YouTubeやTikTokなどを通じて、誰もがスポットライトを浴びられる時代。4日に『ABEMA Prime』では、自分の子どもをメジャーにしようと、オーディションや売り込みに熱心になる親たちに、天才子役と呼ばれ、90年代には様々なドラマに出演して人気を博した黒田勇樹(39)が渾身のアドバイスを行った。
20代後半で引退するも復帰、現在は俳優に加えて映画監督としても活動する黒田。「Y、U、K、I、黒田です!生まれて初めてやりました(笑)。EXITさん、好きなだなって思って。うちのお母さんがよろしく言っていました!とっとと言っちゃう。子役の親は、子どもの盾にならなきゃダメ!」。
スタジオの空気を支配する勢いで喋り出した黒田。さらに言葉を継いだ。
「特に売れちゃうと、親戚とか、知らねえおじさんとかががゴチャゴチャ言ってくるの。その人たちにいい顔をしようする親たちが、子役の育成に失敗している。親がやらせたいことじゃなくて子どもやりたいことをやらせておいて、でもやめたいと言った時に盾になってあげられる親であれって俺は思ってる。いつでもやめられるよ。サッカーも超楽しいぜ。文章を書くのも楽しいぜ。絵を描くのも楽しいぜ、音楽も楽しいぜって。今日はそれを伝えに来た。時間が短いし、俺の話をちゃんとしようとすると1万文字ぐらいの、大学の卒業レポートみたいになるから、今日は松岡修造さんみたいにエモーショナルな部分を使って、文字以上のことを伝えていこうと思っている」。
■「20歳になると、“学園もの”の出演がなくなってしまう」
1歳上の安達祐実(40)と0歳のときにCMで共演したこともあるという黒田。俳優としてのデビューは5歳のとき、NHK大河ドラマ『武田信玄』(1988)だった。
「うちはお父さんがバンドマンで、お母さんもマネージャーの仕事をしている芸能一家で。“なんでおばあちゃんだけテレビ出てないの?"
って言うぐらい、回りの人が芸能の仕事をしていた。そして5歳の時、お母さんのマネージャー友達が、真木蔵人さんの息子役のオーディションがあるということで、“勇樹だったら似てるから受かるよ。ちょっと人数が足りないから、人数合わせでいいから連れてきて”って言ってきたらしい。お母さんとしては子役はさせたくなかったようだけど、俺はやりたかった。1回だからいいでしょ?といって。案の定、合格した。それからずっと芸能界にいることになった」。
その後も数々のドラマや映画、舞台に出演。TBS系『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』(1994)で大きな注目を集め、山田洋次監督の映画『学校III』では日本アカデミー賞の新人俳優賞も受賞した。しかし成長するに連れ、子役たちは次々と表舞台から姿を消していく。
「種明かしをすると、子役として注目されていれば、特に訓練をしていなくても“学園もの”の仕事がどんどんくる。ところが20歳になると、それがなくなってしまう。そして飽きられてきたところに俳優を目指して勉強してきた大学卒の新人たちや、ライダー俳優、特撮俳優たちが次々と出てきて、一気にふるいにかけられることになる。そこまでにいかに訓練できていたか、その後もいかに訓練をし続けられるかだと思う。
俺の場合は、28歳の時に病気で舞台を降板してしまった。当然、“あいつは降板したやつだから”と見られるので、その後1年ぐらいは事務所に所属していたが、やっぱり仕事が来なくなってきた。そこで“もう俺、この椅子空けよう”と思った。別にすごくやりたいわけではなかったし、20歳を過ぎたあたりから、勉強してきたヤツらがワッときていた。俺は頑張ってもいないし、病気で休んじゃうくらい、やる気もない。“椅子取りゲーム”なんだし、と思って辞めることにした」。
■「一度売れなくなったからといって落ち込む必要はない」
32歳で芸能界に戻ったのはなぜなのだろうか。
「いろいろあるけど、これ1分でいけるかな(笑)。お金がなくなったことと、離婚したこと。“転落人生“みたいに言われて。俳優やめたら転落だって言われるのは超イヤだし、“転落じゃなくて転職だよ”って言わなくちゃいけないなと思った。それで子役たちのためにバラエティに出まくったらめっちゃ売れちゃって、“ハイパーメディアフリーター”とか言われちゃって。
裁判もしたから詳しい話はしちゃいけないけど、その頃に結婚と離婚を経験して、ワークショップの先生のバイトを始めた。そのうちに、昔からの夢だった映画を撮ることになって。しかもすごく好きな俳優さんに出てもらえた上に、“来年舞台やるから出て”って。それは出なきゃなと思って復帰した。そうしたら、やっぱり楽しくて。もう一回、腹括ってやろうって」。
28歳にして初めてのアルバイトを経験した時、「これが噂の“バイト感覚”かと思った」と振り返る。
「2時間ドラマのスタッフを見て、“なんでこいつら一生懸命にやらないんだろうな”って思ったりしてたから。そりゃあ毎月やってたらこうなるんだなって分かった。それから、あるバイト先にすごく悪い奴がいた。俺は俳優しかしたことがなかったから、“いい面もあるんだろう”と思いながらやっていたが、本当に悪い奴で。復帰した後、“悪い奴は悪い奴だ”と思って演じた悪役で売れたこともあったから、無駄じゃなかったと思う。
学園ものに出た後、中華料理屋でバイトして10年後ぐらいに復帰してきた奴は、やっぱりすごく料理がうまいし、70歳まで別の人生を経験していた人には、やっぱりその人にしかできない役があると思う。一度売れなくなったからといって落ち込む必要はないし、人生を楽しめばいい。僕もいつかいい役ができる日がくると思っている。そういう面があるということも、子役の親たちは知っておくべきなんだろうなと思う。
逆に、元子役が一般社会のルートに戻れるのかという質問には、いつもこう答えている。“一般の経験をしたことがないから分からない”。ファミコンやったことないから波動拳が打てないというか、夏休みと冬休みだけ仕事をしていたから水泳とスキーができないとか、そういうことしか分からない」。
■「今の子役たちは金銭感覚がちゃんとしている」
また、幼少期から芸能界に身を置くことで、金銭感覚が一般人とは異なってくるといった見方もあるが、黒田は「今はそうじゃない」と否定する。
「テレビ局はなかなかコストが下げられないから、バブルが終わったのも世間より10年ぐらい遅かったと思う。だから俺らの親、ちょうど60過ぎくらいの親たちは金銭感覚がたしかに違う。そういう、“来年これだけの税金を払うよ”ということを気にしない世代に育てられた俺たちの世代には“闇”があるのかもしれないが、その後の子役たちはバブルが終わった後の親に育てられているから、芦田愛菜ちゃんとか鈴木福君とかは金銭感覚がちゃんとしているはずだ。
うちの場合、親がギャラの話はしないようにしていた。ただ、CMのナレーションをした時、“あんた今、1分で1万円稼いだわよ”と言われたことがあった。だから時給が800円でバイトを始めた時、“この間まで1分1万円だったのに、1分13円になったんだな”と思った。でも引っ越し屋でバイトをしているとき、知らないおばあちゃんに気付かれて、“あんた苦労して。絶対いい俳優になるわよ”と1万円握らされたこともあった(笑)。
俺自身、昔からお財布に2000円入っていればいいと思っていた。その代わり、歌舞伎でもオペラでも、観たいお芝居は全て見させてもらった。5万円くらいするのも含めて、年に300本ぐらい。だから20歳になった時とか、結婚した時とか、お母さんに“あの時のギャラよ”といって1000万円ぐらいもらえるかと思っていたけど、僕が観劇に使い込んでたからなかった(笑)。
でも、いいお芝居をあれだけ観に行かせてくれたし、それで今いいお芝居を作れてるからいいかな、ぐらいに思っている。演出とか監督とかをしていると、若い子に“なんで黒田さん、そんなにセンスがいいんですか”と言われるけど、“いや、若い時にお金を使ったから、どこが面白いの天井なのかを知ってる。それを参考にしているだけ”って」。
■「成功している元子役がいるということがもっと伝わればいいな」
さらに子役の経験者は悪い道に進みがちだといったイメージについても、「悪いことをした元子役がニュースになっているだけだ」と断言する。
「100人中90人が幸せになっているのに、残り10人が不幸になったことを報じて、“子役は不幸になる”と言われているが、それは違うと思う。幸せな結婚をしたり、ちゃんとした企業に勤めたりしているやつもいっぱいいるのに、それが報道されていないだけ。例えば坂上忍さんは“元子役”とは言われなくなったが、あの人だって元子役だ。ああいうふうに成功している元子役がいるということが、世の中にもっと伝わればいいなと思う。
強いて言えば、俺はちゃんとしていようと思っていたけど、やっぱりちゃんとできなくて、グチャグチャした人生を送ることになった。それでも幸せですと言い続けなきゃいけないのがデメリットかもしれない(笑)。くじけそうになる夜もいっぱいあるが、僕も頑張っているよ!って」。
■「お母さんはバカな大人に狙われやすいから気をつけて」
その上で黒田は、子役を経験することで子どもに自信が付いたり、引っ込み思案なところが解消されるなどと期待する親たちに向けて次のように警鐘を鳴らした。
「確かにヨーロッパでは学校に行けない子どもたち向けに演劇のプログラムがあるくらい、コミュニケーションの訓練にもなる。ただ、演技をしたことのない親たちに言いたいのは、『外郎売』を言える?言えないでしょ?ということ。佐藤浩市さんしかり、柄本佑くんしかり、2世の俳優の演技が上手なのは、親もちゃんとした人だからだ。ちゃんとプロにコーチングしてもらわないと、子どもだってできない。それなのに、“もっとああしなさいよ”“もっとここでは泣いて”とか言いやすい環境になりがち。でも、それは違うじゃん。そこは“子役に付き添う”という、自分の領分を分かった方がいい。だからメンタルケアだったり、逃げ道を作ってあげるというのはすごくステキなことだ。
ただ、プロの中にはエッチな人もいて、お母さんは狙われやすい。そういうことでモチベーションを保っているバカがいるから気を付けてほしい。地方ロケに行くと、子役担当になった制作のおじさんと母親がメチャメチャ仲良くなってしまって、“あいつらバンから出てこないな”みたいなこともあった。そんなことでは子役が仕事にならないし、そんなことをしている大人は仕事はできないから、付き合わない方がいい(笑)」。(『ABEMA Prime』より)
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