは正反対。チャレンジャー精神を持って泥臭くガムシャラに点を取りに行こうとしていた4日前の日本代表に比べるとどうしても物足りなさが拭えない。そこが見る側にとっては不完全燃焼になってしまうのだ。

 森保監督の中では「前半を0-0で折り返しても後半になればゴールをこじ開けられる」という確固たる自信があったのかもしれない。ドイツ代表戦であれだけの逆転劇を見せたのだから、強気になるのも理解できる。実際、ベンチにはドイツ代表戦逆転弾の浅野拓磨、快足ウイング・伊東純也、稀代のドリブラー・三笘薫といったタレントが陣取っている。

 長時間守勢に回り続けるコスタリカ代表がペースダウンする目論見もあって、「うまくいけば勝ち点3」という楽観的な見方がどこかにあったのだろう。

 指揮官の想定通り、日本代表は後半頭から浅野を投入、62分に三笘、67分に伊東と次々とカードを切っていく。その成果もあり、確かに敵陣に迫っていく回数は増えた。とりわけ伊東が強引に突破を仕掛け、ペナルティエリアギリギリのところで倒された後半25分の場面はPKの可能性もあった。が、わずかに外でマイケル・オリバー主審はFKの判定。それを鎌田が決めきれず、ジリジリとした焦燥感が強まっていった。

「『焦るな焦るな』と言いつつも、結果だけを見ると、相手の間にはまってしまった印象がある。頭の片隅で『早く点取りたい』と焦って仕掛けてしまった部分があったのかと思います」と堂安も伏し目がちに語っていた。

 この展開のまま終盤へ。日本代表選手は心身ともに疲労が蓄積し、出足が鈍くなる。後半35分の失点はまさにそんな状況で起きた。

●後手を踏み続けたサッカー日本代表と堂安律の反省

 右に開いたジョエル・キャンベル(12番)が三笘をかわし、ボランチのセルソ・ボルヘス(5番)がフォロー。その瞬間、右ウイングバックのケイセル・フレール(4番)が右タッチライン際を走って背後を取ろうとした。これは途中出場の伊藤洋輝が頭でクリアしたものの、吉田の右足アウトのボール処理が小さくなった。

 守田がコントロールしきれず、イェルツィン・テヘダ(17番)が拾ったボールは前線のフレールへ。彼の左足シュートは見事にゴールを捉え、日本代表は絶対に与えてはいけない1点を献上してしまったのだ。

 吉田の中途半端なクリアが直接的な原因と見られがちだが、失点に至る一連の流れを見ても分かる通り、相手の1つ1つのアクションに対して後手を踏み続けていた。その積み重ねが手痛い敗戦という結果になって表れたと言うしかない。

「終盤、薫君がサイドを突破して『俺だったらあそこに入っていきたかったな』というシーンがあったけど、ドイツ戦では全員が迫力を持って中に入っていた。でも今回は体をねじ込んででも入っていく選手が僕含めていなかった」

 すでに下がっていた堂安は反省しきりだった。やはり前半の消極的な試合運びがどうしても悔やまれる。泥臭く戦うマインドを今一度、取り戻さなければ、12月1日のスペイン代表との次戦で勝ち点を奪うのは至難の業と言うしかない。

 日本代表対コスタリカ代表戦の後に行われたスペイン代表対ドイツ代表戦は1-1のドロー。日本代表はスペイン代表に勝てれば2位以内を確保できるが、引き分けだとドイツ代表がコスタリカ代表に2点差以上で勝利した場合は敗退となってしまう。そう考えると勝ちたいところだが、スペイン代表の高度な技術と戦術眼はドイツ代表を上回る。アルバロ・モラタの決定力も光っている。

 彼らを叩くのはドイツ代表よりも難しいかもしれないが、崖っぷちに立たされた今、やるしかない。コスタリカ代表がそうだったように、敗戦から原点回帰を図り、今こそ総合力を結集させて難敵に挑むべきである。

(取材・文:元川悦子【カタール】)

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