コロナ禍などに伴い高騰する輸入牛肉の値段。一方、畜産牛のげっぷが世界全体の温室効果ガスの実に4%分に相当するとのデータもあり、地球温暖化防止のため、CO2などの温室効果ガスを抑えようという脱炭素化の流れの中、特に敵視されがちとなっている。
動物愛護の観点からペットと畜産動物の区別はできないと考え、ヴィーガンになったという「グリーンカルチャー」代表の金田郷史さんは次のように話す。
「インターネットでも議論になっている問題で、センシティブだが非常に面白い議論だと思う。ただ、実は牛と環境の問題というのは“今更感”もある。日本人が肉を食べるようになったのは戦後、豊かになりはじめた1955年ごろからで、1960年代に入ると“牛は環境負荷が非常に大きい”と言われるようになっていた。ただ、当時は贅沢をしたい、美味しいものを食べたいという考えの方がメジャーだったので、全く注目されていなかったということだ。この問題がいよいよ議論されるようになってきて、しかも後ろ倒しすることはできない話なので、しっかり議論をして解決をしていかないといけない。
とはいえ、牛も含めて肉食を止めるのは難しい。僕が作りたいのも、“止めましょうよ”という世の中ではなく、“減らしていきましょうよ”という世の中だ。それは交通事故をゼロにするために“明日から車を止めましょう”と言えないのと同じだ。ただ人の意識が“もっとしっかり安全運転しようね”ということになり、技術が進歩して車の性能がどんどん良くなったことで状況が変わっていた。同様に、畜産の問題も解決されていくのではないか。ただし環境負荷などのコストを載せていくと、将来的には適正単価は今の5倍、10倍というくらいになってしまうとも言われている。フカヒレのように、キロ5000円、1万円くらいになるかもしれない」。
一方、畜産農家の羽子田幸一さんは「いま世界中が脱炭素化という方向へ進んでいる中ではあるが、牛で生活してきた我々としては、“えー。それだけげっぷを出しているのか”と。畜産農家の中には、(牛が)それくらいの影響力を持っているということも知らない人が多いし、環境保全、脱炭素化といった合言葉もまだ届いていないというのが実際のところだ。これからヴィーガンの方も含め、一緒に考えていく必要があると思うし、思いは一つなんじゃないかなと思っている」とコメント。
「金田さんが言われたように、日本で肉に関する仕事をやっている方の大半が損失を出しているくらい、餌の市場価格が高騰している。それでもアメリカなど海外に頼っている麦とか大豆とか、トウモロコシの中でも高い穀類を食べさせ、一生懸命に飼育しているのは、おいしい肉を皆さんに食べていただきたいという思いがあるからだ。もちろん可愛がりつつ、最終的には涙を流してでも命を頂かなくてはならない。そういう農家さんたちがたくさんいらっしゃるということも分かっていて欲しいと思う。
また、適正価格というのも長年の悩みだ。(牛肉の出荷は)繁殖農家が育てた子牛を買い、肉まで持っていくという肥育農家の二元的に分業されていて、繁殖農家は子牛が高くないと利益が生まれないし、肥育農家が20カ月以上育てるのにはかなりのコストがかかる。そういう中で、繁殖農家が儲かっている時には肥育農家が儲からない、といった矛盾も生まれてきている。また、和牛の場合は経済が潤っている時には高く売れるが、そうでない時は価格が落ちていく。将来的には自給飼料でもやれるというようなところまでもっていかないと、本当に適正な金額は出てこないのではないか」。
北海道大学の小林泰男教授は、2050年に牛のゲップからのメタン排出量を80%減とすることを目指し、新たな餌の開発や餌やりのタイミング、メタン排出の少ない牛の個体研究などを手掛けてきた。
「全世界でメタン抑制飼料というものが研究・開発されていて、海外にはすでに商品化されているものもある。現段階で、20%ぐらいまで抑制できる飼料ができている。そもそも牛には胃が4つあり、第一の胃の中に住んでいる微生物の中にメタンを作る菌がいて、それらが活躍している牛ほどゲップから出てくるメタンが多い。また、エサの種類によっても菌の活躍する度合いが異なるし、個体差もある。長期的な戦略としては、メタンの少ない牛を早めに特定して残し、メタンの多い牛を淘汰していけば、10年後、20年後にはメタンの少ない牛だらけになるのではないか」。
その上で小林教授は「歴史を振り返ると、牛が人の家畜になったのは紀元前8000年ごろだ。それから1万年をかけて育種、改良の努力を重ね、我々にタンパク質を供給してくれているわけだ。同時にヨーロッパやアメリカなど、色々なところで独自の食文化が発達してきている。今さら“牛をやめましょう”という話はしてはいけないと思う」と指摘する。
「根本にあるのは、人間が増えすぎたということだ。また、経済的にリッチになると、どうしても動物性タンパク質を食べたくなる。戦後、“体位向上”の名の下にミルクや肉などの大量の動物性タンパク質が大量投与された結果、日本人の体格、体育能力が上がってきた。そういった意味で、畜産はものすごく貢献してくれている。ただし、人口の増加が想定以上のものになり、それにあわせて家畜も増えてしまった。私が内閣府から頂いている研究資金は、2050年に向けてメタンを80%減らすことで、環境保全と食料増産を両立させてくださいよ、という名の下にやっているものだ」。
また、前出の金田さんは植物性肉の研究に言及。「飼料を改善してやっていく研究もとてもすばらしいが、動物倫理の問題もある。使う穀物の量は減らないわけで、そこに対する解決にはならないと思っている。そこで植物から直接肉を作ってしまうことができれば、かなりブレイクスルーだし、それでおいしければみんなハッピーだ。弊社製品も、一般の方が食べて本当に美味しいと思ってもらえるかどうか不安だったが、昨年末にプロの料理人が集まる展示会で1100名くらいの方に試食いただいたところ、95%の方が“おいしい”と答えた。かなり希望が見えた。新しい選択肢として、植物肉というのは効率的だと思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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