日本代表がグループリーグ初戦で対戦するドイツ代表において、最も警戒すべき選手はバイエルンでプレーするジャマル・ムシアラではないだろうか。
19歳ながらすでにバイエルンでの公式戦は100試合を超える。今シーズンはブンデスリーガ14試合に出場し、ここまでチーム最多となる9得点。バイエルン監督のユリアン・ナーゲルスマンからの信頼は絶大で、2アシストの活躍を見せた15節シャルケ戦後には「ムシアラは多くの状況でボールを足下に残せる。非常に素早く、機敏な足の運びがあるからだ。彼の動きは本当にとても速い」と称賛の言葉を残している。
中断前最後となったシャルケ戦でのふたつのアシストはどちらも素晴らしいものだった。38分、ペナルティエリア内へタイミングよく侵入して、セルジ・ニャブリからのパスを受けるとシャルケDFからの激しい守備に動じることもなく、ヒールキックでゴール前のスペースへパスを通して、ニャブリのゴールをおぜん立て。
52分の2点目は起点から関わった。シャルケCKをクリアしたバイエルンはレロイ・ザネからカウンターへ動き出していたムシアラへパスが渡る。ドリブルで少し運んでから右サイドへ走りこんできたニャブリへパスを渡すと、ムシアラはそのままタイミングを見計らいながらセンターのスペースで調整。ニャブリが右サイドで相手のマークを引きつけたところでパスを返すと、そこからはスピードに乗ったドリブルでゴール付近まで運び、そして最後には、数的有利な状況からペナルティエリア内へ走りこむマキシム・シュポ=モティングへ柔らかなラストパスを通した。
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こうした好プレーの数々に元ドイツ代表レジェンドでテレビ解説を務めるローター・マテウス氏も「私はムシアラのファン」と公言し、シャルケ戦後にこれ以上ないほど絶賛した。
「彼のプレーを見ていると自然と笑顔になってしまう。彼が試合で見せてくれるプレーの数々をみただろうか。ヒールパスでニャブリのゴールを、シュポ=モティングが走りこむところへの夢のようなパスでそれぞれアシスト。彼は我々みんなを魅了している。どんな試合でも彼がピッチでプレーしている姿をみたい。そのあとで見せてくれたプレーは魔法のようだった。メッシのようだ。本当に素晴らしい。バイエルンから決して去ってはならない」
マテウス氏が熱狂したのは67分のプレーだ。ゴレツカからの浮き球パスに反応したムシアラはシャルケDF2人とGKとに囲まれながらも、巧みな身のこなしとボール扱いで、まるで相手のマークがなかったかのようにするりと交わしてゴールを決めたのだ。オフサイドの判定で得点は取り消しとなったが、ムシアラのすごさをまざまざと感じさせられたシーンだった。
足下のスキルや軽快な身のこなしだけではない。プレーの観察眼も素晴らしい。ボールの位置、選手の動き、誰がボールへ向かい、誰がゴールを意識し、誰が動きなおそうとしているのかを瞬時に把握してみせる。
相手チームからすればムシアラは間違いなく要注意選手。可能な限りいつでも厳しいマークで自由にプレーをさせないように気を払っている。なのに、気がつくといつもフリーで、パスを受けられる状況にいるのだ。
相手マークの視線がボールや周囲の様子を確認しようと他に向いた瞬間を逃さない。選手はだれでもどこかでボールの位置を確認しながらプレーしなければならない。他の選手の立ち位置をチェックしながらポジショニングを修正しなければならない。
ムシアラはそうやって相手の視線が自分に向いていない瞬間を利用しながらスッと動きなおすので、マークしている選手からしたら、本当に消えたように感じてしまう。またその動き出すタイミングやコース取りが抜群にうまい。
バイエルン、そしてドイツ代表でキャプテンを務めるマヌエル・ノイアーもムシアラに対する評価や振る舞いは、もはや若手選手のそれではない。完全に主軸の一人として扱っている。シャルケ戦後にドイツ人記者にムシアラのパフォーマンスについて尋ねられると次のように答えていた。
「至宝とか、ダイヤの原石とかいろいろ言われているけど、僕らにとって黄金の価値を持つ選手だよ。バイエルンでも、代表でもだ。試合で違いを生み出せる、チーム浮沈のカギを握る選手だ」
ここまで褒めたたえられると勘違いして、調子に乗って、プレーがブレたり、パフォーマンスレベルを落としてしまう例が世界にはたくさんあるが、ムシアラに関してはなさそうだ。
ナーゲルスマンは「彼は謙虚な若者だし、おごり高ぶったりしない。彼にとって大事なのは自分のプレーパフォーマンスをどのように成長させられるかだけなんだ。回りの声にもしっかりと耳を傾ける」とその人間性と心構えに太鼓判を押していた。
ドイツが誇るサッカー小僧ムシアラが、いよいよ世界の舞台でデビューする。
文●中野吉之伴