日本の勝利が決まった時、青のユニホームのサポーターたちは歓喜の涙を流した。世界はドイツ撃破をサプライズと報道した。しかし、それは間違っていると思う。

 日本の白星はサウジアラビアがアルゼンチンを下したことと並んで報じられたが、それも違うと思う。サウジアラビアの勝利は運の良さ、というよりはアルゼンチンの不運が大きかったが、日本の場合は決して偶然ではない。これが日本の実力だ。

 もちろん勝利は喜んでいいが、まるで奇跡か何かのように思うのは止めた方がいい。日本人はもっと自分たちの代表に自信を持っていい。

 日本は本当にいいチームだった。鎌田大地のスピード、遠藤航のインテリジェンス、板倉滉のエレガント、伊東純也の危険なアタック……。そして浅野拓磨については、なんでこんないい選手のことを私は知らなかったのか、自分を恥じた。この大会が終わったら、必ず強豪クラブからオファーが押し寄せるだろう。

 そして日本の勝利の鍵、権田修一だ。彼はこの試合でマヌエル・ノイアーに、アリソンに、ティボー・クルトワに、GKとはどういうものかを教えた。どんな選手と対峙しても、どんな時でも決して恐れを抱かず、常に守備をリードする。試合後にミックスゾーンで彼と会ったが、喉がかれていた。
 
 6月に日本とブラジルが親善試合で戦った時、私は森保(一)監督のサッカーを、ただハードな当たりするだけでなんの戦術もないものと感じたが、この日の感想は180度違った。森保は戦術の天才だ。

 前半にじっくりと相手と自分のチームを研究し、後半に完全にはまった采配をした。この勝利の一部は監督のものである。日本人サポーターは森保監督のチャントを歌っていた。W杯でそんな風に応援してもらえる指揮官などそうそういるものではない。

 ドイツは決して悪いチームではなかった。世界最高の選手がそろっているし、前半には4ゴールするかの勢いだった。マン・オブ・ザ・マッチは権田が獲得したが、GKがファインセーブを連発したということは、それだけ相手も強かったということだ。しかし日本はそんなチームに堂々と勝利した。

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 ドイツと日本の一番の違い。それはハートだった。日本は選手の一人ひとりが闘志をもってプレーし、1つ1つのパスに魂がこもっていた。その熱い気持ちはドイツのバランスを崩させた。

 ドイツには秩序とテクニックはあったが、エモーションはなかった。それはサポーターを見てもわかる。日本のサポーターは声を限りに応援していたが、私の近くにいたドイツサポーターはどこか映画でも見に来ているような感じだった。

 サッカーはテクニックとフィジカルと戦術だと言う者がいたら、ぜひ日本対ドイツ戦を見てほしい。ハートがどれほど大事なものかがよくわかるだろう。

 前半の日本は確かにあまり良いプレーとは言えなかった。しかしこれはW杯だ。この大舞台でプレーするのは他のどんな大会とも違う。誰もが緊張し、普段の力を出すのは困難だ。

 例えばあのフランスでさえ、ゴールするまでは苦労していた。リズムをつかむまでには少し時間がかかる。その長さはチームによって違う。経験の差もあるだろう。日本はそれに多少時間がかかっただけだ。前半45分は敵を知り自分を知るための大事な、そして必要な時間だった。
 
 この勝利で日本は自信持ち、モチベーションもより高くなっただろう。日本の今後の対戦相手は興味深い。私がここまで見た中では一番弱いコスタリカと、一番強いスペインと対戦する。先にコスタリカと対戦する日程は、日本にとっては有利だ。コスタリカ戦できちんと勝つことができれば、スペイン戦ではたとえ敗れても構わない。そのリラックスした気持ちが良い方に作用すれば、もしかしたらスペイン相手にも結果を出すことができるかもしれない。

 スタジアムで、旧知のブラジルサッカー連盟の幹部と会った。彼はドイツの偵察に来ていたのだが、試合を見て日本に警戒を抱いたようだ。

「日本は統制されたチームでスピードがある。何より危険なのは調子が落ちたと思っていると、その3分後には絶好調になっていることだ」
 
 最後に一つだけ告白すると、私はこれまでW杯でブラジル以外を応援したことがなかった。しかしこの試合では、その戦いぶりに思わず日本のサムライたちに心から声援を送っていた。こんなのは初めてだ。しかしそれは私だけではなかったようで、スタンドにいた中立の観客の多くが、気が付けば日本を応援していた。

 日本はこのW杯を見る人々に大きな楽しみを与えてくれる存在となった。

取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。