気象庁よりも速い地震情報サービス、被災家屋の保険金支払いにAIも…最新テクノロジーを防災・減災に活かすためには
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 世界各国で研究開発が進む、防災・減災のための仕組みづくり。“災害大国”と呼ばれる日本でも、様々な取り組みが実を結んでいる。4日の『ABEMA Prime』では、そのうち3つのシステムの開発担当者に話を聞いた。見えてきたのは、最新のテクノロジーだけでなく、我々自身の日頃の心構えの重要さだった。

■浸水被害予測で、保険金の支払いをスムーズに

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 東大発のスタートアップ「Arithmer」では、AIを駆使して浸水被害を予測、事前に危険を察知して避難行動に繋げてもらえるよう、アプリケーションを開発している。

 「高性能のドローンで撮影されたデータ、衛星データと浸水の実測値、ハザードマップの値を入力することにより、指定されたエリアの浸水高を予測するというシステムになっている。ハザードマップというのは、国がある一定の基準をもって、最悪のケースを想定して開発しているものだ。我々の浸水被害予測は、そのハザードマップの内側に入るものを早く出せるというものになる」(営業企画本部の氏家賢人氏)。

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 開発のきっかけは、災害被害に遭われた方に早く支払いを行いたいという、株主でもある大手損害保険会社のニーズからだった。

 「今までは保険加入者の家に一軒一軒伺って浸水高を測っていたが、やはりそれでは工数がかかり、リアルタイムでお支払いすることができないという課題があった。我々のシステムでは、指定された1平方キロメートルあたり数点の実測値を測ることによって、そのエリアの浸水高を予測することができる。実際、熊本県人吉市における河川の氾濫において、損害保険会社様にご活用いただいた。今は大手SIと共同で水害前に浸水高を予測するシステムを開発していて、私たちはそのAI部分を開発している。まだ実証実験段階ではあるが、将来的には皆様が使えるアプリケーションサービスとして提供する予定だ」(同)。

■都心の高層ビルに、気象庁の速報よりも速く

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 将来起こりうるとされる「首都直下型地震」や「南海トラフ地震」など、大都市圏に大きな被害が予想される地震に備えるために役に立つ「ユレーマス」。開発したミエルカ防災取締役副社長の潮田邦夫氏は次のように説明する。

 「東京など、大都市にあるビルに地震計を設置する。様々な振動によって誤動作が起きるので、3台の地震計を50〜100メートル離しておき、“多数決判定”をして、2つ以上が同時に感知したらP波を受信=地震だと判断する。そして、このP波の何秒後にどのくらいの大きな地震が来るかを予測する。もともと気象庁で20年前に緊急地震速報を開発した方が“ちょっと直下型地震には弱いところがある”ということで会社を作り、我々がこういうようなものを作った経緯がある。そのため都内の場合、気象庁の速報よりも3〜5秒速い。

 高層エレベーターの場合、避難階に達するのに大体10秒くらいかかるので、例えば活断層があるようなところに地震計を置いておく。例えば関東大震災は神奈川県小田原市の方で起きたので、地震計を静岡県御殿場市に設置しておいて、検知した情報を東京都千代田区の大手町にある高層ビルの防災センターに知らせる。そうすることで、高層エレベーターを停止させたり避難階で止めたりすることで、閉じ込めを防止しようという仕組みだ。また、精密機械の会社に知らせることができれば、機械を止めてレンズが壊れることなどを防ぐことも可能だ」。

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 現状では一部の取引先を対象にシステムを提供しているが、技術が普及すれば、スマホアプリ化し、多くの人に使ってもらえる可能性もあるという。「今のところはアンドロイドしかないし、気象予報には様々な規制があって地震の予報はやってはいけないことになっているので観測したデータをスマホに送って、我々のソフトで計算することになっている。そのあたりの規制が緩和されれば、様々なデータを流せるようにもなる」。

■津波による浸水予測をリアルタイムで計算

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 そして、地震発生後に懸念されるのが津波だ。東北大学災害科学国際研究所の越村俊一教授はスーパーコンピューターを用いて防災に役立てようと、津波の浸水範囲・被害人口をリアルタイムで推計するという世界初のシステム「RTi-cast」を開発した。

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 「例えば気象庁の津波予想だと高さは予報として提供されるが、我々が最も知りたいのは、津波が内陸にどこまで来るか、ということだと思う。同じ5メートルの津波といっても内陸まで浸水する場合もあれば、そうでもない場合もある。その予測を実現したというのが我々のシステムだ。これは過去のデータを使うのではなく、震源やマグニチュード、国土地理院がモニタリングしている地殻変動の情報をリアルタイムで取り込み、発生した地震により、どういうメカニズムで断層が破壊されたのかを瞬時に把握、変動した海底の地盤により起きる水の動きを最新の地形情報や施設の情報をもとに計算する。

 これにはかなりの性能のコンピューター必要になってくるが、東北大学と大阪大学がスーパーコンピューターをリアルタイムで使うことによって短時間での即時予測を可能にした。実際、東日本大震災で取られた地殻変動データを使ってリアルタイム予測を検証したところ、浸水範囲をほぼ予測できた。今、これが内閣府の総合防災システムの一つの機能として採用され、運用が始まっている。南海トラフなど、非常に大きな地震が起きた場合、津波の浸水予測をリアルタイムで行い、30分以内で国に対して予測結果を配信する。それを被災地の救援に役立ててもらうということだ」。

■テクノロジーだけではなく、日頃の心構えや予算も

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 一方、「RTi-cast」を開発した越村教授は「我々は技術に特化していろいろなサービスを提供しているが、将来を考えると非常に難しい問題がある。例えば社会全体がネットワーク化され、皆がそこに繋がって生活するSociety5.0という社会が実現したとする。自動運転などと同様に、これらは非常に便利な社会だ。しかし大きな災害が起きた場合、こうしたネットワークがダウンし、我々が無力になってしまうという危惧がある。もちろん、災害に強い通信網を整備することは当然だが、私たちが使う製品やサービスの中にも防災という観点を忍び込ませておかないと、いざというときに“そんなサービスは使えない”ということになりかねない」と指摘する。

 「ユレーマス」を開発した潮田氏も「災害時には想定しないことがたくさん起きるが、どうしても30年に1回というような頻度になると、自分のこととして捉えるのが難しい。例えば江戸時代に行われていた“鷹狩り”は、単に鷹を狩るだけではなく、地形を知っておくことで、いざという時の備えにもなる。我々も普段からそういうような意識で、例えばいつも同じ道を歩くのではなく、違う道を歩いてみると、“あっちに逃げ道があった”ということがわかる。普段から、そういう頭の体操をしておくことが必要だと思う」。

 「Arithmer」の氏家氏は「まさにその通りで、ハード面、ソフト面、どちらのサポートも必要だし、備えをしておくということも必要だ。また、防災情報を自分で取りに行かないと取得できない状況にある。ハザードマップをご存知の方もいらっしゃれば、ご存知ではない方もいる。そういった情報の連携がすごく必要なのではないか」と話していた。

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 リディラバ代表の安部敏樹氏は「防災の予算は、基本的に災害が起きた後に付くもの。皆さんの取り組みのような予防の部分に予算をつけることで、災害が起きた後の被害額を抑えられるように転換していくのが大事だなと思う」とコメント。

 越村教授は「おっしゃる通りで、起きた後にお金がつくの、つまり先回りをして対策を打つことができないのが我が国の良くないところだ。東日本大震災の被害は16〜25兆円、その後の10年間で復興には38兆円をかけたと言われている。起きる前にこれだけのお金を使えるとしたらどうだろうか。そういう視点は重要だし、皆で変えていかないといけないところだ」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
 

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