パリ・サンジェルマンでゴールを量産した世界的ストライカー

パリ・サンジェルマンに所属するキリアン・エムバペは、フランス代表を支える若きストライカーだ。少年時代には、かつてフランス代表で活躍したティエリ・アンリ氏やニコラ・アネルカなどを排出した育成機関であるクレールフォンテーヌ国立研究所に入学。英才教育を受けて、才能をさらに伸ばした。

2013年からはモナコのユースチームに所属し、16歳だった2015年12月2日のカーン戦にて交代途中出場でプロデビュー果たすと、2016年2月20日のトロワ戦ではプロ初得点を記録。17歳と26日で奪ったこの得点は、アンリ氏の記録を抜いてモナコでの最年少得点記録となった。

その後も数々の得点でモナコの勝利に貢献してきたエムバペは、2016-2017シーズンに飛躍する。リーグ・アンでは29試合15得点をマークし、モナコの17シーズンぶりとなるリーグ制覇に大きく貢献。リーグ・アン年間最優秀若手選手賞、ゴールデンボーイ賞を受賞するなどタイトルラッシュの1年となった。

この活躍もあって、2017年8月31日には欧州の強豪、パリ・サンジェルマンへの加入が発表された。当時は2018年6月30日までの、買い取りオプション付きレンタル移籍だったが、その才能が認められると2018年には、1億8,000万ユーロ+αという巨額の移籍金で完全移籍を果たした。

パリ・サンジェルマン移籍後は、得点能力が一気に開花する。移籍初年度の2017–18シーズンこそリーグ戦27試合13得点だったが、2018-2019シーズンは29試合33得点と倍増。ブラジル代表FWネイマールとともにチームの軸として貢献した。

パリ・サンジェルマンでの5シーズンでリーグ・アン優勝4回、クープ・ドゥ・ラ・リーグ優勝2回、クープ・ドゥ・フランス優勝3回、トロフェ・デ・シャンピオン優勝4回と、国内のタイトルを総なめにしている。

高速ドリブルと裏への抜け出しが武器

エムバペの特徴は何と言ってもそのスピードだろう。トップスピードは驚異の時速44.7キロであり、これは陸上のスターであるウサイン・ボルト氏の最高時速と同じ速度だ。

この絶対的な武器の使い方がうまく、さまざまな得点パターンを持っている。1つは、単純なスピード勝負に持ち込むことだ。空いたスペースに大きく蹴り出してヨーイドンの勝負に持ち込むとエムバペの右に出るものはいない。相手よりも後ろからスタートを切ったとしても、ボールに追いついているのはエムバペの方だ。

そうなるど守る側はエムバペとの間合いを開けて、彼がスピードに乗る前に体を入れて進路を塞ぐ守り方をするしかない。しかしそうなると2つ目の武器であるドリブルスキルが生きてくる。縦に突破しようとした次の瞬間、急ブレーキから方向転換しカットインして中に切れ込む。ネイマールのような独特なリズムで相手の逆を着くのではなく、単純な緩急で相手の動きを止めてしまう。一度足が止まってしまったディフェンダーは、もうエムバペに追いつくことはできない。自分の絶対できな武器であるスピードを必殺の技にまで昇華させているのだ。

また、ストライカーとして大事なシュート技術の高さも持っている。ゴール前での落ち着きはベテラン選手のよう。GKとの一対一の状況でも、瞬時に空いているコースを見定め、冷静にへ流し込む。さらにシュートを打つ前の駆け引きも上手く、ストライカーとしての全ての能力が高い。

10代でW杯優勝を成し遂げた若きフランスのエース

エムバペは各年代別のフランス代表としてもプレーしてきた。2016年に行われたUEFA U-19欧州選手権では、5得点を奪う活躍を見せてチームを優勝に導いている。すると2017年に行われたFIFAワールドカップロシア2018・欧州予選のルクセンブルク戦で、18歳と95日の若さでレ・ブルーのユニフォームに袖を通した。

FIFAワールドカップロシア2018のメンバーに選出されたエムバペは、第2戦のペルー戦でゴール。19歳183日で挙げたこの得点は、W杯における最年少得点記録となった。さに決勝トーナメント1回戦のアルゼンチン戦では2得点をあげる活躍で勝利に貢献。 決勝のクロアチア戦では4点目となるミドルシュートを決めて、フランスの優勝に大きく貢献した。

10代選手がワールドカップの決勝に出場したのは、1958年大会のペレ、1982年大会のジョゼッペ・ベルゴミに続き史上3人目。さらに決勝で得点を決めたのは、ペレ以来2人目となる60年ぶりの出来事だった。大会2位タイとなる4得点を挙げフランスの優勝に貢献した活躍が認められ、大会の最優秀若手選手賞と同年のフランス年間最優秀選手賞を受賞した。

2022 FIFAワールドカップの欧州予選グループDを5勝3敗の1位で突破し、本大会出場を決めたフランス代表。カザフスタンとの第2戦では大量4得点を決めるなど、チームの勝利に貢献した。W杯2連覇がかかる今大会ではどのような活躍を見せてくれるのか。エムバペのゴールが、フランスがワールドカップ2連覇を達成するためのカギを握るだろう。

文・渡邉知晃

写真:アフロ