八ッ場ダムの“活躍”をめぐってネットでは論争も…「緊急放流」とは何だったのか
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 台風19号による大雨により、各地で街が浸水するなどの被害が相次いだ。そんな中で注目されたのが、ダムからの「緊急放流」という言葉だった。

 そもそもダムには大きく2つの役割がある。貯めた水を水道用水や発電などに利用する「利水」と、水位の調節によって地域を洪水などから守る「治水」だ。「緊急放流」は、治水のため、ダムに流れ込んでくるのと同量の水を下流に流して水位をコントロールし、ぎりぎりまでダムに水を貯めつつ、溢れるのを防ぐ操作のことを指す。今回、大雨で水位が上がった6つのダムで12日の夜から13日の未明にかけて実施された。

■城山ダムの緊急放流に住民「22時と聞いてたのに、21時半に放流したと事後報告がきて、"ふざけんなよ"と思った」

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 12日午後9時30分に始まった城山ダム(神奈川県相模原市)の緊急放流では、最大で毎秒4300トンもの水が放流され、下流に位置する相模川では急激に川の水位が上昇。これによりダムの決壊という最悪の事態を防ぎ、下流に暮らす人たちが逃げる時間を確保した。県は放流により相模川などで大規模な水害が発生するおそれがあるとして、流域の住民に命を守る行動を取るよう呼びかけた。

 14日、城山ダムの様子を見に来ていた男性は、緊急放流を告げるエリアメールが届く前に、早めに自宅から避難したという。「台風の時は、いつも防災放送が遅れるが、今回は早めに出ていたのですぐに避難ができた。この城山ダムと宮ヶ瀬ダムの間に挟まれている地域に住んでいて、今回は両方で緊急放流ということだったので、とりあえず避難所に行き、放流が終わるまではそこで過ごそうと思っていた。ダムがあったおかげでそこまで被害がなかったのかな。川だけだと、もしかしたら氾濫していたかもしれない」と振り返る。

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 1965年に城山ダムが完成して以来、初となる緊急放流は下流に大きな被害を出すことがなく、SNS上では「相模川耐えたのか…すげぇ」「すべての職員の方々がギリギリの所で戦ってくれていたからなんだろうな!」「皆さんの判断に頭が上がらないです!」など、称賛の声があがっている。しかし、開始の1時間前に発表するとされていた放流は、実際には予定時間より30分も早まった上、放流が始まったのは住民への報告と同時だったという。当時の貯水量の推移を見てみると、12日の正午以降、降雨とともに水位が上昇、午後6時ごろには、緊急放流の目安となる「異常洪水時防水操作開始水位」に到達。そして午後9時30分ごろには「洪水時最高水位」に達していることがわかる。

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 川沿いに住む別の男性は「午後10時だったのが9時30分になったのでびっくりした。あと30分あると思ってお風呂に入っていた。何だよ、30分も早めやがって」と苦笑、他の住民からは「緊急放流は怖かった」「エリアメールで22時と聞いてたのに、21時半に放流したと事後報告がきてふざけんなよと思った」など、不安の声が上がっていた。また、SNS上にも「ネットをやらない高齢者たちはどうやって緊急放流の情報を得るんだろう」「防災無線なんて雨風がひどいと聞こえない」など、疑問の声もある。

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 自民党・衆議院議員の小林史明氏は、「放流の見極めには相当な神経を使っている。水を貯め込み、流域の堤防になるべく余裕を作り、雨が少なくなった段階で流そうということで、本当にギリギリの判断でマネジメントされた事例だと思う。ただ、時間差が生じたということは、国や自治体間の連携・情報共有に問題はなかったか、きちんと検証する必要がある。しかし今後もこういうことはありえると思った方が良いし、混乱を防ぐためにも、雨量によって幅が出てくるということを予め伝えておくことが必要だ」と話す。

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 今回、城山ダムを取材したテレビ朝日平石直之アナウンサーは「完成してから50年以上が経つので、下流の皆さんは利水、治水、発電という恩恵もある一方、緊急放流があるということも認識としては持っていたようだ。ただ、今まで行われたことがなかったので衝撃度は非常に大きかったんだろうと話したり、自分の家が流されるかもしれないというような恐怖感を抱いて避難したとおっしゃった方もいた。実際、川がえぐれたり、道路が落ちたりということはあったが、家が流されるような被害はなかった。また、取材したエリアについて言えば、エリアメール、テレビ、ラジオ、防災無線、電話、それから自宅にマイクロバスで迎えに行くということで、行政も早い段階で徹底的に情報を伝え、促していたようにと思う」と語った。

 釜石市地方創生アドバイザーの藤沢烈氏は「去年の西日本豪雨災害の時にも肱川という河川で緊急放流が行われ、結果として亡くなられた方が出た。気候変動のことを考えると、今後もあちこちのダムで行われる可能性が高いと考えざるを得ない。果たして問題なくできるかということを再度検証する必要があるだろう」と指摘した。

■八ッ場ダムの"活躍"をめぐって論争も

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 他方、ネット上で論争の的になっているのが八ッ場ダム(群馬県吾妻郡)だ。利根川水系に造られた多目的ダムで、今月から試験運用を始めたばかりだった。ネット上では民主党政権時代に事業中止になった経緯も含め、「八ッ場ダムが利根川の氾濫を救った」「完成したてで全力とかガンダムかよ」「治水効果は期待できない」など、様々な声が上がっている。この状況に、平石アナは「データが揃わない中での議論は早すぎるが、ものすごく絶賛されているところもある。そして、その比較の対象としては千曲川が挙げられていて、"脱ダム宣言"をした長野県と、八ッ場ダムを強行して造った群馬県を比べて、議論されてしまっている」と警鐘を鳴らす。

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 そこで小林議員は「治水というのはダムだけで考えてもしょうがない。河川や流域にある田畑、それらのトータルの中でどうだったのかという評価だと思う。今回について言えば、群馬県内ではかなり助かった部分はあると思う」との見方を示した上で、「これまでの治水の計画は、過去最も多かったものから算出し、堤防の高さや、ダムの必要性を検討している。しかし今は気候変動の中で雨の降る量は増え、災害も大きくなっている。これからは先読みをして、何十年後にはこのくらいになるから、それに必要なものを作り直そうというふうに考えるべきだ」と提案。

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 一方、ダム開発の見直しや中止を求める、いわゆるダム反対派「水源開発問題全国連絡会(水源連)」の遠藤保男氏は「ダムの治水効果は、ダムが遠くにあればあるほど少なくなってしまう。きちんとしたデータをまだ見てないので難しいが、八ッ場ダムの場合、国交省の計算から考えれば、首都圏が恩恵を受けたのは15cmくらい水位が下がったかな、というくらいの感じだろう」と推測。「そもそも治水用のダムは、それよりも多くの雨が降れば溢れるし、その分を川に流れ出す。だからダムがない時よりもはるかに危険になってしまうし、想定から外れれば極めて危険なものになる。ダムで対応するのは、いわば賭け事と同じだ。今回のように、ある程度当たったところもあれば、去年や一昨年みたいに大災害をもたらすこともある。ダムによる治水はやめたほうがいいと思う。そこで、堤防そのものを簡単には壊れないものにすればいいし、費用もダムよりはるかに小さい方法もある。国のやろうとしているスーパー堤防はものすごく金がかかるし、多くの人をどかさないといけない。そういうものはやめにしなければならない」と訴えた。

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 藤沢氏は「東北では予想外のことが起きてしまったので、元々あった巨大な堤防が壊されてしまった地域もある。もちろん堤防にまったく意味がないとは思わないし、コストを見ながらやっていかないといけないが、限界はある。やはり気候変動がある中で、ダムだけでも堤防だけでもなんとかなる時代ではないというところで、ソフトの部分で住民自身が意識を持たないといけないと感じている。今回は行政にも余裕があって戸別訪問したかもしれないが、行政が被災するかもしれないし、それが毎回できるとは限らない。災害に関しては、かなり自助共助の部分が必要だということをもう一度認識しなければいけない」との考えを示した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶動画:議論の模様(期間限定)

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