カタール・ワールドカップで日本代表が初戦で対戦するドイツ代表は、どんなメンバーになるのか。6月の代表シリーズを終えた時点では、ハンジ・フリック監督率いるチームの顔触れはほぼ確定と思われていた。だが、9月シリーズで思わぬ苦戦を強いられてしまった。まだまだいくつかのポジションや選手枠に関して熟考の必要が出てきたと思われる。各選手の代表チーム、所属クラブでの調子を考慮しながら、ワールドカップ本大会ではどのような26人になるかを予想した。

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【GK】
 いまなおマヌエル・ノイアーが不動のレギュラーに君臨している。ポジショニングと飛び出すタイミング、状況に応じたセービングテクニック……そのクオリティの高さは健在。それどころか、成長し続けている印象さえ与える。ドイツがピンチになると、そこに立ちふさがるのはこの守護神だ。ビルドアップの起点としてフィールドプレーヤー顔負けのスキルを持っているのも素晴らしい。相手がプレスをかけてもあわてることもない。逆に相手守備の薄いところに低弾道の鋭いパスを通し、攻撃を展開してしまう。

 GK王国のドイツはバックアッパーも充実している。2番手には、全ての能力がハイクオリティのマルク=アンドレ・テアシュテーゲンが控えているし、フランクフルトで極上のパフォーマンスを見せたケビン・トラップも準備万端だ。

 今大会のメンバー選定において、コロナで誰かが欠場した時の備えをどれだけできるかが重要になる。GKを4人にしたのもそのためだ。実際、9月の代表戦ではノイアーがコロナで欠場。本戦ではすぐに次の試合がくるし、それぞれの試合でまた新たなコロナ感染者や怪我人が出るかもしれない。

 グループリーグ3試合で3人のGKを使わなければならないという前例はあるだけに、ホッフェンハイムで好パフォーマンスを見せているオリバー・バウマンとともに4人体制で万全を期すと見立てた。
 
【DF】
 守備陣ではCBのアントニオ・リュディガーはレギュラーがほぼ確定。リーダーとして絶大な存在感を見せている。1対1の対応、空中戦の強さは抜きんでているし、守備範囲の広さは尋常ではないレベルだ。ビルドアップ能力でも成長の兆しを見せるなど、充実の時を迎えている。

 パートナー候補はニコラス・ジューレとニコ・シュロッターベックの2人。2人とも資質は高く、不用意なミスが少なくない。前者は1対1の強さ、後者は攻撃の起点となる鋭い縦パスという、異なる武器を持つ。

 さらにフライブルクで非常に安定感のあるプレーを見せているマティアス・ギンターの序列が上がるのも考えられるし、今季ドルトムントで好調をキープしているマッツ・フンメルスが選出される可能性は低くない。

 左SBは、ブレイクスルーを果たしたとも思われたダビド・ラウムの元気がないのが気がかりだ。躍動感のある上下動と精度の高いクロスが攻撃に厚みを加えていただけに、復調が望まれる。代わりに、パワフルでダイナミックなプレーが魅力なフライブルクのクリスティアン・ギュンターが定位置の座を掴むかもしれない。

 右SBは非常に難しい。左SBが高い位置でどんどん攻撃に関わるタスクを担う一方で、右SBにはバランスを取りながらCBのサポートをし、それでいて攻撃の起点を作り出す動きが求められる。攻撃的MFヨナス・ホフマンのテスト起用はうまくいかず、テオ・ケーラーがファーストチョイスだが、はまりきっていない。ギンターやジューレのサイドでの起用も考えたいところだ。
【MF】
 ボランチはヨシュア・キミッヒが絶対的な存在。ポジショングとボールへアタックするタイミングに優れ、攻撃では中盤からのゲームメイク、アタッキングサードで変化をもたらすパスセンス、ゴール前に顔を出すタイミングと全てが優れている。

 相棒には驚異的なフィジカル能力と攻守に起点となれるレオン・ゴレツカで決まりかと思われていたが、ケガ続きでパフォーマンスレベルが不安定。昨シーズンにプレミア制覇を決めるゴールを決めるなど常勝マンチェスター・シティを支えるイルカイ・ギュンドアンは質の高いプレーをもたらすが、そうすると中盤での守備力に不安が残る。

 W杯ではアンカーの位置に守備強化、守備バランス整備の役割を担う存在も必要になるはず。ユリアン・ヴァイグルは必要な戦力となるのではないだろうか。
 
 トップ下は、リーダーシップと類まれなアシスト能力でいまも絶大な存在感を誇るトーマス・ミュラーがファーストチョイス。ジャマル・ムシアラやカイ・ハベルツもこのポジションを最も得意としているが、ピッチ上の監督として替えの利かない選手であり、ここでこそミュラーがミュラーたるゆえんが発揮される。

 ドイツ代表で唯一無二のスキルを誇るムシアラは間違いなく切り札となるだろう。トップ下のほか、両サイドハーフ、ボランチでもプレーでき、どこかで起用されても持ち味を発揮できるのが、ここでは右サイドハーフの一番手と予想した。狭いスペースでもボールを失わず、突破してゴールへ向かう能力がずば抜けている。ボールを引き出すセンスに長けたホフマンは状況に応じて使い勝手が良く、重要な戦力となるだろう。

 左サイドハーフはレロイ・ザネが一歩リードか。バイエルンではムシアラと息の合ったコンビネーションを見せており、スピードに乗ったパス交換からシュートに持ち込むプレーは迫力がある。守備での貢献度も安定しているのも頼もしい。

 パンチ力のあるシュート、突破力と精度の高いクロスが武器のゴゼンスは左SBよりも左サイドハーフとしてジョーカー的な起用法がはまりそうだ。

 アキレス腱断裂の怪我からリハビリ中の逸材フロリアン・ヴィルツはギリギリまでどうなるかわからないが、W杯前のリーグ戦で復帰することができたら、メンバー入りする可能性は十分に残っている。違いを生み出せる選手としてフリックからの評価は非常に高い。無理であれば、こちらも故障中ではあるが、ドルトムントのマルコ・ロイス、あるいはフランクフルトのマリオ・ゲッツェが候補に入ってくるだろう。
 
【FW】
 最も不安視されているのがCFだろう。ここ最近はティモ・ヴェルナーがスタメン起用される試合が多いが、正直まったくはまっていない。守備やオフ・ザ・ボールでの貢献は評価されてはいるものの、得点機でのクオリティが感じられない。

 得点力というところではセルジ・ニャブリに期待したいところだが、バイエルンでスタメン出場が少なく、代表でもインパクトのあるプレーができないでいる。どちらも起用するとなるとセンターではなく、サイドのほうがいいのではないだろうか。

 となると現時点で1トップはハベルツが最有力となるだろうが、これも最適解ではない。ミュラーをトップ起用というアイデアもあるが、これは過去何度も試されて失敗に終わっているため、さすがにないだろう。
 ここにきてドイツメディアやファンから待望論が上がっているのが、ニクラス・フュルクルクだ。ここまで未招集ながら、ブンデスリーガで得点ランキングのトップを走っており、ペナルティエリア内で仕事ができるこのストライカーがサプライズ選出される可能性は十分にある。いずれにしても、ここは最後の最後までフリック監督も頭を悩ませるポジションとなるだろう。

 ワールドカップは短期決戦。「これがベストイレブンだ!」というメンバーを見つけたかに見えても、大会が始まったら思うように機能しないというケースはどんな国でもある。ファーストプランだけではなく、セカンド、サードプランまで、あるいは相手国の対策に応じた布陣や戦い方などを周到に準備をして、そのための26名を選出するのが重要になるのは間違いない。
                
文●中野吉之伴

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