この冬、首都圏では電力危機の可能性も?…脱石炭と脱原発、目標達成は本当に可能なのか
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 国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で「2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指す」と話した岸田総理。日本は現在、電力の32%を石炭燃料による火力発電で賄っているが、政府はこれを2030年度までに19%までに減らす方針を掲げている。

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 イギリス、フランス、ドイツなどはすでに石炭火力発電を2030年代までに廃止することを決定、ドイツは原発も廃止し、再生可能エネルギーの拡充へと舵を切っている。一方、フランスは原発の維持を選択している。日本も、やはり原発に頼らざるを得ないのだろうか。4日の『ABEMA Prime』で、長崎大学核兵器廃絶研究センターの鈴木達治郎副センター長と、元経産官僚の宇佐美典也氏が議論した。

【映像】日本は脱炭素できる?世界からは厳しい目も

■原子力発電と石炭火力発電、両方とも減らすことは可能なのか

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 風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーは、安定的で低コストな「ベースロード電源」たりえないのが現状だ。火力発電を全抑制しようとすれば、やはり原子力発電に頼らざるを得ない。イギリスのジョンソン首相は先月、先進国に2030年までに石炭火力発電の全廃を求めていた。しかし岸田総理は2日、日本は廃棄物・排出物をゼロにする技術開発に触れて、石炭火力発電を継続する意思を示している。

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鈴木:岸田総理のスピーチは大体予想通り内容だったので、あまり驚いてはいない。少なくとも石炭火力については新設するのはやめるとか、やるにしてもゼロ・エミッション化の技術開発が実現してからとか、あるいは石炭よりはCO2排出量の少ない天然ガスを使うということを言わなければ、やはり世界からの批判は避けられないだろう。これまでと同じような継続の中で“技術革新に頼る”というだけのメッセージでは、残念ながら“化石賞”をもらうにふさわしいものになってしまう。

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原子力発電については、基本的に一番安くて安定供給できるということが福島事故以前の特徴だった。ところが少しの事故や地震で止まってしまい、なかなか再稼働できないという不安定さが出てきてしまった。また、最近は経済性の問題も出てきている。経産省の最新の推定値でも、安全対策などを考えると最も安い電源ではなくなっている。

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やはり原子力をベースロード電源として考えて本当にいいのかどうか、ということだ。脱原発を決定している韓国も台湾もベルギーもスイスも、まだ動かしてはいる。ドイツも2012年に決定し、来年の全廃に向け10年かけて少しずつ減らしてきた。過渡期を設け、社会へのインパクトを少なくしつつ減らしていく。

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もちろん、すぐに無くすということではないが、野球に例えれば“肩を壊したエース”のようなものだと思う。つまり非常に頼りになっていたエースだが肩を壊してしまったため、きちんと治さない限り先発では使えない。しかし控えに置いておいて、いざという時には頼れる。そしていずれは引退していただいて、新しいエースを育てる。そういう感じになるのがこれから仕事ではないか。

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宇佐美:アメリカやイギリスみたいに領土内で石炭やLNG(液化天然ガス)といった燃料が穫れる国と違って、日本は燃料をオーストラリアやインドネシア、マレーシア、中東の国々からの輸入に頼らざるを得ない国だ。かつて資源を求めて戦争したぐらいの国だし、自国だけでは絶対に発展できない国だ。そこで重要になるのが、日本を支えてくれる国々を大切にするということだと思う。

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今、石炭を廃止するという世界の流れの中で、これらの国々が困っている。そこで間に立って“今までありがとう。なんとかCO2を出さないようにして、これからも一緒にやっていこう”というのが、日本の外交のあるべき姿ではないか。まずは仲間を大事にして、その上で世界の課題というのに向き合うべきだ。

■未だ出口の見えない“核のゴミ”問題も

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原子力発電については、“核のゴミ”の処分の問題もついてまわる。

宇佐美:これには明確な出口はない。仮に原発をやめたところで使用済み燃料はなくならないし、決して安全ではないが、日本は先延ばししてきた。今は青森県に貯蔵・再処理の施設を作っているところで、最終処分場についてはようやく手を挙げてくれるかもしれない自治体が出てきた段階で、フランスなどと一緒に技術開発し、有効利用する方法を見つけようというところで止まっている。

だからまだ原発の横に貯めておくという状態だし、とりあえずはもう一度加工して原発に使いましょうという、核燃料サイクルになるだろう。逆に言えば、原発を使い続けるという前提になってくる。“埋めてください”と言われ、すぐに“はい”返事をする自治体はないはずだし、結論が出ない。

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鈴木:世界的にも本当に困っているというのが事実だ。地下に埋める地層処分が最も安全だと言われているが、それでも疑問点はあるし、OKだとしても立地の問題がある。地震が多い日本には、安定した地層がないのではないかという課題もある。フィンランドとスウェーデンだけが立地を見つけているが、安全規制の評価があるので、処分そのものは始まっていない。

また、今は福島原発事故のように停電になった時に危ないので、使用済み燃料をプールから取り出し、容器に入れて地上で保管するという乾式貯蔵でやっている国が増えている。これで100年ぐらいは大丈夫なので、その間に立地を探そうということだ。つまり、核のゴミを安全に処分している国はどこにもないということだ。私としては、原発推進・反対にこだわらない廃棄物処分専門の組織が、ゴミを引き受けることだ。

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宇佐美:青森県としても、ゆくゆくは資源として再利用するということならしょうがない、といっても受け入れをOKしたということなので、それ以外のところで合意が作れるかどうか。鈴木さんがおっしゃったような方法でいくと、青森県は“今まで俺たちがやってきたのはなんだったの?”と激怒することになるだろう。ここに難しさがある。

鈴木:そこは説明していく必要がある。残念ながら再処理しても廃棄物は残る。だから再処理をやっている国はどんどん減っているし、今はフランスとロシア、そして日本くらいだ。いずれにしてもゴミは残るので地層処分場は必要だ。その問題と再処理の問題は分けて考える必要があると思う。

■この冬、首都圏では電力危機の可能性も?

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そんな中、経済産業省は今夏、2030年までに再生可能エネルギーを約36~38%程度、原子力発電を約20~22%程度と、従来よりもハードルの高い計画を示している。すでに残り10年を切った今、達成は現実的に可能なのだろうか。

鈴木:難しいと思う。やはり比率にこだわるよりも、減らすなら減らす、依存度を下げるという政策をきちんと打ち出すことだ。減らすと言っておいてベースロード電源で維持するといってしまえば、もう分からなくなってしまう。原子力の政策を見ていても、交付金制度など、石油危機直後の1970年代の拡大政策のもの残っているし、そこに依存している地方自治体としては雇用もあるし、当然、再稼働してほしいとなってしまう。

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宇佐美:政府でも委員会でも批判が出ているが、これは非現実的だ。まず忘れてはいけないことは、我々の社会は電力の自由化を選んだということ。いま電力需給が逼迫してきていて、この冬がものすごく寒くなれば、東京で電力が足りなくなる恐れがあるのも、基本的には企業の自由だからだ。電力会社には原発の負債などもあるし、経営を優先させれば古い発電所は潰しましょうということになるし、供給量に余力があれば、それも減らしていきましょうということになる。

今までそういうことをごまかし、電力の自由化をしたのに電力会社に責任を求めるという態度でやってきたけれども、もう限界に来ている気がする。引き続き、原発はまだ使うわけだし、予備電力についても国が関与していかないと、安定供給も脱炭素も厳しくなってくると思う。その意味でも、まずは国民の生活ありきだし、その上での国際貢献だという、その順序は間違えてはいけない。

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鈴木:ご指摘の通り、自由化したまま放っておけば、電力が足りなくなってしまう可能性がある。一方で、電力会社も国も、長期的な計画は持っている。電力を余っているところから東京などの足りないところに送るよう指令を出す仕組みもあるし、需給が迫ってくれば価格が上がって儲かるので、発電所を建てることにもなるわけだ。海外でも、一時的に供給がタイトになったら、必ず新しい発電所が建つ仕組みになっている。

その意味では、国がきちんと規制を入れること、デジタル化によってエネルギー需要そのものをコントロールし、本当にタイトになったら、需要をカットさせるということも一時的にできるようになると思う。そういう新しい技術を使えば、私は乗り切れると思う。(『ABEMA Prime』より)

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