“生みの親”知る権利とプライバシーの壁…新生児取り違え被害者が都を提訴 ひろゆき氏「もっとアバンギャルドなやり方を」
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「一日も早く母の願いを叶えてあげたいし、血縁の両親も元気でいてくれることを願っています」

 5日、東京都を相手に訴訟を起こした江藏智さん、63歳。江藏さんは生まれた直後、別の新生児と間違えて親に引き渡された。

【映像】ひろゆき氏「受付の人を外で待って100万円を渡せばいい」に当事者・江藏さんの答え(28分ごろ〜)

 事実を知ったのは17年前、江藏さんが46歳の時だった。DNA鑑定の結果、分かったのは両親のどちらとも親子関係がないというまさかの事実だった。浮かび上がった可能性は一つ。

母・チヨ子さん(当時72歳)「取り換えられた。墨田産院で」

 江藏さんは、昭和33年(1958年)4月10日、東京都立墨田産院で生まれた。しかし、墨田産院はすでに廃院。カルテも残っていない。

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 管轄していた東京都に問い合わせるも東京都・担当者の回答(2005年)は「取り違えは想像に過ぎずあり得ない。でっち上げだ」というもの。担当者には全く相手にされなかった。そこで江藏さんは取り違えられた相手を探すよう、東京都を相手に裁判を起こした。

 裁判所(東京高裁判決・2006年10月)は「墨田産院で取り違えはあった」と認定。しかし、相手を探すために個人情報を提示することは「第三者の新たな権利の侵害を否定できない」として認めなかった。

 諦めきれない江藏さんは自身で親捜しを始めた。産院があった墨田区で自分と生年月日の近い男性を見つけ出しては「どちらの病院でお生まれになったのかということと血液型が分かれば、もし差し支えなければ教えていただきたいなと思って歩いているのですが」と聞いて回った。事情を丁寧に説明し、60軒近く尋ねたが、生みの親は見つからなかった。

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 辿り着いた次の手が戸籍受付帳だ。同時期に墨田区で生まれた人の出生届が残っており、取り違え相手は25人ほどに絞ることができた。しかし、見られるのは黒塗りされた資料だけ。住所や氏名の個人情報は公開されなかった。

 江藏さんは「黒塗りではない受付帳を見せて欲しい」と何度も東京都にお願いに出向いたが、東京都の担当者は「戸籍受付帳を区に対して開示請求することに関しては相手方の人生に関わる問題であることに加えて、本件に関わりのない方のプライバシーに影響することであり、ご要望にお応えすることはできない」と回答。ここでも取り違えられた相手側のプライバシーが立ちはだかったのだ。

 事実を知ってからすでに17年が経過。「実の子どもに会ってみたい」と言っていた母も認知症の症状が進み、今では江藏さんのことが分からない日もある。父の董さんは5年前に亡くなった。

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 幼い頃から家族の中で自分一人が浮いているような気がしていた江藏さん。耐えられず、14歳の時に家を飛び出したこともあったという。

「どこの家庭にもあると思うが、物心ついた頃から父や弟と笑うところや泣くところが違った。中学2年のときに、私の方から家を出た。両親の血液型がOとBで、私がAだった。30歳半ばのときに、DNA鑑定で調べようと思ったが、当時は『300万円かかる』と言われた。その後、新聞にOとBで遺伝子の変化でAが生まれるという記事が載っているのを見て、自分はこのケースだと言い聞かせていた。たまたま46歳のタイミングで病院の先生が無料でDNAを調べてくださって、取り違えが分かった。小さい頃から家族の中で自分一人が浮いている感じがあった。14歳で自分から家を離れた理由がわかったような気がした」

 生みの親を求めて60軒もの家を回った江藏さん。江藏さんの裁判を担当している弁護士・元日弁連事務総長の海渡雄一氏は「当時住んでいた人のところに辿り着くのは容易ではない」と補足する。

「80人のうちの60人を回れたわけではなく、当時生まれた人で”今”墨田区に住んでいる人のところしか回れない。(回れた人は)ほとんどが、墨田区ではない場所から来た人たちで、”当時”墨田区に住んでいた人の大半はもうどこかに行ってしまっていた。当時、墨田区に住んでいた人のところに今辿り着くのは容易なことではない。戸籍の受付帳で探して、その人の現住所を確認するしか探す方法はない」

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 5日、提訴後に記者会見を行った江藏さん。顔を出して会見した理由について、海渡氏は「顔や背格好を見て『似てるな』と思って、名乗り出てきてくれる人がいるかもしれない。今日この『ABEMA Prime』に出ているのも、こういう番組に出れば、同じようにミスマッチを感じている親子がいて、『この人の親かもしれない』という情報が来るかもしれない」とコメント。

「自力で探す努力は私たちもしている。しかし、戸籍の受付帳に生みの親が届けたものがある。これは、はっきりしているので、なんとか調査したい。その権限を持っているのは東京都だけだ。受付帳に基づいて、当時生まれた人で墨田区に届けている人は1カ月の間で200人ぐらいだ。そのうち男性と女性で半分だから100人ぐらい。その100人を一人一人尋ねて行ってもらって、東京都の職員が事実関係を確認すれば、その中から見つかる。そして、見つかった人に『真実の子供と会ってみますか』ということを東京都側が代行して聞いて欲しい。情報は開示しなくていい。会うかどうかの判断はそのご家族の方にしていただく。『会いたくないと言われたら諦めるしかないね』ということは江藏さんと話している」

 海渡氏の説明を聞いたネット掲示板『2ちゃんねる』創設者のひろゆき氏は「当事者の人、墨田区に住んでいて同じような年齢だったら聞いたことがある話だと思う。本当に探したいのであれば、63歳で4月10日前後の誕生日で、身長や血液型などと照らし合わせて『有力な情報をくれたら100万円あげます』と拡散すれば、けっこう情報が集まるのではないだろうか」と提案。

「現実問題として墨田区と関係ないところに住んでいる、もしくは知られたくないというパターンもあるので、第三者の通報ということで賞金をかけたほうが早く見つかると思う。知られたくないと思っても近所の人が100万円もらえるんだったら情報提供するだろう。正しい行為で情報を探ろうとして今のところ十何年もかかってしまっている。もうちょっとアバンギャルドなやり方をした方がいい。ご本人も顔出しをしているし『うちの隣のおじいちゃんに似ていると思うんだけど』と情報提供する人もいると思う」

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 ひろゆき氏の提案に同意を示した上で海渡氏は「この番組に出ているのもアバンギャルドだ。我々としてはこれだけ情報が集まっていて、この黒塗りされた資料の中に絶対に親がいる。わずか100人だ。それをしらみつぶしに当たって聞けば確実に見つかる。ひろゆきさんが言っているようなやり方でも見つかるかもしれないが、それも確実なやり方ではない」とコメント。

 やりとりを見ていたライターの佐々木チワワ氏は「黒塗りされた紙一枚が目の前にあって、もどかしさがすごくあると思う。今の海渡さんの意見を聞いたら、東京都が(代行して)動いてくれていいのにと思った。逆になぜそこまでして動いてくれないんだろうか」と疑問を述べる。

 これに海渡氏は「東京都は、気の毒だとは認めているが、『戸籍の受付帳を請求していい根拠になる法律がない』と言っている。要するに親子の取り違いが起きたとき、親子の取り違いをどういう手続きで調査したらいいのか。法令に根拠がない請求行為だとおっしゃっている。だが『子どもの権利条約』という日本が批准した条約の中に『子どもは親を知る権利がある』という条文がある。我々はそれに基づいて『これが法令じゃないか』という主張をしている。裁判の大きな争点になると思う。調べる根拠になる法律があるかどうかだ。法令の根拠さえ作れば東京都は調査を始めざるを得なくなる」と説明した。

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 相手側のプライバシーも考慮しないといけない今回の裁判。当事者である江藏さんも「相手(生みの親)がノーというのであれば、そこまで私は入っていかない」といい、相手の生活を壊したいわけではなく、むしろ守りたいと思っている。

 最後に、生みの親への思いを聞かれた江藏さんは「生んでくれてありがとう。元気でいてほしい」とメッセージを送った。

 海渡氏によると、訴訟支援のWebプラットフォーム「CALL4(コールフォー)」をはじめ、今後はネットでも支援を呼びかけていくという。(『ABEMA Prime』より)

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