「音楽をラジオで流すことが大反対に遭った時代もあった」映画や書籍を要約する“ファストコンテンツ”を経済学者が肯定する理由
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 書籍の内容をイラストや図を使って要約、数枚の画像にしてSNSにシェアする、いわゆる“図解投稿”。Twitter上には、「忙しくて本なんて読んでいる時間がないので助かる」と歓迎する声も少なくない。

 これまで約170冊の書籍の“図解投稿”を行ってきたと話すしまやすさんは「昔の本屋でいう立ち読みみたいな、情報を一口、二口かじってみて買いましょうと。それが図解。“ファストコンテンツ”として、書籍にもニーズはあるのかなと感じている」と話す。実際、“ネタバレ”の懸念よりも宣伝効果に期待している出版社もあるといい、「一部の出版社のアカウントにリツイートしていただいたり、“拡散して頂いてありがとうございます”とコメント頂いたりすることもあるので、販促の施策として受け入れられている部分もあるのかな」と明かした。

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 ■「“売れているからいいじゃないか“と主張するのは盗人猛々しい」

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 一方、映画を10分程度に短く編集、字幕やナレーションなどを付けて無断で動画投稿サイトに公開する“ファスト映画”が社会問題化したことは記憶に新しい。

 今年6月には著作権法違反の疑いで投稿者らが逮捕されたこともあり、CODA(コンテンツ海外流通促進機構)によればYouTube上に55あったアカウントは7にまで減少。。後藤健郎代表理事は「刑事告訴されるということが分かったので、甘く見ていた連中も“まずいな”と撤退、解散しているのだと思う。今後も悪質なファスト映画については第2弾、第3弾と刑事事件で対応していきたい」と語気を強める。

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 書籍についても、同じことが言えるのではないだろうか。

 ミステリー作家の佐藤青南さんは「図解投稿されるのは、そのようなビジネス書や自己啓発本といった分野が多いと思うし、“図解”というよりは“目次”に近く、購入の導線になるのかもしれない。また、それぞれの著作物には権利者がいるので、個別にOKした場合であれば、“まとめ”も許されるとは思う。だから絶対にダメだとか、憤る、といったわけではないが、著者と読者の間に第三者が介入することで、著者が伝えたいことが正確に伝わっているのかというのは疑問に思う。そして、小説はちょっと。それに僕はミステリーを書いているので(笑)。ネタバレなしというか、予告編みたいな感じで紹介してくれるんだったら考えるが、全体を要約して、ネタバレもありみたいな感じになると容認できないし、無断で投稿した側が“売れているからいいじゃないか“と主張するのは、盗人猛々しいと思う」と話す。

■「アフィリエイトでも良いから、リンクを付けるのが当たり前だ」

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 ジャーナリストの堀潤氏は「いま書店に入ると、すぐ目の前の棚には“お金が儲かる”“ビジネスがうまくいく”“楽に生きられる”といった本が並んでいる。そこが消費者の関心の中心なのだろう」と指摘。実際、しまやすさんも含め、投稿の多くはビジネス本や教養本だ。

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 他方、著作権者への許可取りについて、「170冊、全て取ったわけではない。引用みたいな感じで文言を入れているが、それがアウトかセーフかとなっちゃうと、そこに関してはギリギリのラインかなと感じている」としまやすさんは説明する。

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 こうした投稿に対し、これまでに複数の書籍を出版してきた元経産官僚の宇佐美典也氏は「最初は“まあいいか”と思っていたが、しまやすさんの投稿を見て頭にきたのは、リンクが掲載されていないこと。これは敬意がないと思う。本当に良い本だから買ってくださいということなら、アフィリエイトでも良いからリンクを付けるのが当たり前だし、書いた方だって納得感が出てくると思う。もし自分の本でやられたら、“お前、消せ!これで俺の本が売れるわけないだろう!”と言ってしまうと思う。ウィンウィンだと示す努力をしてほしいし、そのためのルールを作ってからにしてくれと思うだろう」と憤りを見せる。

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 また、同じく出版経験のあるタレント・ソフトウェアエンジニアの池澤あやかは「これは“書評”ではないと思った。自分の意見があって、そこに本の引用があるのが書評であって、これらの投稿は内容を抽出した“まとめ”じゃないか。著者からしたら、中身を流出させないでくれる?という感じだと思う」。

 先月、初の自著『超ファシリテーション力』が出版されたテレビ朝日平石直之アナウンサーは「“図解投稿”を見て、“もう買わなくていいや”と思われたら辛い」と苦笑。「もちろん、買う気はなかったけれど、買おうと思うケースもあるだろうし、その時の導線はせめて作ってくれということだ」と訴えた。

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 こうした著作権者たちの意見に異を唱えるのが、経済学者で慶應義塾大学の田中辰雄教授だ。「ファスト映画」の排除の動きについても「大変残念なこと。映画のファン層を広げ、観客数を増やす宣伝効果があったはずで、業界にとって悪手だ」と断言する。一体、どういうことなのだろうか。

■「過去の例でいくと宣伝効果の方が大きかった、ということが多い」

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 田中教授は「いくつか問題はあるが、基本的にはいいことだと思っている。なんと言っても、知らなかった人たちに中身を伝えることで、多くの読者が情報の入口に立つことができるようになる」と、ファストコンテンツの利点について強調する。

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 「以前であれば全く読むことのできなかったマルクスやヘーゲルの要約まで出てきている。そういうものから、みんなが入り口に立てるようになるし、タイトルは書いてあるので、読もうと思えばすぐにググるはずだし、すぐに購入にたどり着く。もちろん、“ネタバレ”が載っていることを知らずに見てしまった人はショックを受けてしまうだろうし、それはいけないことだ。ただ、映画評については“ネタバレ”と見出しに書いてあったり、“嫌な人はクリックしないで”と注意喚起されていることも多い。そういう状態であれば、問題はないんじゃないか。誤りが含まれたものや、著作権侵害をしているようなものも含め、問題のある投稿はいずれ淘汰され、クオリティの良い投稿だけが残っていくことになると思う」。

 また、売上に影響するとの意見に対しても、「やってみなければ分からないが、過去の例でいくと宣伝効果の方が大きかった、ということが多い」と主張する。

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 「例えばYouTubeに音楽ゲーム実況の動画がアップされた当初も、みんな“売上が下がる”と大反対した。しかし、やってみたら売上は伸びている。みんな、“これはいい”というふうに変わっていった。信じられないと思うが、ラジオだって、最初は音楽を流すのにみんなが反対した。そのようにして、世の中や業界は反対するものだ。だからファスト映画についても、ファンを広げているという効果はあるだろうし、“宣伝になるからやっていいよ”という映画会社や監督の作品についてはやってもいいと思う。それなのに、全て消してしまおうというのはやりすぎだと思う。コンテンツとしては出てきたばっかりなので、もう少し様子を見てもいいのに、いくら何でも早すぎる」。

■「試行錯誤し、どういう状態になるかを見極めてから決めればいい」

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 田中教授の話を受け、池澤は「自分の行いを振り返ると『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開される前に、“3分で分かるエヴァンゲリオン”みたいな動画を見て“事前予習”した。あれもファスト映画と言われればファスト映画かもしれないと思うと線引きが難しいなと思った」、カンニング竹山は「新作があるものの場合、過去作が誘導になる。そういう点も難しいところだ」とコメント。

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 宇佐美氏は「エド・はるみさんのYouTubeチャンネルは好きだ。本編の映像などは使わず、本人が演技で再現して“この映画、良いよ”とアピールしている。多少のネタバレがあっても、見ていて楽しいし、納得感がある。“パクリ前提”ではなく、エドさんみたいに工夫で勝負して欲しい」と話した。

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 田中教授は、YouTuberの“切り抜き動画”の中には元の配信者との合意を得た上でアップされているものもあること、さらに前出のしまやすさんが指摘を受けたら消す方針でいることを踏まえ、「著作権法違反のものなどは捕まえられてもしょうがないし、嫌だという人については“ノーティス・アンド・テイクダウン”で取り下げる。また、公開してすぐの映画はやってはいかんとか、ネタバレになるようなミステリー小説についてはやってはいかん、でも宣伝されていない昔の映画は観てみようと思う人もいるだろう、など、1年、2年とどんどん叩きながらルールを作って試行錯誤し、どういう状態になるかを見極めてから決めればよかった。そうすれば、自ずと秩序もできてくるはずだ」と話していた。

 今後ますます拡大しそうな“ファストコンテンツ”。規制・排除か、ルールづくりか。あなたはどう考える?(『ABEMA Prime』)

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