今月7日に放送されたNHKの大河ドラマ『青天を衝け』の中で、オランダ、ロシア、イギリスの国旗の上下が逆になっていた問題。NHKは再放送分を修正の上、視聴者や関係者にお詫びした。
国家や愛国心の象徴として国内外で尊重・掲揚される一方、時に他国を批判する意図で燃やされるケースもある国旗。今年に入り、日本を侮辱する目的で日の丸を傷つけると処罰できる「国旗損壊罪」の導入が議論されたこともあった。
大河ドラマの一件について、EXITの兼近大樹は「僕は日本食が好きだし、税金をいっぱい納めたいと思っているし、そのような意味では愛国心はメッチャはあると思っている。でも、海外のデモで日本の国旗が燃やされているのを見ても、“別に?”と思ってしまう」と困惑気味だ。
そこで25日の『ABEMA Prime』では、今から51年前の1970年11月25日、憲法改正を訴えて自決した三島由紀夫のメッセージを継承する愛国者団体「一水会」の木村三浩代表を招き、国旗の持つ意味、そして愛国心について議論した。
■「国を憂える心も必要だと思う」「国旗損壊罪には反対だ」
国旗について木村代表は「国を統一する、またはそれを尊重する人々のシンボルだ。そういう人からすると、逆さまになっているのはいただけない、という感覚にもなると思う。やはり、なぜそうなってしまったのか、というプロセスが大切で、間違ってそうなってしまっていて、指摘を受けてきちんと謝罪などの対応があったなら、猛省を促すぐらいでいいのではないだろうか」との見方を示し、「外国で日の丸が抗議の象徴として燃やされている映像を見た時にも、“はあ?何?”という人もいれば、“少しやり過ぎではないか”と感じる人もいる。そういう人々の色々な感情を理解していくことが必要だ」とコメント。
「私は65歳だが、祝日を“旗日”と呼ぶこともあるように、昔は東京でも家の前に国旗を立てている家があったが、今はあまり見かけない。地方でも、だんだんと減ってきているように感じている。私自身は日の丸をすごく大切にしている。例えば今日(11月25日)は三島由紀夫さんが割腹した日なので、ちょうど追悼の催しをやってきたところだが、きちんと国旗を立てたし、みんなが尊重しようという気持ちを持っていたと思う。一方で、“リベラル”だとか“左”と呼ばれる人たちにも愛国心はあると思うし、もちろん国旗を立てる権利はある。しかし立てることはしないと思う。
なぜか。日本と三国同盟を結び、連合国と戦争をして負けたドイツとイタリアは、“あの戦争は良くなかった”としてシンボルだった国旗と国歌を変えた。日本でも、新しい国旗と国歌を制定しようと主張していたグループもあった。ところが当時の国民の支持が得られなかったこともあり、今も変わらず使い続けられている。そこに対して、やはり第二次世界大戦、大東亜戦争というのは一体どのような戦争だったのか、その総括や反省がなされていないまま日の丸を立てるということは、“あの戦争は正しかった”という象徴になってしまうのではないか、という思いがあるのだろう」。
するとアイドルの和田彩花は「19世紀のフランス絵画、例えばモネなどはフランスの国旗が街中に立てられている様子を描いているが、美術史家の若桑みどりさんによれば、やはり近代以降の国民国家では、革命の理念などを引き継いで国の方向性を決めていったということで、国旗はそのイメージや象徴でしかないのだなと思っている。だから国旗そのものが愛国心というよりも、国としてどう在るべきかを考えていくことが大切なのではないか」と問題提起。
木村氏は「一理あると思う。フランス絵画で言えば、国旗ばかり描いているデュフィもそうだ。やはりあの旗には、自由、平等、友愛・博愛というフランス革命の理念が存在しているからだ。革命などで国や政権が新たに起きてきた場合には、象徴にその理念を集約していこうということがある。だから、ただシンボルだ、象徴だというのではなく、それを守ることによって理念を守り、理念を実現しようというのがいいんじゃないかなと思う。その意味では、愛国という言葉の他に、“憂国”という言葉もある。自然に出てくる感情として、国を愛する心も必要だが、国を憂える心も必要だと思う」と応じた。
ここでフリーアナウンサーの柴田阿弥が「では、国旗損壊罪について木村さんはどう見ているのか」と切り込むと、木村氏は「私は反対した。それは愛国心と同様に、法律で縛るようなものではなく、自然な感情で育んでいくものだと思う」と回答した。
■「大学生に“忠臣蔵を知っているか”と聞いたら、“知らない”と言われた」
ここまでの議論を聞いていた兼近は「僕は日本の国旗の理念も、なぜ変わらなかったのかも、全く教わらなかった。むしろ国歌を歌わない先生もいたし、それらを知ることは良くないことだという雰囲気すらあった記憶すらある。“右”とか“左”とか、そういうことには関わっちゃいけないよ、危ないよ、というか…」、テレビ朝日の平石直之アナウンサーも「学校では行事の度に国旗を掲揚し、国歌を斉唱しているはずだ。しかし、それが何を意味しているのか。君が代の歌詞だって、意味を分かっているのかと思う」。
木村氏は「日本の国旗についていえば、やっぱり太陽のイメージだと思う。それは日本の最初の神様で、女性の神様でもある伊勢神宮の御祭神、天照大御神だ。そのことは平安時代の新古今和歌集や和漢朗詠集などにも出でくるし、幕末には薩摩藩も使っていた。明治に入ると、外国と交渉するにあたって、なにか旗がないとまずいということになった。ということになったということだ。戦前の学校には“修身”という教科もあったし、“愛国の気持ちを持とう”と言って、そうした部分を徹底的に教えていたということだ。しかし戦争に負けてしまったがために、逆に教えなくなってしまった。
そういうことにどんどん馴染みがなくなっていった結果、先日も居酒屋で知り合いと飲んでいてたとき、大学生に“忠臣蔵を知っているか”と聞いたら、“知らない”と言われた。むしろフランス革命のように、外国の歴史の方が知っているということだってあるだろう。しかしグローバル化すればするほど、“あなたは日本人でしょ?どういう歴史?どういう旗?宗教は何を信じている?”などと問われる機会が増えてくると思う。外国の人は、それらを大切にしているからだ」。
一方、アメリカ出身のパックンは「国旗を掲げて走っている街宣車に、拡声器で“外国人は出て行け”と言われることがある。僕は日本が好きで移住しているし、どちらかと言えば日本を愛している外国人じゃないかなと思っているのに、これは間違った愛国心の表現じゃないか。ちなみに一度だけ、“外国人は出て行け”と言った後、“あれ、パックンさんじゃないですか?”と言われて、握手したことがある。どっちだよ、好きなんじゃないか(笑)」と振り返り、次のように語った。
「我々アメリカ人は、小学生の頃から、教室で毎朝、胸に手を当てて“この国旗と、それが象徴する神様の下の国に忠誠を誓います”と、意味も分からずに言わされている。国歌とは別に、愛国心たっぷりの歌も歌わされる“アメリカって美しいね。アメリカって最高だ”と。それから授業が始まる。何でやっているのかとか説明を受けたことはないので、洗脳に近いと思うし、もしかしたら日本の戦前と同じような教育を受けているということだと思う。
だけど成長して高校生、大学生になる頃には、“ちょっと待って、あれって何だったの?と思い始めると思う。そこでリベラル的な考えを持った人と、保守的な考えを持った人同士での衝突が起きることになる。“今の教育を正そうぜ、今の国の方向性が正しいのか、検証しようぜ”“お前、愛国心のかけらもないじゃないか。この国が嫌いだったら出て行けよ”“いやいや、国を改善したいというのは、国を愛している証拠ではないか”と。しかし今はトランプ支持者の集会には国旗が掲げられているので、反対派も国のために動こうとしているのに、国旗が使いづらい。日本にはこういうふうになってほしくない。もっとフラットに国旗や愛国心の議論ができるようになってほしい」。
木村氏は「ロイヤルティを求めるアメリカの教育はすごいと思う。そういう教育を受けてきたパックンさんが“日本はそうならない方がいい”とおっしゃるのは、一つの経験の言葉だと思う。日本でも、“教えてもらいたい”ということは良いも悪いも含めて教えていいと思うが、自分で判断していくためには、やはり自分から学びに行き、ダイバーシティ、多様な価値を知ることが必要だろう」と話した。
■「過剰になったり、偏狭になったりするのは良くない」
関西大学の坂本治也教授の調査によれば、愛国心が高い人の方が投票行動にも意欲的だという傾向が示されたという。柴田は「オリンピックも盛り上がっていたし、“住みやすい国だな”といった愛着みたいなものは若い世代の人も持っていると思う。ただ、“国のために働こう”とか“国を良くしよう”という気持ちまで持っている人は、もしかしたら少ないのかもしれない。その原因として思い当たるのは、平成以降に生まれた人たちは、“失われた20年”に育っているので、強い日本、豊かな日本を見ていない。今も先進国では給料が上がっているのに、日本は上がっていない。この国では結婚も子育ても難しいよねという状況では、“国のために”という帰属意識を持つのも難しいのかなと思う」と指摘。
りんたろー。は「何が愛国心なのだろうか。大谷翔平選手を応援したり、日本産のものをセレクトすることが愛国心なのか、いまいち分かっていない」、兼近は「僕はもちろん日本が好きだが、それをどういうふうに伝えればいいか分からない。逆に、“国は僕たちを愛してくれているのか?”と思ってしまう」、りんたろー。は「愛しすぎちゃうと、逆に分断を生んでしまうという思いもあると思う」、平石アナは「それがナショナリズムということだ。オリンピックなどで、“相手を倒せ!”みたいな。スポーツであれば良いかもしれないが、それが行きすぎちゃうと…ということだ」と話した。
木村氏は「国を愛する気持ちがどういうふうに形成されるかは、それぞれによって違うと思う。だけど日本人であり日本語を使って喋っているし、オリンピックで日本選手を応援したいというのは、愛着というか、愛国心の初歩的な問題だと思う。お話にあったように、“国に帰属して、国のために働けよ”と言われるのは嫌だ。だけど、困っている人を見かけたら、ちょっと骨を折ってでも、支援してみようか、となる場合があると思う。それは国の中では小さなことかもしれないが、やがては大きなプラスになる。ただし何であれ、過剰になったり、偏狭になったりするのは良くない。平たく言えば、“バランスが必要だ”ということになるだろう」。(『ABEMA Prime』より)
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