「ケンドーコバヤシさんの挑戦的なネタを見て影響を受け、火薬銃を使ったネタが面白かったなどの評価をいただき…」。ウェブで自己PRをしている溝口時生さんは、実は2週間前まで吉本興業に所属するお笑いコンビ「サンタフェ」として活動していた。
あくまでも成功できるのは一握りという厳しい芸人の世界。「劇場メンバーにもなっておらずに、地下でくすぶっていた。生きていく上でお金も稼いでいかないといけないというところもあったので、転職活動を始めた」。
【映像】EXIT兼近大樹&元猿岩石 森脇和成と考えるお笑い芸人のセカンドキャリア
■投資家へ転身、年収7億に…
自身に限界を感じて別の世界に身を転じた結果、成功を収める人もいる。
4年前に芸人を辞めた元人力舎所属「ザ・フライ」の井村俊哉さんの場合、『キングオブコント』の準決勝まで進出したこともあったものの、2017年にトリオは解散。投資家へ転身したところ、現在の年収は7億円に達するという。「ネタ作りとか、本当に脳がちぎれるぐらい考えてやっていたので、“この後、世の中はどういうふうになるんだっけ”“じゃあこれを作っているこの会社が必要になるんじゃないかな”という投資のストーリーが思いつきやすい」。
20年前、4年間組んだコンビ解消、結婚のために中国にいる恋人のもとへ向かったものの、到着当日に婚約破棄されたと話すのが、今は中国の大学に日本語講師として勤務する元ケイダッシュステージ所属「ハイセンス」の笈川幸司さん。芸人時代の話術や表現力を活かせるかもしれないと、日本語教師の道を選んだ。すると実力が認められ、習近平国家主席なども輩出した清華大学からスカウトを受け、NewsWeek誌の「世界が尊敬する日本人100」にイチローやYOSHIKIらとともに選ばれる“カリスマ教師”となった。
■元猿岩石・森脇「テレビだけで頑張る必要もないと思う」
元「猿岩石」森脇和成さんの場合、コンビ解散と同時に事務所からも退所、芸能界から引退した。「僕らの場合は実力がないまま一つの企画によって爆発的に売れてしまったところがあるので、実力とお金と立場のギャップに常に苦しんでいた。コントやネタを見せる場面を作ってもらえなかったところもある。基本的には楽観的な性格だが、後半はしんどくて。だから言ってしまえば、最後は逃げた感じだ。行くところがあるなら逃げればいいと思った。悩みの方が多かったから、辞める時にも未練はなかった。
もともと芸人をやりながら飲食店を経営していて、芸能界での仕事が少なくなってくる反面、飲食店の仕事がどんどん求められるようになった。やっぱり活気がある方が楽しいので、自分としても飲食店にウエイトを置くようになった。やっぱり相方との人間関係も含め、うまくいっているときはいいが、調子が悪いと距離も出てくる。ただ相方や事務所に迷惑がかかるので退くことにした」。
様々な職業を経験したものの、最終的には副業として飲食店業を経験していたことが功を奏したという。
「結婚して子どもができると、毎晩ベロベロに酔っぱらって家に帰るのも悪影響があると思って、ちょっと堅い仕事したいということで転職をした。ただ、僕がやっていたようなお店に来たりするのは、ほとんどが成功者なので、仕事をしている姿を気に入ってもらえると、“会社を手伝えよ”といったことにも直結する。面接とかうんぬんをすっ飛ばして、ヘッドハンティング的になる。
だから芸人をやりながら夜はバイトをしている人はたくさんいるし、僕も不思議なことに芸能界の方々とはあまり付き合いが続いていないが、お店でできた人脈の方たちとは今もお付き合いをさせてもらっているし、コロナ禍で厳しい状況でもなんとか食べていけているのは、そのおかげもある。昔は“芸人のくせに店やって”とか、周りの目もきつかったが、今はそのようなことはない。“この道一本でいきます”という格好良さもあるが、今の世の中、テレビだけで頑張る必要もないと思う。コンビならお互いに迷惑がかかってしまうこともあるが、特にピン芸人の方だと自由にできる」。
■キャリアアップしていくためにも、将来を描くことが必要だ
とはいえ、全ての元芸人がセカンドキャリアでうまくいっているわけではない。Twitter上には「面接50社以上も落ちた」「そもそも他にやりたいことが見つからない」「パソコン使ったことないし社会人マナーとか分からん」「学歴ないし、芸人って職歴にならないから転職できない」といった悲痛な声も。
先ごろ元℃-uteの梅田えりかとの結婚を発表した「Flags Niigata」代表の後藤寛勝氏は「今は妻と新潟市に住んでいるが、やはり地方で就職情報サイトなどを通して活動をしようとすると、職歴が書けず難しかったりする。僕が一緒に探すのを手伝いって、お仕事させてもらえることになった。もともと自分の好きなことがちゃんとはっきりしていて、それを活かせる環境に行けば大丈夫だと思う。そうではない人の方が多いと思うので、すごく大変だろうなと思うし、唯一無二の力を持っていてもマッチングができないというのは勿体ない」と明かす。
そこで元芸人たちに対し、面接練習やパソコンスキルの指導などのサポート事業「芸人ネクスト」を行っているのが「俺の社長」社だ。“ボケ”タイプか“ツッコミ”タイプか、MCができるかできないか、など、芸人を特徴に基づき8つのタイプに分類、これまで100人ほどの相談を受けてきた。社長の中北朋宏さんは、芸人の転職事情について次のように話す。
「森脇さんがおっしゃっていたように、将来や金銭面の不安。例えば結婚をしようとしても、生活ができるのかという話が出てくる。そして才能の限界。コンテストや賞レースでどうしても上にいけなかったり、新しいネタが思い付かず苦しんだり。それから解散も一つのタイミングだと思う。ただ、芸人というキャリアは社会では認められていない。そもそも職業じゃないとみなされているから、認定漫才師などになっていない限りは10年やっていても“未経験”としてのスタートだ。
バイトの延長線のような形で就職し、“やはりこれはやりたくない”と辞めてしまい、その後も転々とする方もいるし、芸人時代にある程度売れている方でないと、森脇さんのように有益な人脈までたどり着かないということもある。さらには目の前の誘いに乗ってみた結果、“飲みの席だったら社長とは合ったのに”みたいなケースもよくある。やはりきちんとキャリアアップしていくためにも、将来を描くことが必要だ」。
■“辞めると決断してからいらっしゃってください”と言うようにしている
EXITの兼近大樹は「1週間前ぐらい前に先輩が辞めた。年に1回も舞台に立たずに、ネタも作ったことがなかった。あるいは芸人として8、9年活動しながらアルバイトを転々として辞めた人も最近いる。僕も“少し長めの一発屋”をやらせてもらっているので、いつ終わるか、という心配はある。だから中北さんのようにセカンドキャリアを見てくれる人がいるなら、すごくありがたいし心強い。僕はそもそも社会に適応できない、何もできないからお笑いに入ってきたが、最近の芸人はメチャクチャ賢くて、芸人じゃなくてやっていけんじゃん、と思っちゃうような人がどんどん入ってくる。解散する理由は、確かにコンテストで負けて、コンビ解散して…というパターンが多く、金銭的な理由だという人は意外と少ないかもしれない」と話す。
さらに自身も元芸人である中北さんは、「芸人の場合、早く辞めすぎると転職が難しいということがある」と訴える。
「確かに目的が転職であれば、早い方がいいし、キャリアアップであれば、ある程度実績が出ていた方がいい。スキルやマインドで言えば、やはり自立的に物事を考えたり、取り組めたりする人や、コミュニケーション能力が高い人は早く決まる。しかし、例えば22歳の元芸人が応募してきたら、企業としては“芸人としてのスキルがまだそれほど備わっていないだろうし、普通に新卒を取る”ということになってしまう可能性が高い。逆に言えば、25歳、30歳ぐらいまで芸歴のある人の方が転職しやすかったりする。これは芸人ならではだと思う。
やはり最後までやり切ったと自分で思える方は、自分に対しても良い感情を持てているので、転職支援がやりやすい。しかし“時期だから”とか、なんとなく外因的な要因を理由にする人の場合、また新しい夢が出てきてしまうことがある。本人が納得するのであれば、いつまで夢を追っていてもいいのではないかと思うし、僕は“辞めると決断してからいらっしゃってください”と言うようにしている。僕らはあくまでも芸人が夢を目指せるようにサポートする会社だ。やり切ったというわけでなければ転職を勧めることはない」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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