2人合わせて「ワールドカップ25大会」を取材した、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生。2022年カタール大会でも現地取材を敢行している。古きを温め新しきを知る「サッカー賢者」の2人がカタール・ワールドカップをあらゆる角度から語る!
■「新興地域」からの6チーム
同じ18時と22時キックオフの試合でも、グループリーグとノックアウトのラウンドでは意味が違うことをわかっているくせに、一応は文句を言わないと気が済まないのが後藤さんである。18時の試合が日本×クロアチアのように延長PK戦になったら、次の試合には間に合わないことになる。
私もほんのちょっと迷ったが、ラウンド16の試合は簡単に決まった。3日がアルゼンチン×オーストラリア、4日がフランス×ポーランド、5日が日本×クロアチア、そして6日がモロッコ×スペインである。ブラジル×韓国に行けなかったのは、後藤さんと同様、非常に残念だった。というわけで、4日以降は後藤さんと同じ試合になってしまった。
3日には、メッシがパスした後に走るという非常に珍しいシーンを目にした。しかもそれが先制点となった。アルゼンチンの試合を見るのはこれが3回目だったが、メッシはまるで「ウォーキングサッカー」のプレーヤーのようだった。どっちのチームがボールをもっていようと彼ひとりは歩いている。それを補うように他の選手が110%ずつの運動量を見せるのがアルゼンチンというチームだ。
このラウンド16の私の興味は、アジア、アフリカ、北中米カリブ海のチームが欧州や南米の強豪を倒して準々決勝に進むかにあった。アジアから過去最多の3チームを始め、これらの「新興地域」から、計6チームがこのラウンドに進んだ。
しかしアメリカがオランダを前に力不足を露呈し、オーストラリアもパワープレーが信じ難いほどにまずく、アルゼンチンを追い詰めることはできなかった。もっともアルゼンチンは後半早々の交代で4バックから5バックに変更し、オーストラリアに自由にクロスを入れさせないようにした。そのあたりの駆け引きにおいても、両チームにはかなりの差があった。
■最大の注目だった日本
4日のフランス×ポーランドは欧州同士の対戦。しかもUEFAネーションズリーグの「リーグA」同士の一戦だった。結果は3-1でフランスの勝利。ボールの支配率(フランス48%、ポーランド42%)には大きな開きはなかったし、ポーランドも決定的なチャンスをつかんだ。しかし差は歴然だった。それが「個の力」の差だとしても。
前半終了間際にフランスがキリアン・ムバッペの天才的なパスのタイミングで先制すると、勝敗はすでに明らかだった。ポーランドの1点は後半アディショナルタイム、「針小棒大」と言っていいVARによるハンドの判定だった。同じ欧州勢でも、「エリートクラス」とその下では明白な差があるようだった。もう1試合ではイングランドがセネガルを圧倒し、ベスト8に進んだ。
そして5日はラウンド16で最も注目の1日。アジアの両雄、日本と韓国がそろって登場。日本はクロアチアに、そして韓国はブラジルに挑戦した。だがドイツ戦とスペイン戦で手の内をさらしてしまった日本の後半の攻撃の変化は相手にすばやく対応されて思うように効果を出せず、1-1からPK戦1-3で敗退。韓国は前半のうちに4点を奪われて早々と勝負が決してしまった。
■「壁」の意味
これで、「ベスト8の壁」に挑戦する「新興国」は、6日にスペインと当たるモロッコだけとなった。サッカーはどんなことでも起こりうるスポーツだが、グループステージはともかく、負ければ即敗退のノックアウトステージでは「番狂わせ」は非常に起こりにくい。だからこそ「壁」なのである。
世界のナショナルチームの「エリートグループ」はFCバルセロナ、レアル・マドリード、マンチェスター・シティ、バイエルン・ミュンヘンなど、UEFAチャンピオンズリーグで連年優勝を争うようなクラブで何人がプレーしているかで、ほぼ決まると言ってよい。今大会のラウンド16でこれまでに勝ち抜いた6チームの大半は、そうした国なのである。ただひとつ、クロアチアだけがそうしたクラブでプレーする選手だけで構成されたチームではなかった。だからこそ、そのクロアチアと対戦した日本は千載一遇のチャンスだった。
日本人としてではなく、ワールドカップが世界のサッカーに夢を与え続けられるかどうかという観点からも、日本のPK戦敗退はとても残念だった。