カタールワールドカップは、守備をしっかり作ったチームの躍進が目立った。ベスト4に進んだフランス、クロアチア、モロッコは組織としてのディフェンスのソリッドさを強く感じさせた。彼らが上位に進んだのは必然だったと言える。
では、日本は彼らから何を学ぶべきか?
実は森保ジャパンは「守りありき」の布陣で挑み、それによってドイツ、スペインを撃破し、クロアチアとも「引き分け」ている。つまり、堅守速攻型のチームとして、一つの結果を叩き出した。その点は、大きな括りで言えば同じだ。
もっとも、森保ジャパンの守りは多分に「人海戦術」なところがあった。プレッシングとプレスバックでFWがとにかくボールを追い込むのはあったが、そこを越えられると、深く引いてスペースを消し、アクシデントの発生率をできるだけ低くし、あとは個人が身体を張っていた。そもそも、5-4-1のフォーメーションはほとんど付け焼刃で、場当たり的になるのは当然か。
フランス、クロアチア、モロッコに共通していたのは、守ると同時に攻めのスイッチが入るところだった。最終ラインがベタ引きになることはなく、誘い込みながら反撃する手立てを持っていた。ボールを持って、運び、仕掛けられる選手が配置され、彼らが勝負を決めた。極端なプレスやリトリートはなく、試合を効率よく運ぶための守りで、攻めだった。技術の高い選手がピッチに立って、その選手が守備でも持ち場を守ったのである。
その点、フランスのアントワーヌ・グリーズマンは大会最高評価を浴びる一人だろう。グリーズマンは左利きのアタッカーで勝負を決める技術を持つが、黒子役に徹した。攻撃ではギャップに入ってパスを受け、さばいて、すぐにスペースを作る一方、常に守備をカバーするポジションを取り、球際で五分以上の戦いを演じたのだ。
つまり、3チームは組織を運用するために選手を当てはめたのではなく、選手が組織を運用して強くしていた。グリーズマンだけでなく、ルカ・モドリッチも、アゼディン・ウナヒも攻守一体で、状況次第で一気に天秤を動かした。そうした選手の存在が、チーム戦術を柔軟に変化させたのである。守ることが必要なら守るし、攻めるべき時は攻めるという構えだ。
森保ジャパンは「守る」と決めて消耗戦を挑み、相手の隙を突いて勝利を手にすることはできた。しかしあくまで「弱者の兵法」で、格下コスタリカにはノッキングしている。疲労が見えたクロアチアも、攻め切れなかった。監督が拵えたシステムに、守備的ロールをこなす選手を当てはめる限界だったと言えるだろう。
同じ堅い守りであっても、中身は改善の余地があるだろう。
文●小宮良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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