14日の衆議院解散を前に行われている代表質問で、「選択的夫婦別姓制度の導入を法制審議会が初めて答申したのは1996年だ。私は初当選以来、28年間もその実現を訴え、何度も議員立法を提案してきた。もはや議論は十分だ。差別的な制度を急いで改める必要を感じないか」と投げかけた立憲民主党の枝野幸男代表。
これに対し、早期に実現する議員連盟の呼びかけ人の一人でもある岸田総理は「国民の間に様々な意見があるところであり、引き続きしっかりと議論をすべき問題であると思っている」として、「検討を進める」と述べるにとどまり、慎重な姿勢を崩さなかった。
【映像】通称利用だと不便?選択的夫婦別姓を考える 導入で戸籍制度や子の姓どうなる?
12日の『ABEMA Prime』では、選択的夫婦別姓の導入に反対する人、慎重な立場を取る人には、どのような思いがあるのか、議論した。
■反対するのは“リベラル”が嫌いだから?“経済的な理由”があるから?
選択的夫婦別姓に賛成だと話すロンドンブーツ1号2号の田村淳は「“選択できる“ということが、なぜこれほど“強制される”みたいなイメージで捉えられているのかなと思う。 僕自身は結婚しているが、同じ氏だ。だから“お前は同じ氏なのに、なんで選択的夫婦別姓に賛成なんだ”と言われるが、自分は不利益を被らないわけだし、名字を変えたくないという人、困っている人がいるのであれば通してあげてもいいのではないかと思っている」と問題提起。
これに対し、“賛成派”だと話すジャーナリストの佐々木俊尚氏は「あくまでも“選択的”なのであって、反対する理由は何もないはず。だが、やはり“選択的夫婦別姓の方がいい”と叫んでいる人たちが嫌いだ、というのがあるからではないか」と推測する。
「例えば映画『STAND BY ME ドラえもん 2』が公開されたとき、しずかちゃんの名前が“野比しずか”となっていた。そこに対して、“夫の奴隷なのかか”と怒鳴りまくっていたフェミニストの人たちもいた。要するに、“リベラル”と言われている人たちに辟易している人が増え、選択的夫婦別姓が導入された瞬間、“同姓なんかを選ぶような奴は夫の奴隷だ”みたいな言説が大量に現れるのではないかという危惧から“反対”を選んでいる人もいるということなのではないか。実際、同じような現象が“専業主婦”をめぐる論争でも起きていて、肯定派と否定派が否定し合うということが起きていた」。
佐々木氏が指摘した一部の“賛成派”の態度について、Twitterで“上から目線”と表現した元経産官僚の宇佐美典也氏は「とにかくケンカをしないでほしいと思う。家族法というのは、1億2000万人以上いる国民の全員に関わる法律だ。その意味では51%が賛成したから従ってください、というような制度改正はしてほしくない。やはり8割、9割ぐらいの人が“こうなって良かったよね”と思えるようにしてほしい。そのためにも、過激な議論はやめてほしい」とした上で、根底には“経済的な理由”が潜んでいるとの見方を示す。
「女性の社会進出が進んだ結果、様々な契約や手続きのためのコストが意識されるようになり、その解決のために夫婦別姓の推進運動が起きてきた。そこに対して懸念を持つのが、いわゆる寺社仏閣、特にお寺だ。日本では基本的に“家族葬”のため、墓も“何々家之墓”となっていて、子孫が入っていくというのが原則で、霊園などもその前提で管理・経営が行われている。だから夫婦別姓の中国や韓国の場合、お墓も個人単位だ。つまり日本もそうなった場合、“永代供養”となり、霊園の維持、経営が苦しくなる可能性が高くなる。ただ、この話をはっきり出してしまうと浅ましいと思われるから、明治以降にできた“家族観”という伝統を主張するようになったということだ」。
宇佐美氏とTwitter上で論争したタレントでソフトウェアエンジニアの池澤あやかは「本当の反対理由があるのなら正直に言ってほしい。家が、伝統が、みたいな話もあるかもしれないが、こっちだってメチャクチャ不便を被っている。旧姓で全て契約ができて、資格が取得できて、海外でも国内でも法人を立ち上げられるというのなら特に言うことははないが、そういう状況にもなっていない。そこに選択的夫婦別姓という解決できそうな方法が出てきているのに、そういうふんわりした理由で“ちょっとそれは”と言われるのは納得できない。ビジネスモデルが理由で反対なさっているなら、そう言ってもらった方が建設的な議論ができる」と反論。
自身も“通称使用”に幾度となく不便さを感じてきたという「選択的夫婦別姓実現をめざす香川の会」の佐藤倫子弁護士も、「宇佐美さんがおっしゃる“お墓の問題”というのは正直言ってピンとこない。私たちはどういうお墓にするんだろうね?と家族で話し合いをすればいいことで、神社仏閣の経済のために今を生きる私たちが制約を受けるというのがよくわからない」と困惑する。
すると宇佐美氏は「そういうのが嫌だということだ。神社仏閣にも経営という問題、そして地域の問題がある。夫婦だけ、一代限りなら問題は生じないかもしれないが、基本的には永代使用料という家単位の、ある種の不動産的なビジネスモデルなわけで、それが壊れてしまうという危機感を抱いているところにちゃんと寄り添ってから議論してほしいということだ」と理解を求めた。
■「今の戸籍制度が維持される限り、導入は技術的に不可能だ」
宇佐美氏の意見に対しては、選択的夫婦別姓の導入に反対の立場をとる麗澤大学国際学部の八木秀次教授(憲法学)も「家制度と夫婦の氏の問題にはなんの関係もない。家制度だった戦前の民法と現在の民法は完全に切り離されていて、夫婦とその間に生まれた子どもで家族を構成し、その共通の名前として氏が存在するという仕組みになっている。神社仏閣についても、神社界は夫婦別姓に反対しているが、墓の問題とは関係ないし、神道の墓はごく少数だ。仏教界でも夫婦別姓について賛成しているところもたくさんある」と反論。
その上で、「戸籍制度をやめようという人はごく少数だ。その上で、「戸籍制度をやめようという人はごく少数だ。そういう中で解決策があるとすれば、通称使用の拡充しかない」と訴える。
「夫婦の氏の問題は戸籍制度と一体のものだ。選択的夫婦別姓を導入しろと簡単に言うが、今の戸籍制度の元でそれを実現するのは技術的にも極めて難しいと指摘する専門家もいる。そもそも選択的夫婦別姓の問題が浮上したのは、職場での旧姓の通称使用の話からだった。それが民法を改正するという大きな問題になってしまったわけだが、高市早苗総務大臣の時代に、かなり通称使用が広がった。まだ残っているところもたくさんあると言われているので、通称使用をさらに拡充させていけば、大半の問題は解決するだろうと思う。包括的な推進法を作るということも、一案だろう」。
八木教授の説明に、田村淳は「先祖をたどろうとする時、戸籍にはすごいデータが詰まっている。だから戸籍制度は守ってほしいと思っている。気になっているのは、選択的夫婦別姓を導入することで、戸籍制度というものが本当に崩壊してしまうのか、ということだ」と疑問を投げかける。
八木教授は「通称は戸籍の中には入らないというか、馴染まない。今の戸籍制度では、一つの戸籍に一つの氏がある。結婚すれば親の戸籍から出て、夫婦で新しい戸籍を作るが、そこは一つの家で統一されていることになるし、夫婦に子どもが生まれれば、やはりその氏を名乗ることになっている。仮に選択的夫婦別姓が導入された場合、一つの籍に二つの氏が存在することになり、氏名の法的性格が変わると指摘されている。家族名、ファミリーネームが全国民から失われることになる。
仮に夫婦に子どもが複数人生まれてきた場合、氏はバラバラでもいいということなら、いつの段階で氏を決めるのか。自分で決めさせるのか、それとも親が決めるのか。あるいは決まらなかった場合、誰が決めるのか、そういう手続についても何も決まっていない。また、経過措置の問題もある。選択的夫婦別姓が導入されたので、1年、3年といった期間を設け、変えたい人は変えてください、ということにした場合、おばあちゃんが旧姓を選択したとすると、お母さんは自分のお父さんとお母さんの氏のどちらかを選択することになるし、子どもは父方の祖父母、母方の祖父母の4つの中から選択することになる。こういったことが全家庭で起きることになる。私は今の戸籍制度が維持される限り、選択的夫婦別姓を導入するのは技術的に不可能だと思う」。
佐々木氏は「八木先生のお話の通り、戦前の日本にあった家制度は戦後の日本ではほぼ消滅したと言われているし、21世紀の今は人口減少社会に入り、生涯未婚率も3〜4割という状況になっている。もはや長男が氏を継いでいくというシステム自体が崩壊していると思うし、そこに戦前の家制度に基づく戸籍制度というのは現状に即していない。宇佐美さんが言っていた神社仏閣の話も、もちろん今はまだ檀家制度で食っている寺がたくさんあるだろうが、それも危機に瀕している。お墓についても、地方の過疎地では守る者もいない。僕の実家も、叔母夫婦が“もう守れない”という話になったので“墓じまい”をした。
やはり文化が整っていないのに制度で無理やり変えようとすると反発を起こす。かといって、文化が先に進んでいるのに制度が置いていかれると、それも齟齬が起こしてしまう。いかに文化と制度を両輪で進めていくかが大事なんじゃないだろうかと思うし、はっきり言って自民党でも50歳以下の議員になると、表面上は保守政党として夫婦別姓反対と言っていても、内心反対している人はほぼいないんじゃないか」。
衆院選に向けて発表された政策集を見てみると、自民党は「令和3年最高裁大法廷の判決を踏まえつつ、氏を改めることによる不利益に関する国民の声や時代の変化を受け止め、その不利益を更に解消し、もって国民一人ひとりの活躍を推進します。」との記述にとどまっており、「結婚により改姓するのは96%が女性です。仕事のキャリア維持などさまざまな理由で、希望する夫婦がそれぞれの姓を変えることなく結婚できるよう、同姓または別姓の選択を認める「選択的夫婦別姓制度」の導入を推進します。」とする公明党とは、同じ政権与党でも温度差が異なっている。
宇佐美氏は「そういう議論が一番物事を進めないと思う。やっぱり既存の制度が崩れかかっているのが分かっているからこそ、しがみついてなんとか維持しようというのが反対勢力の動機だ。その人たちの不安をきちんと取り除いてあげて、“こういうシステムに移行しようぜ”っていう議論がないときつい。
公明党が夫婦別姓に賛成なのは、霊園によって立つビジネスではなく、聖教新聞というベースで収入が上がる仕組みになっているからだ。結局、ビジネスモデルの革新というのが大事なんじゃないか。また、今の戸籍制度が家族と未婚の子という単位で考えているのは、戦後、紙が不足していたからで、個人単位にしてもいいし、明治時代には家族や親族単位と個人で登録することができた時代もあった。その意味では、今の制度を前提に議論をしなくてもいいんじゃないかと思う」と話した。
テレビ朝日の平石直之アナウンサーは「議論が“反対する人の意味が分からない”というところに行き着くと変わらない。八木さんは制度を守ろうというよりは、現実的には通称使用の拡大などの着地点を見出した方がいいんじゃないかという立場だし、宇佐美さんの“意味が分かりません”みたいになってしまうと、いつまでも変わらないままいってしまうんじゃないですか?というのもクリティカルなポイントだと思う」と議論を締めくくった。(ABEMA Prime』より)
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