FIFAワールドカップカタール2022、グループE第1節スペイン代表対コスタリカ代表が現地時間23日に行われ、スペインが7-0で勝利している。7ゴールという結果以上にスペインはコスタリカに何もさせずに圧倒した。この大勝に今のスペイン代表の強さの理由が隠されている。(文:安洋一郎)

●“無敵艦隊“スペインがコスタリカを粉砕

スペイン代表はコスタリカ代表に“何もさせなかった”。

 スペインは82%という驚異的なボール支配率を記録し、試合中のほとんどがコスタリカ陣内だけで行われた“ワンサイドゲーム”となった。あまりの強さにコスタリカ代表の中には戦意を失った選手もいたかもしれない。

 ルイス・エンリケ監督が「私が見た中で最悪の前半だった」と語るなど、スペイン代表は9月の代表戦で前半に苦しむ傾向にあったが、この試合においてはその傾向が全く見られず、11分に幸先よく先制することに成功。結果的に前半に3ゴール、後半に4ゴールが生まれ、7-0の完勝を収めた。

 差が付いたのはポゼッション率やスコア、パス本数だけではない。なんとスペイン代表はコスタリカ代表に1本もシュートを打たせなかったのだ。コーナーキックすら1本も与えておらず、コスタリカ代表はスペイン相手にチャンスを作るどころか、一度も攻撃を仕掛けることができなかった。それだけ完膚なきまでに叩きのめした。

 なぜワールドカップという大舞台でスペインはこれだけの完勝を収めることができたのだろうか。

●新星スペイン代表、強さの理由

 ルイス・エンリケ監督の下でスペイン代表は進化を続けてきた。

 シャビやアンドレス・イニエスタ、ダビド・ビジャらを擁した2010年の南アフリカワールドカップでスペイン代表は圧倒的な強さを見せつけたが、2013年のコンフェデレーションズカップ決勝でブラジルに敗れてからは、全盛期と比較すると成績が伸び悩んでいる。

 その要因はポゼッションサッカーの終焉だろう。サッカー界のトレンドは素早い攻守の切り替えからのショートカウンターへと移り変わっており、多くのチームが前に出る攻撃的な守備を行うチームへと変貌を遂げた。

 エンリケ監督のスペイン代表はかつてのラ・ロハ(スペイン代表の愛称)である「ポゼッションサッカー」を踏襲しつつ、現代サッカーのトレンドも取り入れたハイブリッドなチームに成長している。

 この試合では仮にコスタリカがボールを奪ったとしても、猛烈なカウンタープレスで、あっという間に2人でコスタリカ代表の選手を囲いこみボールを奪取することに成功。最終ラインの位置も高く設定することで中盤の間延びを防ぎ、裏へのロングボールは全てオフサイドにする巧みなラインコントロールで相手に何もさせなかった。

●現在のスペイン代表の最重要人物とは

 そんな新星スペイン代表の顔であり、最重要人物に位置付けることができる存在がガビである。現在18歳の若者はワールドカップのような大舞台でも全く怖気づくことなく躍動した。

 ガビはバルセロナのカンテラ(下部組織)出身のシャビやイニエスタ、セルヒオ・ブスケツのようにパスやテクニックに秀でているのはもちろん、走力と対人戦に強いことが特徴でもある。

 先述した通り、現在スペイン代表にはボールを失った後のカウンタープレスが徹底されており、この戦術にガビのプレースタイルはピッタリとハマる。実際にこの試合でも両チーム最多の6回の地上戦勝利数を記録した。

 また、ポゼッション時には中盤でパスワークに絡むだけでなく、自慢の走力を活かしてハーフスペースを駆け上がることで決定機なクロスを入れたり、自チームの選手をフリーにしたりするなどチャンス創出にも貢献。

 そして74分には見事なアウトサイドシュートでネットを揺らし、スペイン代表史上最年少でのワールドカップ得点者となった。昨年10月の代表デビューから全14試合でエンリケ監督が使い続けているのも納得のパフォーマンスであり、所属するバルセロナ以上にガビが輝くチームに仕上がっている。

 ガビをはじめこの試合でゴールを決めた全6人がワールドカップ初ゴールと、今後の勢いをつけるには十分すぎる初戦での快勝となった。優勝をするためには決勝トーナメント以降に調子を上げるのが重要となるため、この時点でこの完成度の高さと調子の良さは逆に心配されるが、ルイス・エンリケ監督率いる新星スペイン代表が優勝候補の一角であることは間違いないだろう。

(文:安洋一郎)

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