アフガニスタンのイスラム主義勢力「タリバン」が首都カブールを掌握し、勝利を宣言してから15日で1カ月。暫定の閣僚を発表するなど、新政権の準備が着々と進められている。
そんな激動の1カ月について、タリバンの政権掌握時にも話を聞いた戦場カメラマン・渡部陽一氏を再び取材した。世界各地の紛争地域を取材してきた渡辺氏は「首都カブールの陥落からアフガン情勢を注視してきた」と話す。2001年の陥落以来、20年ぶりに誕生したタリバン政権。渡部氏は「電光石火の政権誕生だった」と振り返る。
「タリバンが掲げてきた厳格なイスラム思想にのっとったアフガニスタン・イスラム首長国を完全に樹立させる。そのためのアクションを起こしてきた1カ月だったと思います。アフガニスタンの元政権から、国軍の兵士というのは、はっきりとした訓練を受けておらず、地元ではない地域に派遣され、給料もしっかりと配られていなかった。不信感しかない中で兵士や警察官が政権の治安を守っていくという構造自体が崩壊していた。その隙間をついてタリバンが正面から入ってきた。そんな電光石火のスピードであったと感じてます」(渡部陽一氏・以下同)
その一方、タリバンによる国民への締め付けを渡部氏は懸念している。14日、アフガニスタンのアンディシャ国連大使はタリバンが反対勢力などを含む「包括的な政権」の樹立や、女性の権利の尊重を表明したものの、いずれも守られていないと指摘。特に女性については、教育などの権利が制限されただけでなく、暴力や差別もまん延している。
過去幾度となく現地を訪れ、取材を行ってきた渡部氏は、旧タリバン政権から本質的な部分は変わっていないと指摘する。
「融和路線をとる、人権を重視するという報道官が伝えたプロモーションの言葉と、1カ月間アフガニスタン国内でタリバンが行ってきた国家の統治体制というのは、かなり大きな違いがあった。実際にふたを開けてみると、この1カ月間、反タリバンを掲げた勢力を粛清したり、拘束したり、女性が反タリバンを掲げたデモを行った部分では内々の状況が目の当たりに映像配信されたり、かつてと中身は変わっていないという事実が見えてきた1カ月でした」
そんな中、渡部氏が危惧しているのが子どもや女性への抑圧。タリバンは、大学での男女共学を禁止にし、女子学生にスカーフの着用を義務付けるなど、すでに制限をかけ始めているという。
「かつてのタリバン政権が崩壊した一つの理由として、厳格な国民への締め付け、特に女性や子どもの人権を無視した国家運営が世界中から非難の的となりました。同じ非難を浴びないために、今回女性や子どもたちの人権をしっかり保証するという言葉を出したんですが、実際には女性の服装やファッション、教室で男性と一緒に学ぶことを禁止したり、子どもたちであっても男女の線引きを引いてしまったり。かつてのタリバン政権が行ってきたことがそのまま、また繰り返されているということを痛感しました」
こうした抑圧が起こる中、国内各地では「反タリバン」を掲げる抗議デモも発生。また、国外への退避を求める人も出てきている。今月14日には、アンディシャ国連大使が国際社会に対してタリバンの行動を監視する調査団の設置と、難民の受け入れを求めている。
20年の時を経て政権を掌握したタリバン。渡部氏は、この20年間でアフガニスタンが抱える問題の根本的な解決ができなかったことが背景にあると話す。
「アフガニスタンは元々ずっと貧困に苦しめれられてきた国なんです。その中で、国家運営の中で、貧困の問題を回復してくれる、少しでも生活的水準を回復してくれるといった期待があったんですが、この20年間の間ではさほど効果が、一部利権者以外では無かったのが現実なんです。タリバンは20年前から何度もテロを繰り返しながら、アメリカ軍や多国籍軍を攻撃してきました。そんな中で、タリバンが力を広げられなかったのは、やっぱり外国の部隊が駐留してたからなんです。いなくなった途端に力を発揮した。このタリバンが繰り返してきたテロという攻撃はずっと変わらなかった。普通の地域の貧困な若者たちが武器を持たずに、タリバンの思想にかぶれていった。貧しいことによってタリバンの過激な思想に入らざるを得なかった。こうした構造は実は激変して変わったのではなく、20年前から今も変わらない状況でこれからも根っこは変わらないと思います」(『ABEMAヒルズ』より)
▶︎映像:「これからも根っこは変わらない」“政権掌握”から1カ月… 戦場カメラマン・渡部陽一氏が語るアフガンの情勢
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