2人合わせて「ワールドカップ25大会」を取材した、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生。2022年カタール大会でも現地取材を敢行している。古きを温め新しきを知る「サッカー賢者」の2人がカタール・ワールドカップをあらゆる角度から語る!

■「新興勢」の奮闘

 アジアから3チームがラウンド16に進んだのは本当にすごいことだ。もしかしてその要因のひとつが「ホーム」であることにあるかもしれない。しかしそれ以上に、アジアのチームのレベルが上がったことがあるように思う。

 グループステージを勝ち抜いた16チームの内訳を見ると、UEFA(欧州)が8と圧倒的に多いが、ブラジルとアルゼンチンのCONMEBOL(南米)が2、残りの6座が、AFC(アジア)3、CAF(アフリカ)2、CONCACAF(北中米カリブ海)1の「新興勢」となっている。

 もちろんアジアの「3」も史上初だが、0.5の出場枠しか与えられておらず、今大会もニュージーランドがプレーオフで敗退したOFC(オセアニア)を除くFIFA参加の5地域連盟がすべてラウンド16に残ったのも初めてだという。

 ただ面白い事実がある。グループステージでアジアのチームは7勝を記録しているのだが、なかでも欧州と南米の「エリートクラス」の強豪に対する勝利が4つもあった。アルゼンチンを下したサウジアラビア、ドイツとスペインに勝った日本、そしてポルトガルを破った韓国である。それがすべて2-1の勝利で、しかも前半に先制点を許し、後半逆転しているのだ。

 そこには、「エリートクラス」のチームにとって「勝って当然」のアジア勢を相手に先制したことで気が緩み、同点、逆転されて最後は猛攻をかけても守りきられてしまうというストーリーが見えてくる。グループステージではままあることだ。日本代表のドイツ戦とスペイン戦を振り返れば理解できるだろう。

 こうした「状況が生んだ勝利」ではなく、真っ向からぶつかっての勝利がいくつも生まれるようになれば、アジアの力も本物ということになる。アジアをはじめとした「新興勢力」の本当の力、それは「負ければ終わり」、「ガチンコ勝負」のラウンド16からの戦いで見ることができるはずだ。ここで勝ってこそ、本当に世界に認められることになる。

■「真っ向勝負」をどう戦うか

 昨夜から始まったラウンド16。さっそく「エリートクラス」のオランダとアルゼンチンが、CONCACAFのアメリカとAFCのオーストラリアを退け、準々決勝に進んだ。明日12月5日には日本がクロアチアと、そして明後日6日には韓国がブラジルとぶつかる。他の「新興勢」では、きょうセネガルがイングランドと対戦し、6日にはモロッコがスペインとぶつかる。

 グループリーグを突破するのは大変だが、本当に世界に認められるには、準々決勝以降での戦いが必要になる。過去5回の優勝を誇るブラジルを別にすれば、どんな「エリートクラス」のチームでも準々決勝まで進めば(すなわち祖国のファンに5試合見せることができれば)ひどい非難は受けないだろう。「森保一監督が就任以来掲げてきた「ベスト8以上」という目標の設定は、まさに「世界の仲間入りをする」ということなのだ。

 オーストラリアは奮闘したものの、あと一歩及ばなかった。日本と韓国はどうだろう。

 世界の強豪と真っ向勝負をするには、韓国は戦術的に未熟のような気がする。個々の能力は高く、インテンシティーも高いのだが、ポジショニングにムラがあり、それがなかなか組織を機能させないように感じる時間が長いのである。ブラジルを相手にどんな試合を見せられるだろうか。

 一方、今大会の日本は、ベストの状態からほど遠い状態だ。ケガ上がりの選手、新たな故障者が中心選手に続出している。この状態で勝ち上がることができたのは、森保一監督の好采配と、Jリーグ勢を含めた選手層の厚さが要因だった(スペイン戦の谷口彰悟は素晴らしかった)。本当にベストな状態の日本なら、守備は固く、攻撃にはスピードと見事なコンビネーションがあり、戦術的にもインテンシティーの面でも欧州や南米勢に見劣りしない試合ができるはずだったのだが…。

 いまの状態で、「真っ向勝負」のラウンド16の試合をどう戦えるのか―。勝ち目はないなどとはけっして思わない。しかし「ドイツとスペインに勝ったのだから、クロアチアに勝って当然」などということではないのも、確かなのである。